095,〈龍眼〉と下層探索
とある掲示板にて。
:十兵衛くんたちチーム・暁とレオさんたちチーム・アレクシオンがA級にランクアップだって!
:マジ凄い。
:いや、探索五ヶ月でなれるもんじゃないのよ。
:だから日本最速なんだろ。
:ギルドもめっちゃ期待してるんだろうなぁ。
:B級の頃から専属受付嬢付いてたからな。
:いいなぁ、専属受付嬢。俺下層冒険者だがついてないぞ。
:そこは深層まで行かないと。
:俺に死ねと?
:まぁ深層は遠いよな。上澄みも上澄みよ。
:でもチーム・暁なら行けると信じてる。
:俺も信じてる。
:応援して毎回投げ銭してる。これで良い装備買ってくれますようにって。
:実際装備に相当投資してるよな。幾ら掛かったんだろ。
:多分目を回す金額だと思うぞ。一般人からしたら。
:下層で通用する武器とか普通に何千万とか億単位だからな。
:それ生涯年収なんよ。
:普通はな。だけど探索者は違う。月に何千万って稼ぐプレイヤーがわんさかいる。
:お陰様で平和に暮らせています。だから幾ら収入を貰ってもいいと思う。
:それな。
:探索者様たちがいないと日本は崩壊してるからな。
:自衛隊にも警察にも頭上がらんのよ。
:あの神奈川県警が実績出して評価上がってるの笑う。
:それな。不祥事も多いけど上級探索者いっぱい排出して犯罪率減ったもんな。
:やっぱ探索者が犯罪者になると怖いんよ。一般人が勝てる訳ないじゃなん?
:目で追えない速度で動くからな。力も大人と子ども以上の差があるし、正直探索者の犯罪者に狙われたら命が残ってたらラッキーくらいで。
:警察も自衛隊もしっかり対処してもろて。
:いや、十全に頑張ってるだろ。他の国見ろ。めちゃくちゃだぞ。
:そうだな、日本は平和な方だよな。
:それでも犯罪はなくならないんだけどな。
:十兵衛くんみたいな忍者たちが秘密裏に裏組織潰してるって噂本当なのかな。
:いや、十兵衛くんっていう証人が居るんだから、忍者は擬態してるだけでいっぱいいるでしょ。
:それな。配信しない上級探索者も多いからな。
:日本は忍者に裏世界を握られていた?
:いやそれは陰謀論が過ぎるんよ。
「暑い」
「暑いね~。ってか十兵衛ちゃん大丈夫? ちゃんと寝てる? 顔色悪いよ」
「大丈夫だ、梨沙。なんとか制御できるようになったから」
北条家の車の中で梨沙と話す。今日の気温は三十七度である。猛暑がきつい。
十兵衛は二十層ボスを攻略した後、三日の休暇をメンバーに伝えた。お盆休みはあったが、梨沙も十兵衛も忙しかった。茜も最澄も道場に入り浸りだったらしいし、休暇とは言えない。故にゆっくり休むように言い聞かせた。
梨沙からデートの誘いはあったが全て断った。苦渋の決断であったが、〈龍眼〉の制御ができていなかったのだ。今も万全とは言い難い。だが勝手に発動することはなくなった。
〈龍眼〉は様々な機能を持つ。例えば〈透視眼〉と言う魔眼がある。他にも〈予見眼〉と言う魔眼がある。〈龍眼〉はそのどっちの特性も持っている。おかげでくノ一の裸を意図せず見てしまったりして気まずかったりする。まぁ見られたくノ一は気にしていなかったのが救いか、と十兵衛は思い返す。
ちなみに真は〈予見眼〉を持っていると言う。下層で落ちる魔眼のスキルオーブの中ではかなり良い奴だ。そしてその上位互換である〈龍眼〉を十兵衛は貰ってしまった。
恩を返そうと思っても返しきれないほどの借りだ。だが真は十兵衛が頭領としてしっかりと風間家を纏めてくれれば良いと言っている。
確かに大事なことだ。十兵衛の判断一つで風魔忍者の行く末が決まるのだ。だが今すぐにやらなければいけないことではない。今はそれは琢磨の役目であり、十兵衛は琢磨からはまずは自身を鍛えることを優先しろと言われている。
「父上や母上、真おじさんにしごかれてね」
「あ~、ね」
嘘は言っていない。〈龍眼〉を使いこなす為に琢磨や静、真に幹部格の上忍たちにしごかれたのは事実だ。おかげで休暇らしい休暇にはならなかった。
だが三日と期限を切ったのは十兵衛だ。予想し得ない〈龍眼〉を得たが、約束は守らなければならない。故に十兵衛は梨沙と一緒に新宿ダンジョンに向かっている。最澄と茜はもう着いているだろう。
「もうすぐ着くよ」
「あぁ、そうだな」
「十兵衛ちゃん本当に大丈夫?」
「あぁ、大丈夫だ」
それほど辛そうに見えるのだろうか。だが十兵衛は平常心で暴れる〈龍眼〉を抑えて居た。今忍術を使えば暴発しかねない。だが戦える。問題はない。
〈龍眼〉を得たと言う事は龍の因子を身に宿す事だ。かのガストン・ガーランドも〈龍眼〉を持っていると言う。他にも世界に数人、〈龍眼〉持ちが確認されているが、全員が全員公表する訳がない。そういう訳で、実際に〈龍眼〉持ちがどれだけいるかは闇の中だ。
「お、十兵衛と梨沙。なんだ、十兵衛。珍しく調子悪そうじゃないか?」
「梨沙ちゃん、十兵衛くん。三日ぶりね。久しぶりってほどじゃないけれどいつも一緒に居たから不思議な気分だわ」
最澄と茜はやはり既にギルドに着いて先に待っていた。フル装備である。当然梨沙も十兵衛もフル装備だ。
「そんなに不味そうな顔してるか?」
「あぁ、いつもは元気いっぱいで頼りがいのある顔だが、今日のは不安だな」
「今日のダンジョンアタック止めて置いたほうが良いんじゃないかしら?」
最澄と茜にも言われてしまった。だが十兵衛はその気はない。体調が万全ではないからと戦えないのでは忍者はやれない。仮令腕を落とされようと戦うのが忍者である。
むしろ自身を鍛えるチャンスだと思うことにする。
「いや、行こう」
「まぁ十兵衛がそう言うなら良いけどよ」
「私も異論はないわ。このパーティのリーダーは貴方よ。十兵衛くんが行けると言うなら行くわ」
「どっちみち今日は二十一層の力試しだけだ。三人で戦ってくれ。俺の援軍は期待できないと思って背水の陣で頼む」
「わかったよ~。十兵衛ちゃんは後ろでしっかり休んでて」
十兵衛は身の内側に迸る龍気をなんとか制御する。これを自在に使えるようになれば、世界最強のガストン・ガーランドにも匹敵できる。それだけのポテンシャルはある。だがそれは制御できれば、の話しである。
当然ながら制御できなければ宝の持ち腐れだ。
ガストン・ガーランドのインタビュー記事にも〈龍眼〉の制御は大変で、暫くはダンジョン攻略も進まなかったと見た事がある。世界一の探索者ですらそうなのだ。
まだレベルも彼らに比べれば低い十兵衛が制御できるのか。いや、制御できるようにならなければならない。真は十兵衛ならば使いこなせると信じてこれを預けてくれたのだ。その信用に答えない、なんて選択肢は有り得ない。
「とりあえず入ろう」
十兵衛たちは二十一層の入口に転移した。マップの通り久しぶりの洞窟型で、だが洞窟が広い。
オーガが二十一層に出るのはレアではあるが、ブラックオークなどは出る。強敵だ。今までのオークと比べてはならない。それにオークジェネラルに率いられたオークたちも現れる。簡単には下層はいかないのだ。
更にトラップも凶悪になる。今までトラップは全て十兵衛が看破していたが、全員が〈危険察知〉を覚える必要がある。
誰かが間違えてトラップを踏めば即死攻撃になる可能性があるのだ。
そこは重々言い聞かせているので大丈夫だとは思うが、こういうのは幾度でも確認するべきだ。
「さぁ行こう」
「あぁ」
「腕が鳴るわ」
「がんばるよ~」
十兵衛たちの初めての下層探索が今、始まる。




