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服の下を透視する能力を得たら、あなたは何をしますか?  作者: メモ帳ぱんだ


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第14話 ネコと先輩

 俺が心筋梗塞を見つけた逸話を聞いた先輩は、驚いた表情のまま固まった。

 やがて何事もなかったかのように、部屋の中を漁り始める。


「ベッドの下にエロ本とかないんだね」


「こっちの部屋は仕事専用ですからね」


 住んでいる隣の部屋にもないけどね。

 時代はデジタルだ。

 クラウドに全部あるから、部屋の中を見られても困ることはない。


 先輩は、奥の作業部屋にある机の上に放置されている領収書の束を眺めている。

 俺は大量の書類を溜め込んでいる。やる時間はあるんだけど……やる気がなかなか起きない。


「ヒノくんは事務仕事が苦手そうだね! 手伝ってあげよっか」


 なぜか嬉しそうな先輩。父の会社の税務を手伝ったことがあるらしく、得意らしい。


「いや、でも先輩は四年生なんで忙しいんじゃないですか?」


「大丈夫! 大丈夫! 夕方だけの営業だよね

 それに、ここで患者さんと触れ合ってみるのもいい経験になりそうだしね!」


 この人の笑顔は才能だと思う。

 きっと今までの人生でお願い事を断られたことなんて、ほとんどないんだろうなあ。

 そして俺も、気が付いたら首を縦に振っていた。


 というわけで、売上はほとんどないのに事務員だけが増えた。

 お客さんが来る日しか営業していないので、固定コストはそこまでかからないはず……。


「じゃあ、よろしくね! ヒノくんと働くの楽しみ!」


 まあ、いいか。

 先輩は美人で話していて楽しいし、前から女性スタッフが一人必要だろうなって思っていた。

 だって、このアパートで開業している鍼灸院、女性が入りにくい、というレベルではない。


 時給なしで手伝うよと言ってくれたけど、さすがにそれは遠慮した。だって労基のお世話になりたくないし。


「ニャ……」


 物音を聞きつけたのか、壁から顔を出してきたのは飼い猫のファシアだ。

 事務作業をしていても、この子が寂しくないように、壁に穴を開けてある。


 この部屋には綾辻先輩がいる。

 初めて見る人に、恐る恐る近づいてくる愛猫。ずっと室内飼いしているので、俺以外の人はほとんど見たことがないはずだ。


 綾辻先輩は目をキラキラさせている。

 この人は昔から、かわいい動物が大好きなんだよなあ。


「かわいー! この子、名前なんていうのー?」


「ファシアって名前の女の子です。ファシアちゃん、挨拶できるかなー」


 ファシアは興味深そうに、綾辻先輩の足の周りをぐるぐる回っている。


「ニャッ!」


 どうやら先輩のことが気に入ったみたいで、その足元に蹲った。

 あの位置からだと、スカートの中を覗けそうだな。羨ましい。


 先輩は膝の上にファシアを引き上げ、撫でながら呟いた。


「ネコの名前が筋膜(ファシア)……ヒノくんは独創的なセンスを持っているんだね」


 失礼な! ファシアって名前、ぴったりだと思うんだけどな。

 この美しい左右対称の筋肉に一目惚れして飼い始めた子猫だ。


 先輩はファシアを撫でながら、俺が机の上で放置している書類をチェックしてくれている。

 今持っているのは、保健所からの指摘事項の書面だ。


「あれ、これの是正の期限、今月末じゃない。

 役所は再是正も込みで期限を出してるから、早めにやっておかないと」


 うーん、俺より絶対に知識があるな。


 というか、ネコの扱いが上手い。俺より上手いかもしれない。

 ファシアはゴロゴロと喉を鳴らしながら、大人しく撫でられている。

 うちのツンデレ姫が、あそこまでふにゃふにゃになっているなんて、すごい手腕だ。


「先輩、ネコの扱いが上手いですね。長い付き合いの自分でも、この状態にするのに三十分はかかります」


「まあ、実家で飼ってたしね。

 それにしても、この子はヒノくんにすっごく懐いているね」


 警戒心がない、人間を信頼している証拠だわ、と先輩は続ける。

 その俺に懐いているはずの猫は、俺が名前を呼んでも、綾辻先輩のお腹に体を擦り付けながら媚びている。

 うーん、これがNTRというやつだろうか。


 仕方がない。必殺技だ。

 マッサージの時によく使っている小さなタオルをファシアに振り、机の上に敷いた。

 ようやくファシアの視線が、俺の方に戻った。


「おいでー、ファシアちゃん」


「……ニャッ!」


 ファシアは先輩と俺を交互に眺める。

 しばらく悩んだ末、慌てて先輩の手から逃れ、タオルの上に仰向けで寝転がった。

 ふふふ。この子はマッサージ大好き猫なのだ。


 今日は特別に、お尻を重点的にマッサージしてやろう。

 これをやると、しばらくまとわりつかれるから、封じている禁じ手のメニューだ。

 だが、飼い主が誰か思い出させるためには、切り札を切るしかないだろう。


「ニャン……」


 お尻を揉まれたファシアが、気持ちよさそうに悶えている。

 これはメスのネコが、お尻をパンパン叩くと喜ぶのと同じ原理だ。

 お尻はネコの性感帯が近いから、刺激されると気持ちいいんだな。


 俺が放置している書類の点検作業を止めて、綾辻先輩が近寄ってきた。

 間近で見ると、この人やっぱりすごい美人だな。

 少しドキドキする。

 高校生の頃は、この人のことも筋肉の塊としか見ていなかったんだよな、俺。


「さすがマッサージの鬼。すごいエッチな手つきだね!」


「対ファシアちゃんの必殺技です」


 手を止めると、足を振って続きを催促してくるファシア。かわいい。


 半分くらいネコの話題だったが、いろいろ今後の打ち合わせをして、先輩は帰っていった。

 ファシアは寂しそうに、先輩が出ていったドアを見ながら鳴いている。

 キミは俺のネコだからね。勘違いしないように。


 とにかく、俺に頼りになる仲間ができた一日だった。




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