表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
服の下を透視する能力を得たら、あなたは何をしますか?  作者: メモ帳ぱんだ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

11/11

第11話 警官十一人殺しの日野

 合同練習の練習試合で俺は大人気だった。

 本来なら実力に合わせたマッチが組まれるはずなのに、なぜか一試合目に相手の部長とのマッチが組まれている。どう考えても意図的だ。


 日下部先輩が抗議しようとしてくれていたが、わざわざ余計な軋轢を生む必要もないので止めておいた。

 綾辻先輩は俺の近くまで来て、小さく笑っている。


「うちの部員がごめんねー。みんないい子なんだけどね」


「なぜか僕だけ五試合もあるんですけど……絶対、先輩のせいですよ」


 先輩がさらに距離を詰め、俺の耳元で囁いた。近い、近い。

 この人の顔をまともに見てしまったあとだと、無駄に心拍数が上がる。


「でも、ヒノくんなら勝てると思うよ」


 そう言って、何が面白いのかクスクス笑っている。

 これ以上、周りを煽るようなことをしないでください。俺が完全に悪役ポジションじゃないですか。

 この人が周囲への影響を分からないわけがない。どう考えても確信犯だ。


 俺の大学での初めての試合は、明らかに強そうな向こうの部長だった。

 装備からしてガチだし、鋭い目つきにも気迫が滲んでいる。


 正直、迫力がある。というか、殺気すら感じる。

 綾辻先輩は近くで俺を応援してくれているが、それを見た相手の部長の殺気が、さらに強まった気がした。

 応援すべきは自分の部長じゃないのか、と思ったが……

 まあ、この人は自由人だからな。


 さて、試合は真剣にやらないといけない。

 相手は上段で構えている。見た目も動きも様になる、割と珍しいタイプだ。


 立ち合いの最初、相手は露骨に間合いを外していた。

 打たせて、受けて、返さない。

 私怨で試合を申し込んできたとはいえ、弱い者いじめをする気はないらしい。踏み込みも半拍遅い。

 これは完全に、指導する側の動きだ。


 だが、数合打ち合ううちに、相手の動きに微妙な変化が出てきた。

 数合交えるだけで、相手の実力は大体見えてくる。


 ――あ、これ、本気になり始めてるな。


 どうやら俺は、全力を出すに値する相手だと認めてもらえたらしい。

 相手の太腿が、踏み込む直前にわずかに震える。

 腰の回転が、さっきまでよりも確実に速くなっている。


 何合か、相手の攻めが続く。俺は受けるだけ。

 相手の踏み込みに合わせて、俺は動かない。


 勝負を決めるつもりで相手が面を打とうとした、その一瞬。

 向こうの胴が、はっきりと空いた。


 滑り込むみたいに、身体が前に出る。

 相手の剣が上がりきる前に、ヌルッと胴に入った。


「胴!!」


 俺の声が遅れて響き、道場が一瞬で静まり返った。


 審判が言葉を探すように一拍置いてから、旗を上げる。


「……胴、あり」


 対戦相手は、面の奥で目を見開いたまま、しばらく動けずにいた。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇


 道場のあちこちから、ざわめきが起こる。


「部長が負けた……?」

「部で一番強いんだぞ」


 綾辻先輩が、はしゃぐように手を振っている。


「流石、ウチのヒノくん!」


 ウチの、ではありません。あなたは阪大側の人間ですよね。

 戦った相手の部長が、小さな声で綾辻先輩に何かを聞いている。


「負けたことを気にしなくて大丈夫! あの子、インターハイ三位だからねー」


 少し大きめの声でそう言い、相手の部長をさりげなくフォローしている。

 この人は、気楽そうに見えて、こういうところで相手の立場をきちんと守る。昔から、そういう人だった。


 その言葉に、周囲の空気が一段階変わった。

 驚きというより、何かを思い出そうとするような、妙な沈黙。


 誰かが息を呑み、ぽつりと呟いた。


「あれ、もしかして……『警官十一人殺しの日野』か……?」


 その呼び名を聞いた瞬間、胸の奥が少しだけ重くなった。

 何度も耳にしてきた名前だが、慣れたとは言えない。

 中学時代、能力が発現した時に暴れたエピソードから付けられた呼び名だ。


 でも、一つだけ訂正させてほしい。

 俺は警官を殺してはいない。確かに十一人倒したが、死者は出ていない。

 数人は入院したらしいが、全員に謝罪文も書いて、許してもらっている。


 そんな視線を浴びていると、自然と高校時代のことを思い出してしまう。


 高校時代の俺は、剣道にすべてを注いでいた。

 ただ強くなりたかったわけじゃない。

 この能力――呪いとも言えるそれの、使い道を探していたからだ。


 インターハイ三位という結果も、実力というより能力に頼った部分が大きい。

 剣道は動と静のスポーツだ。

 俺は特に、静――睨み合いにめっぽう強い。

 相手が次に何をしようとしているのか、筋肉のわずかな兆しで分かってしまうのだから。



 物思いに耽っていた俺に、次の対戦相手が声をかけてくる。

 その後も俺は大人気だった。

 組み合わせ順を無視して、相手の部員全員が挑んでくる勢いだ。

 強い相手と戦いたい……というより、私怨を感じるのは気のせいだろうか。


 試合の合間に、綾辻先輩が声をかけてきた。


「ヒノくん、この後暇よね。再会を祝してご飯行きましょ」


 周りに聞こえるように言ってるし、完全に煽ってますよね。

 この人は、自分がモテることを分かっていて愉快犯的にイタズラしている。

 俺は昔から、その遊び相手にされがちだった。


 重い剣道具を持ってきていることを理由に断ろうとしたが、


「車で来てるから家まで運んであげる!」


 と、あっさり逃げ道を塞がれた。


 阪大の部員を全員倒す勢いで練習試合を終え、ようやく連戦が終わった。

 何試合やったのか、正直覚えていない。


 綾辻先輩に腕を掴まれ、男たちの恨めしそうな視線を一身に浴びながら、俺は剣道場を後にした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ