085.二十層までの道程・肆
「チーム・アレクシオンがなんでこんな所に……って攻略中ですよね。失礼しました」
「いや、そうじゃないんだ。十兵衛くん」
レオは十兵衛をしっかり見て言葉を紡いだ。
「どういう意味ですか?」
レオたちから殺気は感じない。だが殺気はなくとも自然に人を殺せる相手がいる。所謂サイコパスとか、脳の回路がどこか壊れてしまった者たちだ。ただレオがそういう人間だとは思えないし、信じたくない。ただ一応、……本当に一応十兵衛は身構えた。
「そのまんまの意味だ。チーム・暁が二十層突破を目指して潜るのは知っていた。本当は十六層から一緒したかったんだがね、梨沙ちゃんに連絡が取れなくてね。それで悪いけれど待ち伏せさせて貰った。提案なんだがこれからの十九層、そして二十層。更に二十層のボス。チーム・暁とチーム・アレクシオンで共同で攻略しないか?」
十兵衛はホッとして、そしてすぐに気を張り直した。見知らぬパーティが一緒にいる。それは奇襲されれば即座に危険だと言う事だ。特にチーム・アレクシオンの実力は知っている。あの時から階層も伸ばし、二十層まで到達していると言う。つまり格上なのだ。一寸の隙も見せられない。
「む、そんなに警戒されることかな。私はそれなりに信用があると自負していたんだが」
「これは十兵衛ちゃんの癖みたいなものですから気にしないでください。最澄くんや茜さんも最初は警戒していたんですよ。あたしの周りに近づく相手は最初警戒から入るんです」
梨沙がフォローしてくれるが、その通りだ。梨沙の安全の為ならば十兵衛はどんな危険も厭わない。つまり他人は全て警戒対象であり、レオは信用しても良いが他のパーティメンバーはどうか。迷いどころだ。
「ね、十兵衛ちゃん。配信でも他のパーティと組んでもいいって言ってたじゃない。その最初がアレクシオンなら大丈夫だと思わない?」
「む、そうだな」
十兵衛は思索にふけりながら梨沙の質問に答えた。
なぜ十兵衛がコメントに対して他のパーティと組む事を了承したのか。それはやはり下層、深層では人数が居た方が有利だからだ。チーム・暁単独で潜るには敵が強すぎる。それに指名依頼などで他のパーティと共闘することもある。その経験は積んで置きたいと思ったのだ。
叔父であり、深層探索者になった真ですら四十層のボスは四パーティで攻略したのだ。単独パーティではないのである。そしてその日の戦いでは五人の死者が出た。リタイヤせずを得ない大怪我した探索者も居た。
参加した二つのパーティは続けられなくなり、下層探索者として活動することになった。深層に続くパーティは真のパーティともう一つだけになった。日本中が期待していたが、期待には答えられなかった。いや、それでも被害は小さい方だ。新たな深層探索者の誕生に日本中が沸いた。
琢磨や静、真からも信頼できるパーティと組めるようになれと言われている。
(俺も疑心暗鬼が過ぎるな。チーム・アレクシオンが信じられないなら誰が信じられるんだ)
レオたちとは共闘したことがある。良い腕をしていた。そしてレオは十兵衛に背中を預けてくれた。ブラックゴブリン・ジェネラルが現れた事で十兵衛は単独で戦う事になったが、それまでの道程はしっかりと世話になった。連携の参考に十分になった。流石中層でも上位パーティだと言われていると思ったものだ。
「わかりました。やりましょう」
「おっし、私たちは間違えてもチーム・暁を攻撃したりしない。約束するよ」
「信じます」
そう言って十兵衛は手を差し出した。レオがその手を握る。レオの手は熱を持っていて、レオ自体も嬉しそうにしていた。
それからは自己紹介タイムだ。と、言ってもチーム・アレクシオンのメンバーくらいは流石に十兵衛も知っている。まだ若い期待の新星。下層へは必ず行くだろうと言われているチーム・アレクシオン。
斥候の高橋健一。斥候の腕は忍者としてもやっていけそうな程気配察知に長けている。更に短剣の腕がよく、十兵衛に戦闘スタイルが似ている。
タンクの永井陽斗。西洋鎧に身を包んでおり、大きなカイトシールドを持っている。武器は剣だ。彼がいるのといないのでは安定感が違う。最澄の上位互換と言う印象だ。
風魔法使いの咲宮遥。護身術程度は使えるようで、動けない砲台ではない。金属製の杖を武器にしている所も梨沙に似ている。そして青いローブを羽織っている。そのローブは上等そうで、アレクシオンがきちんと装備にも拘っているのがわかる。
そして弓術士の田中斗真。背中に槍も背負っており、近接もできる。だが弓の腕前は随一で、レオが大剣を振り回している中に矢を打ち込んでサポートをする凄腕だ。レオとの連携が完璧でなければあれほどのタイミングで矢は打ち込めない。余程練習したのだろう。レオの顔の脇や脇の下から矢が飛んでくるのだ。レオと戦っているモンスターから言わせれば奇襲も過ぎる。
「よろしくな。チーム・暁の皆。俺は君たちのファンなんだ。一緒に戦えるとなって光栄だよ。足は引っ張らないつもりだから一緒に頑張ろう」
斗真が代表して十兵衛に挨拶をしてくる。大きな弓を槍を背負っているが、やはりしっかりと鍛えている。これだけの腕前の弓術士が居れば、チーム・暁の戦略の幅も広がるだろうと思えるほどだ。
だがそれは叶わない。レオが、斗真が、長い間築いた信頼の上にあの連携は成り立っている。十兵衛に合わせろと言っても無理だろう。それに引き抜きたい訳ではない。
(新人でもいいから後衛でいいのを入れるべきか?)
新人を入れると育てなければならない。それに転移球の登録はしなおしだ。ただ有力なメンバーが入ってくれるならそれは無駄とはならない。むしろ有益だ。それか下層に潜っているパーティが何かの事故で解散してしまい、後衛だけ残っていると言う可能性もある。その場合は、探索者を辞めるか、色々なパーティの助っ人として渡り合うのが普通である。そして水の合うパーティを見つけたらそこで正式参加となる。
探索者をしていれば死は避けられない。いつか十兵衛もそういう経験をするかもしれない。だが覚悟はできている。
(あぁ、思い出してしまった。泣きそうだ)
風魔忍者で可愛がってくれた叔父さんやお兄さん、お姉さんが死んだことがある。苦い思い出だ。
敵は確か甲賀忍者だと思う。だが真の敵はその甲賀忍者を雇った奴等だ。当然報復をした。完膚無きまで叩き潰した。
風魔は結束力が強く、身内を殺した相手は総力を上げて叩き潰す。結束力の弱い甲賀などは敵ではない。
ただし当然甲賀だろうが伊賀だろうが強力な敵は存在する。抗争になれば死人はでる。それでも風魔忍者としてのメンツがある。それを護るために、忍者たちはその生命を投げ出すのだ。そしてそのトップに立つのが父、琢磨である。風魔小太郎の名は代々襲名されている。十兵衛もいずれは父の役職、名を継がなければならない。それがいつになるのかはわからない。
だが十兵衛は他の忍者探索者と違って風間の名を名乗って表にでろと言われている。雌伏の時は終わったのかも知れない。十兵衛の代で、風魔忍者は表の世界にで、その力を振るうのかも知れない。だがそれは十兵衛はまだ知らなくて良い事、知らされない事だ。琢磨が何を考えているかはわからない。
(とりあえず目の前の物事を処理しよう)
十兵衛は切り替えた。切り替えの早いのが十兵衛の良い所だ。思索に耽って居たのなど数十秒である。その間に茜や最澄、梨沙がチーム・アレクシオンのメンバーと交流を持っている。
十兵衛が近寄りがたい雰囲気を発していたのでレオ以外十兵衛の傍に居ない。そしてレオは黙って十兵衛の近くに立っていた。
「何か考え事かい」
「いえ、共同パーティに犠牲者が出たらイヤだな……と」
「そりゃ誰もが思うさ。でもイレギュラーは起きる。全滅するパーティも全国で見れば毎日のようにある。死人も当然出てる。それでも新宿の、いや、日本の国土を護る為には探索者は必須なんだ。だから死んだ奴等も英雄として葬られる。栄誉が与えられるんだ。栄誉だけじゃ戦えないが、死んだ後も多くの人に悲しんで貰える。それだけでも嬉しいじゃないか。私たちの探索の上で地上の人たちの生活は成り立っている。それで十分じゃないか。な、十兵衛」
「はいっ」
レオの言う通りだった。忍者も任務の為には死ぬことすら厭わない。それは十兵衛も同じだ。ただ十兵衛の任務は梨沙の護衛だ。つまり梨沙よりも先に十兵衛が死ななければならない。間違えても任務を失敗して梨沙を殺してはならない。
梨沙は護衛対象としてだけでなく、十兵衛の愛する人。婚約者だ。任務でなくとも死ぬ気で護る。
十兵衛はちらりと梨沙を見た。遥と談笑しているようだ。どうやら魔法の使い方を習っているらしい。
「良いパーティだね」
「ありがとうございます。チーム・アレクシオンも良いパーティだと思いますよ」
「はっ、私の自慢のパーティだよ。当然さ」
そうしてチーム・暁とチーム・アレクシオンの共同探索は始まった。




