091.二十層までの道程・終
「外れだね。ってかイレギュラーじゃないかい?」
「いやぁ、運が悪いのかな。そんなつもりはないんですけどね」
二十層ボス部屋。そこにはオーガリーダーとそれに率いられる軍団が居ることは知られている。そして数は十から十五。最大で十五な筈なのだが、眼前には二十のオーガの姿がある。
当然強力なオーガメイジ、オーガシャーマンも居る。オーガタンクがそれらを護っている。奥にはオーガリーダーが居り、十兵衛たちを待ち構えたとばかりに金棒を持っている。
アレで、オーガの膂力で殴られれば誰でも無事では済まない。
「十兵衛くん、悪いが君の忍術に頼らせて貰うよ」
「任せてください」
レオは十兵衛にそう言い、十兵衛はそれに即座に応えた。
「風遁・〈風刃乱舞・嵐〉」
「火炎魔法・〈火炎竜巻〉」
「雷魔法・〈雷嵐〉」
「土魔法・〈土槍〉」
「風魔法・〈風の舞踏〉」
十兵衛の〈風刃乱舞〉が二十のオーガたちをズタズタに斬り裂く。最澄の火炎魔法が、梨沙の雷魔法が、健一の土魔法が、遥の風魔法が広い空間を埋め尽くすようにオーガたちを襲う。
だがオーガメイジが結界を張り、シャーマンが対抗魔法を唱える。
十兵衛たちの一撃はオーガリーダーまでは届かなかった。オーガタンクに防がれ、前方に居たオーガソルジャーたちを四体倒すに至っただけだ。
だがそれでも他のオーガソルジャーたちは傷ついている。腕が落ちている者も居る。十分にダメージは与えられた。
「行くよ、みんな!」
「応」
レオは大剣を構えてオーガソルジャーに特攻する。十兵衛もそれに追従する。斗真の矢がレオスレスレで放たれ、オーガソルジャーの足を射抜く。
「火遁・〈劫火球〉」
十兵衛は目の前のオーガソルジャーに火遁を浴びせる。剣を振りかぶっていたオーガソルジャーをまともに浴びた。流石に耐えきれなかったのか塵になった。
「私も行くわ」
十兵衛の先に茜が飛び出す。その薙刀の一撃はオーガソルジャーの心臓を捉える。だがそこにオーガメイジの火魔法が飛んでくる。
「〈三重障壁〉!」
梨沙の障壁がそれを受け止める。最澄はオーガソルジャーと打ち合いをしている。健一も同じだ。パーティの魔法使いたちを守ろうと、決して後ろには行かせないと言う気迫が感じられる。
ならば十兵衛は前を向こう。ニヤニヤ戦況を見ているオーガリーダーの面をぶっ叩いてやる。そう思い、十兵衛は忍術を唱えた。
「空間忍術・〈次元断裂・破砕〉」
十兵衛の空間忍術がオーガタンクと共にオーガシャーマンを真っ二つにする。どれだけタフであろうと、〈次元断裂・破砕〉には耐えられなかったらしい。狙い通りである。シャーマンは一番最初に潰すべき相手だ。次はメイジだと思っていたら、レオがオーガタンクと激闘の末に倒し、健一がオーガメイジの首筋に短剣を突き立てていた。流石だと思った。
オーガリーダーが立ち上がる。でかい。三メートルはある。そして巨大な金棒である。
ソルジャーたちが打ち倒され、メイジもシャーマンも失った。もうオーガリーダーに余裕はない。
ソルジャーたちはもう六体まで減っている。それも茜たちが対処している。
「やるよ、十兵衛」
「はいっ」
レオと十兵衛は巨大な金棒を持つオーガリーダーに向かって走った。
◇ ◇
それは激闘としか言いようがなかった。何せオーガリーダーの一撃を喰らえば昏倒必至である。つまり一撃も喰らえない。更にオーガリーダーは金棒を縦横無尽に振り回し、武術の歩法まで使う。
(強い)
今まで出会ったモンスターで最強である。ブラックゴブリン・ジェネラルもブラックヴァイパーもオーガリーダーに比べれば一段劣る。
だが逆に言えば一段しか劣らない。彼らも強敵だった。そして彼らに十兵衛は負けたか? 否。楽勝とまではいかないが、しっかりと勝ちを拾っている。だからこそこの舞台に立っているのだ。
「くそっ、近づけねぇ」
「俺が血路を開きます!」
「任せた」
レオに宣言して、十兵衛は金棒の嵐の中に飛び込んだ。マチェットを背中から引き抜く。
「雷遁・〈雷纏い〉、風遁・〈風刃・重〉」
マチェットに雷を纏わせ、更に三枚の風の刃がオーガリーダーを襲う。流石に受けたら不味いと思ったのだろう。オーガリーダーが避ける。しかしそれが隙だ。
十兵衛はオーガリーダーに突っ込んだ。そして懐に入る──と、見せかけて金棒の付け根を狙ってマチェットを振るう。
予定通りオーガリーダーの金棒は二つに別れた。ゴトンと大きな音がして金棒の付け根から先が落ちる。
「ナイスだ十兵衛」
レオがその瞬間飛び込む。大剣を大きく振りかぶり、袈裟に斬り裂く。
「グォォォォォォッ」
オーガリーダーが痛みに吠える。だが戦意は衰えていない。武器を失っても、部下を失っても、オーガリーダーはリーダーとしての矜持を持っている。
「よそ見する余裕があるのかい?」
十兵衛は即座に動き、オーガリーダーの右腕を切り飛ばした。血がぶしゃっと吹き出す。そのまま二刀目。十兵衛の胴より太い太ももを狙う。
足を落とすまではいかなかった。だが足の半分まで斬り裂かれている。多くの血が流れている。
「グオッ」
オーガリーダーが左腕で殴ろうとしてくるが遅い。十兵衛はひらりと避ける。そしてその隙をレオが見逃す筈がない。レオの渾身の突きは隙を晒したオーガリーダーの心臓に突き刺さった。
「どうだ!」
「グオオオオオッ」
オーガリーダーはタフネスで知られている。だが心臓を貫かれてはどうしようもない。出血量も恐ろしい。何リットル出血したのかわからないくらいドバドバと出ている。
「トドメ!」
十兵衛は忍者刀を斜め十字に振るい、オーガリーダーの体を斬り裂く。雷を這わせた忍者刀は十兵衛の予想通りの斬れ味を見せ、オーガリーダーの体を四分割した。
:うおおおおおっ、すげぇぇぇぇっ。
:いや、マジで凄い。
:こんな激戦ある?
:いや、楽勝に見えたけど全然楽勝じゃないよね。
:ってか二十体ってどういうことよ。
:さっきのパーティは相手十体だったのにな。
:その前は十二体だったぜ?
:やっぱイレギュラーに好かれてるな、十兵衛くん。
:いや、十兵衛くんは見つけたら突っ込んでるだけやし。
:そうそう、逃げればいいとこ逃げんだけやし。
:いやぁ、十兵衛くんも最澄くんも茜ちゃんも梨沙ちゃんもマジ格好いい。
:チーム・アレクシオンも流石だよな。
:でもやっぱ怪我人は出たな。特にタンクの二人。
:今梨沙ちゃんが癒やしてるね。
:いやぁ、見どころしかなかった。投げ銭しなきゃ。
:そうだな、みんな投げ銭しようぜ!
「終わった」
「勝った」
それがレオと十兵衛の感想だった。強敵だった。一撃でも直撃を喰らえば仮令強力な防具を持ってしても骨折や内蔵破裂などは避けられなかっただろう。故に一撃も喰らえなかった。
十兵衛とレオは無傷での勝利だが薄氷の上の勝利だった。楽勝でも何でもなかった。本気で行ったからこそ勝てた。そういう戦いだった。
十兵衛たちチーム・暁で戦ったら勝てただろうか。怪しい。最澄あたりが落ちていたかも知れない。
チーム・アレクシオンが、レオが誘ってくれなければ危なかったかも知れない。もちろん十兵衛たちだけでも十兵衛が縦横無尽に忍術を放てばなんとかなっただろう。だがそれではパーティメンバーは成長しない。
きちんと今回はパーティメンバーの力で勝った。もちろんチーム・アレクシオンの力も存分に振るって貰った。流石に経験が違う。彼らは連携も完璧だ。下層に行くだけの力はきちんとある。
だが今回はイレギュラーだ。オーガリーダーの率いる軍団が二十と言うのは今までなかった筈だ。
何かダンジョンの意思のような物を十兵衛は感じた。
気の所為かも知れない。だがこの感覚は忘れてはいけない。十兵衛はそう思った。




