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リトルスター〜鄙びた旅館の女将になった私がテッペンを取るまで。  作者: 間宮芽衣


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【第二話】二食付き一部屋八千円?!


「爺ちゃーん、婆ちゃーん。来たよぉ。」


実家からバスで青森駅まで二十分。そこからさらに電車三十分。

 

 私は祖父母が経営する浅虫の鄙びた温泉宿にやってきた。


 建物には温かみある木の看板に『湯宿 のんびりや』と書いてある。


 ザザーン…と海の音が聞こえる。


(…なぁんか、ここに来ると、寂しい気がすんだよな。)


木の上には白い雪が積もっており、冷気で頬がピリピリする。周りのお店のシャッターは殆ど閉まっている。


 ──店主が高齢でお店自体を辞めてしまった所も多いらしい。


(あーあ。引き受けちゃったけど、こんな田舎…。

 イケメンもいないし遊ぶとこもないし。

 爺ちゃん婆ちゃんばっかしかいねぇし…。確かに帆立は美味しいけどさぁ…。)


 私は白い息を吐くと入り口に入る。

 フロントに誰もいなかったので、私は恐る恐る呼び鈴を鳴らした。


 すると、慌てた様子で奥から婆ちゃんが出てきた。


「あ、婆ちゃん。」


婆ちゃんは少しだけ疲れた顔をしていた。恐らく爺ちゃんが腰を痛めて仕事が増えていたのだろう。


 心なしか、白髪が前より増えた気がする。


「日菜子?! …本当、どうもね。忙しいのに。

 婆っちゃも爺っちゃも、助かるわ。」


私を見て、嬉しそうに笑った。


「ねえ、爺ちゃんは?」


「事務室で、YouTube見てるよぉ。」


そう言われて事務室に行くと、古い事務用の回転椅子に座って『エガちゃんねる』を見ていた。


「爺ちゃん、日菜子だよ。」


私が声をかけると、椅子ごと振り向いてニヤッと笑って人差し指をこちらに向けて、いきなり叫んだ。


「ドーン!」


いつも通りの爺ちゃんに思わず苦笑してしまう。


「はいはい。エガちゃんネタね。…爺ちゃん、元気そうべな。立てる?」


私の言葉で祖父が立とうとしたが、腰に手を当てて顔を歪めたので、慌てて手を差し出す。


「イテテ…。すまん、お手を拝借!」


そう言って私の手を掴んでソファまで移動した。


(…ああ、こりゃ思ったより、ヤバそうべな…。)


「…やっぱ、結構キテるね。腰。」


私が眉尻を下げると、爺ちゃんは苦笑した。


「ああ、もう引退してぇくれーでよぉ。まあ、お客さんが来るうちは、やるばってよ。


 そう言えば、『ステイリンク』っていう会社の『宿こんさるたんと』の人が今日の三時さ、来るってしゃべっちゃーな。


 爺ちゃん、そういうのよくわかんねぇからよ!日菜子も一緒に聞いてくれーい。」


そう言われて、私はがばっと顔を上げる。


「『ステイリンク』?! たげ有名な旅行サイトだよ!CMもやってるし…。


 ──そんな会社の人がこんな鄙びた旅館に何しに来るの?」


ちなみに、私が三年生の時にエントリーシートを出したら、面接にすら行きつかず、速攻落ちた会社である。


「何かよく知らねぇけどよ。周りの宿は全部やってて…ばって、爺ちゃんの旅館だけやってねぇっつうがらよ。載せるのはタダだって言うし。やる事にしたんだわ。」


「タダー?何それ、本当に? 詐欺なんでねぇの?」


そんな事を言ってるうちに、午後二時五十五分になった。


「来ねぇな…。」


そんな事を言いながら、爺ちゃんの渡されたパンフレットを見ながら、ステイリンクの『管理画面』のアドレスを入れてみる。


 どうやらこれを宿のスタッフがいじる事で、『ステイリンク』に掲載されている爺ちゃんの宿の情報が更新されるようだ。


 ログインパスワードとIDを調べながらパソコンの画面と睨めっこしてる時だった。


「ひ、日菜子!た、た、大変っ!

 ――国宝級イケメンがきたんだども!」


婆ちゃんの慌てた謎の叫び声に、慌ててエントランスに走っていく。


 すると、目の錯覚か、キラキラと後光が差して見えた。


「──初めまして。『ステイリンク』、宿コンサルタントの桐谷きりたに 翔真しょうまです。

 担当の方でしょうか?」


そこには名刺を差し出す国宝級イケメンがいた。


◇◇


(いっけめん!こんなイケメン、東京でも会ったことねぇわぁ!)


目の前の座るイケメン、桐谷さんに思わずドギマギしてしまう。色褪せた事務室の中で、彼だけなんだか異質に見える。


「…桐谷さんどこの人?! かぁっこいいですね!」


思わず私がそう言うと、営業スマイルで桐谷さんが口元を綻ばせた。


「…東京です。」

「東京?! 私も東京の大学です!どこの大学ですか?」


私がワクワクして尋ねると、桐谷さんは少し戸惑ったような顔をした、


「あ、いえ。東京出身ですが、大学はコロンビア大です。」


「こ、コロンビア?!

 あ、あの宇多田ヒカルと同じ大学でねぇか!すっげぇ…エリートじゃないですか!


 婆ちゃーん!エリートの桐谷さんに、久慈浜餅とお茶、持ってきてけれー!」


すると桐谷さんはお礼を言ってから、スッとパソコンを取り出して、この旅館の管理画面を開いた。


「『湯宿 のんびりや』様の、『ステイリンク』へのお部屋出しってもう終わってますか?」


その言葉に私の頭に思いっきりハテナが浮かぶ。


「へ?『部屋出し』? …桐谷さん。申し訳ないけど私、ここの孫だけど、爺ちゃんが腰悪くして、今日からで…。


 ──だからそういうの、なんもわかんねぇんだわ。」


すると、桐谷さんが固まってしまった。


「…そうですか。

 ちなみに部屋出し、とは宿の部屋を旅行サイトにユーザーが予約出来るように登録することです。」


私は慌ててメモを取る。


「な、なるほど。さっき私が来て、初めて管理画面にログインしようとすてたんですけども…」


「わかりました。では、部屋出しについては後ほど説明します。


 ところで『のんびりや』様は、今まで旅行サイトなどは、ご利用なさってなかったとのことですが…。


 ──これまでの宿の集客は、どのようにされていましたか?」


すると、爺ちゃんが満面の笑みで答える。


「ああ!電話予約と、大手の旅行会社さんだな。」


「…なるほど。リアルエージェントさんとお付き合いされているのですね。

 その場合、いくらでお部屋を買取して頂いていましたか?稼働率は?」


ちなみに稼働率とは、お部屋が全体に対して、何割大体埋まってますかということらしい。


「二食付きで、一部屋八千円だな!!稼働率は、七割くれぇかな。」


爺ちゃんのその言葉に私は目を見開く。


「…え? ちょ、ちょっと待って!? 二食付きで八千円?!それ、赤字じゃないの?!」


「うん!!ばってよ、もう変えるのも面倒くさくてな!お願いしたら、勝手に売ってくれるからよっ!」


(うわうわうわ!爺ちゃん、何すてんのー!)


「…なるほど。」


桐谷さんは、何かを納得したように頷いた。


「ねぇ、桐谷さん、『りあるえーじぇんと』って何ですか?」


私が戸惑ったように尋ねると、桐谷さんは丁寧に教えてくれた。


「…要するに、昔ながらの旅行会社様です。


 仕組みとしては、ある一定の金額で旅行会社が宿からまとまったお部屋を買い取ります。それを彼らが自分達の言い値で旅行者に売るんです。

 ツアーを組んだり、提携サイトに掲載したり。」


「ああ!旅行会社さんに部屋買い取って貰えば、あとは、勝手さ向こうで売ってけるはんでな! 楽なんだわ!」


そう言って爺ちゃんがガハハと笑う。


 私はその横で、慌ててその旅行会社のウェブ予約ページを開く。


 すると『のんびりや』が、一泊二食、一部屋二名23000円で予約出来るようになっていた。


「え…。これって。」


「…差額が旅行会社の利益になります。


 まあ、他の旅行会社や旅行サイトに出ていれば、逆に他のサイトより安く設定されていらっしゃったりする事もあるんですが。」


(何これ…。なんだか、凄く損すた感!


 実際は一部屋8000円しかうちは貰ってね…。


 ばって、予約してくれた人は23000円だと思っちゅうこと? そして、売ってくれてるとはいえ…。差額の15000円旅行会社が…?)


「まあでも、何もしねぇでも売ってくれるからよ!年寄りにとっては楽なんだよな!

 大きいホテルとかもよ、部屋数が多かったら宿の部屋、全部管理すんの、大変だべ?」


爺ちゃんの言葉で、いくらアホな私でも悟った。


 ──腰以前の問題だ。これ以上、爺ちゃんを放っておいたら大変だ、と。

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― 新着の感想 ―
うわー、素人目にも大変なことになってる…… ここからお話がどう膨らんでいくか楽しみです
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