098.闇夜の襲撃・壱
:十兵衛くんたちもう二十二層かぁ。
:早くね?
:いや、二十層超えてる時点で早いんだわ。
:それはそう。
:でも十兵衛くんたちの実力は下層探索者に劣らないんだよなぁ。
:この前も模擬戦してたけど大人気だったな。
:もう興行だよな。金取れるレベル。っていうか払いたい。
:払ってでも見たいけど探索者しか見られないんだよなぁ。
:最澄くんも茜さんも十兵衛くんもめちゃ強かったぞby下層探索者
:全員とやったのかよ!
:はははっ、羨ましかろうなのだ。
:くっ、羨ましすぎる。
:だが俺たちには力が足らない。軽くあしらわれて終わる未来しかない。
:俺は中層探索者だけど色々アドバイスしてくれて助かったぞ。
:結構面倒見いいよな、十兵衛くんたち。
:強くて格好よくて性格も良いってどういうレベルだよ。聖人かな?
:いや、聖人でしょ。
:もう九月か。前の配信で二十五層目指すとか言ってたけどマジで超えるんかな。
:夏休み中に攻略するんだろ? マジかよって思った。普通は一年とか掛けるのに一ヶ月でそれだけのレベルあげるんだぞ。
:配信観てたらわかるけど、エンカ率めちゃ高いんだよなぁ。そして短時間で殲滅してるから他の探索者よりもたくさんの経験値得てるんだよなぁ。
:明らかにレベルアップしてるよな。全員。
:うん、それに単純な技量も上がってる。ダンジョン以外でも頑張ってるんだろうなぁ。
:それにしても十兵衛くんのあの動きなんなん?
:あれはマジで謎。
:下層どころか深層探索者でも相手できそう。
:深層探索者はあまり配信しないのが多いからなぁ。
:〈鈴香〉そんなことはありませんよ。
:鈴香さん降臨!
:Aランク探索者の先輩なんだよなぁ。
:鈴香さん美しいよな。クランも仕切ってるし、本当凄い。
:よっ、日本の女神!
:〈鈴香〉やめてください、みなさん。ほら、十兵衛くんたちが戦いますよ。
:おっ、またエンカか。よくやるなぁ。体力お化けすぎだろ。
二十一層を抜けるには大体六時間くらい掛かっている。往復で十二時間だ。それでは掛かりすぎだ。できれば三時間くらいで駆け抜けてしまいたい。
だがまずは二十二層の攻略だ。二十二層は同じ洞窟型ダンジョンでマップもある。ただ枝道も多く、バックアタックや奇襲を受ける事も多い。結構面倒なマップになっている。
エンカウント率も高い。ルートも最短ルート、推奨ルート、安全ルートなどがあるが、下層探索者は様々なルートを取る。ルート外に出て戦っている十兵衛たちの取る道は、当然モンスターの駆除がなされていなくて即エンカウントする。
「最澄、そっちいったわ」
「火炎魔法・〈火炎柱〉」
「雷魔法・〈雷槍・重〉!」
十兵衛は音もなくブラックゴブリンの首を二つ刎ねる。メイジに十字手裏剣を叩き込み、魔法の発動を阻害させる。ゴブリンジェネラルは今度は前に出てきている。この方がやりづらいが、経験にはなる。
最澄がジェネラルの一撃を受け止め、なんとか短槍で攻撃しようとしているが最澄には隙が視えていない。故に攻撃ができず防御だけになっている。
(最澄の経験には丁度良いだろう)
そう思い、周りの露払いをする。茜もそう思ったのか横槍は入れない。茜が加勢すればゴブリンジェネラルも当然倒すことができる。だがそれでは最澄が成長しない。タンクであろうとも、ジェネラルくらいは倒せるようになって貰わなければならない。
「はっ、〈火炎槍〉」
最澄が吠える。ジェネラルの槍を受け流し、火炎魔法でジェネラルを焼く。一対一のこの状況でどこまで戦えるのか。見ものだ。
最澄は常に小刻みなステップを使い、ジェネラルからの攻撃をしのいでいる。盾の使い方もうまくなってきている。後は鎧をうまく使えば良いのだがそこはまだのようだ。
「鎧術は教えないの?」
「教えているわよ。でもあれは難しいのよね」
鎧術とはどこで攻撃を受けるか、どの角度で受けるかなどで相手の攻撃を鎧で受け流す武術の事だ。当然ダメージは入るが、直撃するよりもダメージは半減する。更に相手に隙を作らせて攻撃するチャンスにできる。
最澄がそれを覚えればチーム・暁はより安定した戦いができる。
ただもちろん一朝一夕にできるものではない。まずは盾と短槍、そして火魔法を使えるようになるのが先決だ。そう茜は言う。そしてその意見には十兵衛も賛成だった。
二兎追うものは一兎も得ず。一石二鳥は狙ってできるものではない。まずはできることから、しっかりと基礎を固めなければならない。
最澄は武術に触れては居なかったが、高校時代の探索経験がある。独学であるがなかなかの腕に育っていた。つまり武術の素養はあるのだ。
「決着がつきそうね」
「あぁ、安心して背中を任せられるようになってきた」
「あら、まだまだよ。十兵衛くんは甘いからそう言うけれど、十兵衛くんの上達スピードに全然追いついていないわ。これでは脱落するかも知れないわね」
「茜は厳しいな」
ついに最澄の攻撃がジェネラルに届く。ジェネラルは塵に成り、魔石を落とした。ついでにジェネラルの持っていた武器もドロップする。下層のドロップはどれも驚くほど高額で売れる。武器は大きすぎるので鋳潰して人間用の武器として打ち直すのだ。
下の層に行けば行く程ダンジョン産鉱物の純度が良い。それだけ良い物が作れると言う事だ。
「さて、今日は帰ろう。帰り道も君たちで行けるね?」
「いけるわ」
「大丈夫だぜ」
「任せて~」
「よし、その調子だ」
そう言って十兵衛たちは帰路に着いた。
◇ ◇
「十兵衛ちゃんお疲れ~、ありがとね~」
「梨沙もゆっくり休んでな」
新宿ダンジョンで解散すると北条家から梨沙の迎えが来る。家に帰るまでが護衛なので十兵衛は同乗する。当然ながら梨沙の乗る車の前後には風魔忍者の乗るゴツい車が護衛していて、安全を確保している。
そして梨沙が北条家に帰ると、そのゴツい車で十兵衛は家まで帰るのだ。
北条家から風間家までの間には幹線道路もあるが、山道を通った方が早い。故に山道を使う事が多い。渋滞が有る場合は幹線道路を使うと帰りが遅くなるのだ。
どちらにせよもう夏でも日が落ちている時間だ。何せ二十一層だけで往復十二時間。二十二層で三時間戦闘していたのだ。合計で十五時間。朝八時にスタートしてももう夜だ。
「止まれっ」
十兵衛の〈危険察知〉が反応する。二台の車は常に通信で情報を共有しているので前の車が急ブレーキを掛ける。十兵衛の乗っている車も止まる。追突は免れた。信頼する運転手の腕は良いのだ。
「若、何が?」
「おそらく爆弾だ。襲撃が来るぞ。皆、散れ」
車に乗っていた全員が飛び出す。するとロケットランチャーが飛んできて二台の車は炎上した。
「ここまでやるか」
「若、護衛します」
「俺も戦う。この相手は手強そうだ」
十人の風魔忍者に襲撃を掛けるのだ。自信がなければやりはしない。それほど風魔忍者や闇の世界でも名を売っている。
風魔には手を出すな。そう言われているそうだが、それでも尚、手を出してきた。それだけの自信が、戦力があるのだ。
十兵衛は〈危険察知〉に伴って即座に顔を避ける。音もなくライフル弾が十兵衛の頭のあった場所を通り過ぎる。銃声は近い。
「スナイパーだ!」
「煙玉を使え」
即座に煙玉が使われ、スナイパーの視界を遮る。暗闇の中での狙撃などそう簡単に出来る訳がない。だが相手の狙いが十兵衛であることははっきりした。
他のメンバーも上忍である。狙撃を避けるくらいの能力は持っている。全員下層、深層探索者なのだ。
「出てこいよ。遠距離でしか攻撃できないのか?」
山の中で十兵衛の声が響くと、黒尽くめの男か女かもわからない者たちが二十を超えて現れた。




