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季節外れのゴーヤチャンプルー

「あ、こんな季節なのにゴーヤが安い。」



今日は仕事が早めに終わったから、一階と地下がテナントになっているマンションにあるスーパーで買い物をしていた。



屋外にあるかごを取り、自動ドアをくぐって店内に入ると野菜コーナー。色々と見回っていく中、個人の農家さんコーナーに季節外れのゴーヤがおいてあった。



今はどんな季節でもゴーヤが手に入るけど、やっぱりゴーヤと言えば夏が旬。値段も夏だと100円台で手に入るけど、それ以外の季節では300円台は下らない。もう冬の足音が聴こえそうな時期だったけど、そこにあったゴーヤは150円という値付けだった。



大きさこそ、真夏のゴーヤほど大きいものではなかったのだけど、なかなかおいしそうなゴーヤだった。ずんぐりむっくりしていて、結構肉厚そうに見える。これで今日の晩御飯のメニューは決まった。久しぶりにゴーヤチャンプルーにしよう。



ゴーヤをかごに入れ、玉ねぎ、豆腐、ツナ缶と、最短距離で回ってかごに入れていく。卵は家にあったはず。スパムミートとも思ったけど、どちらかというとツナ缶のほうがいい。



家に帰り、ゴーヤを半分に切る。半分はラップをして、後日の分。それを縦半分に切り、ワタを取り除き、スライスしていく。僕はどっちかと言えば、肉厚なのが好きだから、厚めのスライスにする。苦いのが苦手な人は薄切りにして、塩水に浸しておくといい。



『サラダ油はひかなくてもいいの。ツナ缶の油で十分だから。』



沖縄出身の友達、ともちゃんの言葉が頭によぎる。ゴーヤチャンプルーについて、沖縄人の言葉は、神の言葉にも等しい。



パカっとツナ缶を開け、油ごとフライパンに入れる。そのままボーっとしているとツナがパチパチと弾け始めるので、すぐさま玉ねぎとゴーヤを投入する。しんなりするまで良く炒めたら、豆腐を入れて卵を割り入れる。味付けをして、卵が硬くなる前にあげ、鰹節をたっぷりかけたら出来上がり。



ともちゃんと出会ったのは、歌舞伎町のフィリピンレストランだった。深夜2時にふらっと現れたともちゃんは、レストランのキャロルママの友人だった。僕と同い年ぐらいだったのもあって、直ぐに意気投合し、良く夜遅くまで一緒に過ごした。



聞けば何軒かの夜のお店のマネージャーをしていたのだけど、言ってみればオーナー社長の女で、お店を任されていたということだった。沖縄人としてはあっさりとした顔つきで、濃い顔の東北人の僕のほうがよっぽど沖縄人のようだった。明るい性格だったけど、さっぱりしていて、自分の悩みやプライベートはあまり明かさない人だった。僕がレストランに来ていないと、電話で呼び出してくれて、週末の朝まで一緒に話をしたものだった。



味付けは、塩コショウのみ。



これも、ともちゃんの教え。



ツナ缶から味が出るし、あとは塩コショウだけでいいということだった。



それまでは、醤油を入れたり、ちょっと甘みをつけたり、鶏がらスープを入れたりといろいろやってみたけど、ともちゃんの言うように、塩コショウだけのほうが、ゴーヤや玉ねぎ本来の美味しさが引き立つし、振りかける鰹節の香ばしさも味わえて美味しい気がする。



『私、沖縄に帰ることにしたの。』



そうか、うん。分かったよ。



僕にはそれしか言えなかった。社長と何かあったのだろうか。仕事させられるだけで、二人の関係は進展しなかったのだろうか。社長とは一度も会わなかったけど、どんな人なのか、いくつぐらいの人なのかも知らなかった。



あれからもう、15、6年はたっただろうか。



沖縄に戻ったともちゃんは元気だろうか?



言葉の明るさとは裏腹な、ちょっと憂いのある笑みは、沖縄の太陽のような満面の笑みになっているだろうか?



出来上がったゴーヤチャンプルーは、いつも通り、シンプルで飾り気のないおいしさだった。教えてくれたともちゃんの性格のような味。



『タク、今から歌舞伎町に遊びにおいで!』



そんな、ともちゃんの声が聞こえてくるような気がした。


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