092.A級ライセンス
「お帰りなさいませ! チーム・暁とチーム・アレクシオンの皆さん」
「あぁ、ただいま。如月さん」
「ただいまです」
「どうも、お迎えありがとうございます」
「ただいまだよ~!」
十兵衛たちチーム・暁とレオたちチーム・アレクシオンが帰ってくると美香が待ち構えていた。配信を見ていたのだろう。
美香だけでなく、多くの探索者が十兵衛たちに注目していた。下層への進出、そしてイレギュラーのボス部屋を怪我人だけで死人を出さなかった。それだけで快挙なのだと言う事くらい十兵衛でもわかる。
「おめでとう」
「これでチーム・暁もチーム・アレクシオンも下層探索者だな。ようこそ地獄へ!」
「待ってたぜ!」
「また訓練場で手合わせしてくれよ」
年齢がかなり上のパーティの人たちから声を掛けられる。だが顔を知らないと言う訳ではない。幾度かすれ違った事もあるし、下層探索者であるので有名人でもある。
「それでは風間さんたち、それに日向さんたち。こちらへ。A級ライセンスの発行を致します」
「「えっ?」」
十兵衛とレオがハモった。A級ライセンスは下層でそれなりに活動し、ギルドに貢献しなければならない。二十層をクリアしたから即発行とはならないのがギルドの常だ。故に不意を打たれた。
「チーム・暁はブラックゴブリン・ジェネラルやブラックヴァイパーの討伐、それにクイーンビーやクイーンアントの討伐実績があります。チーム・アレクシオンもゴブリンキング戦で指揮を取って頂きました。十分A級に値するとの協会の判断です。むしろ二十層を早く突破して下層を探検して頂きたいと言うのが上の意向です。風間さんと北条さんはA級への最短到達者の記録更新ですね。探索者になって五ヶ月弱でA級へ上がるのは二本ではありません。外国だと色々と制度が違うのでまた違いますが、快挙には間違いありません」
ちなみに国内に限れば最年少A級探索者でもあるらしい。ただ海外では十五歳から潜れたりするので、十七歳のA級探索者なども居ると言う。
WDA・世界ダンジョン協会の規約は様々な国に使われているが、それぞれの国で文化や政府の意向などによって変えられている。A級ライセンスも海外で通用するかと言うとそうではない。その国の協会に認められなくてはならない。
だが日本はダンジョン大国の一つだ。ダンジョン産業が活発で、探索者も多い。そして探索者の質が高い事でも有名だ。国外に出ても日本のA級ライセンスを持っていると優遇されると言う。
「まぁ海外を見てる暇はないよな。国内の他のダンジョンにも潜った事ないし」
「そうだね~、あたしも他のダンジョンとか潜ってみたいな~。名古屋とか大阪とか」
「私も興味あるわね。でもまずは下層の攻略からよね」
「そうだな。他のダンジョンはまた一階層から始めないとだから大変だよな」
美香にライセンスを預けた十兵衛たちは休憩所で待っていた。レオたちも当然同じだ。
「そういえば前に入っていったパーティはどうなったんだろう」
「あ、それあたしも気になる。良い感じのおじさんだよね」
「あんな、俺はまだおじさんじゃなくてお兄さんって呼ばれたいんだが」
「うわでた!」
二十層最奥で話しかけてきたおじ……お兄さんが現れた。十兵衛は気付いていたが他のメンツは気付いていなかったらしい。いや、レオや健一は気付いていた。
「俺たちは二人重傷者が出たけれど一応下層へ到達できたよ。死人が出なくて良かった。前に入ったパーティは二人死人が出たらしい。それに比べれば遥かにマシだな」
「あ、おじさんなんて言ってすいません」
「いや、いいんだよ。嬢ちゃん達から見たらおじさんって言われても文句言えねえ」
お兄さんは苦笑しながら十兵衛たちを見る。
「しっかし俺たちが十年掛けて到達した階層にたった五ヶ月でねぇ。すげぇなぁ。若さってすげぇって言いたいけれど若い奴等は普通まだ低層を潜ってるんだよな。中層に辿り着いているのも稀だ。それが中層を突破して下層探索者とはもう才能と努力が違うとしか言いようがねぇな」
「そんなこと言わないでください。そちらも立派な下層探索者でしょう」
「まぁそうなんだがな。やっぱオーガはつえぇわ。アレとこれから渡り合っていくと思うと……な」
十兵衛は言いたい事はわかる。下層に潜れば普通にオーガが出てくる。下層の更に下の方にはオーガリーダーに率いられたオーガたちも出没するのだ。当然他のモンスターたちも軒並み強化されている。
十兵衛たちは二十一層で暫くレベルアップと訓練に励むつもりだが、当然その後は二十五層突破。そして三十層突破を見据えている。
何時になるかはわからない。だが近いうちに。できれば今年度中には下層を突破して深層探索者になりたいと思っている。ただそれは十兵衛がそう思っているだけで、他のメンバーがついて来れるペースかどうかは判断が難しい。やはり地道にモンスターの数を狩って、レベルアップして適正階層に潜るのが正しいのだ。
十兵衛たちは突っ走りすぎている。それは最短記録保持者と言う事だけでもわかる。通常はこれほどの速さで攻略などしないのだ。
「まぁ頑張ってくれや。俺たちは俺たちで下層で頑張る。お前たちもお前たちのペースで攻略する。間違っても死ぬなよ」
そう言って男は去って行った。
「良いお兄さんだったね」
「あぁ、経験豊富そうだな。一緒に攻略をしてみてもいいかもな」
「そうね。やっぱり熟練って感じがするわよね。私たちは十兵衛くんに頼りすぎだわ」
「そうか? 皆ちゃんと強くなっているぞ。オーガソルジャーときちんと渡り合っていたじゃないか」
十兵衛が褒めると三人は照れた。
「十兵衛ちゃん直球過ぎるよ」
「あぁ、十兵衛ってそういうところあるよな」
「まぁ十兵衛くんだしね」
「なんだそれは」
十兵衛が呆れた所で笑いが起きる。
「あははっ、十兵衛たちは良いパーティだな。私たちも負けてらんないよ。ところで十兵衛、相談があるんだが?」
「なんですか? レオ先輩」
「クランを作る気はないか? 多分相当数の実力者が集まるぜ」
十兵衛は少し考えた。十兵衛の認知度ならおそらく相当の申し込みがあるだろう。だがそれはメリット・デメリットがあり、即座に決める事はできない。ただどこかのクランに所属するよりかは自分たちで作った方が楽なのは間違いない。
「それはレオ先輩たちが俺たちが作ったクランに所属したいって事でいいんですか?」
「そうだ」
レオがなぜそんな事を言ったのかを考えて聞くと即答で返ってきた。
クラン設立。そんなことは考えた事がなかった。北条家のバックアップがあれば十分だったからだ。
だが今回のチーム・アレクシオンとの共闘で色々と考えるべきことが増えた。共闘とはシナジーを起こすことなのだ。一足す一は二ではなく、三にも四にもなる。それを起こす為に、クランと言う制度はある。
レオたちは今後も十兵衛たちチーム・暁と組んでいきたいと思ってくれているのだ。それはとても有り難い事だと思った。
仮令チーム・暁の攻略速度にレオたちがついて来れなかったとしても、十兵衛たちよりも長年探索者をやっているレオたちの経験に基づく探索のノウハウには十兵衛たちは敵わない。
「え、チーム・暁がクラン作るの?」
「俺たちも入りたい」
「くそっ、俺も入りたいが今のクラン脱退できねぇ」
「俺も契約が……」
それを聞いて居たのか様々な探索者が反応する。
下層探索者なら大概が大きなクランから勧誘を受ける。十兵衛たちも下層に到達する前に誘いは多くあった。企業からの契約交渉もあった。それらは北条グループがバックにつくことで断る事ができたが、優秀な探索者たちを集められるならそれに越した事はない。
十兵衛たち以外にも期待の新星と呼ばれているパーティは幾つもある。まだ中層に達しているくらいの者たちが多いが、多くのクランが狙っているのである。
「すぐには決められないので保留でいいですか」
「もちろんさ。こんな大事なこと即答されたら困っちまうよ」
レオはあははと笑った。
「皆さん、ライセンスの更新ができました。これで晴れて皆さんはA級探索者です。A級の名に恥じぬよう、これからも協会に貢献して頂けると助かります。その代わり、協会もできるだけバックアップさせて頂きます」
詳しく聞くとダンジョン探索で得られたドロップの売却への税金が減ったり、カウンターへの優先権など色々と優遇政策があるらしい。
なるほど。A級ライセンスと言うのは強いらしい。十兵衛の印象はそれだった。




