084.二十層までの道程・参
「リザードマンだ。初見だから注意だぞ」
リザードマンは剣や槍を持っている。三叉矛を持っている個体もいる。湿原の足場の悪さも物ともせずに近寄ってくる。
情報に寄るとかなり素早いらしい。流石に風魔忍者ほどではないとは思うが──そうだったら最澄たちは対応できない──、素早い相手とは幾度も戦ってきた。大丈夫だろう。
「はっ」
茜が先陣を切る。最澄が火魔法を放つ。雷魔法は感電の恐れがあるので湿原では使えない。フレンドリーファイアになるからだ。しかしリザードマンの弱点は雷系統である。
「雷遁〈雷斬り〉」
普段とは違う雷を忍者刀に纏わせる。
茜が一体のリザードマンを両断した。そこに三叉鉾が迫る。十兵衛が間に入ってそれを受け、もう片手の忍者刀で胴体を泣き別れにする。
確かに速い。だが対応できない程ではない。デスマンティスはもっと速かった。十七層で訓練を積んだ茜や最澄が対応できない訳がない。
後は数の暴力だけ注意すれば良いだけだ。
実際最澄も梨沙を守りながら戦っているが、しっかりと対応できている。短槍でリザードマンの胸に穴を開け、リザードマンが塵になる。その間に十兵衛は三体のリザードマンを倒した。茜ももう一体倒し、近くに敵の気配はなくなった。
「うん、行けるね」
「とりあえずリザードマンは数が居なければ対応できそうだ」
「後は水棲生物系モンスターの対処ね」
「虫は苦手だけど蛙や蛇は大丈夫だよ!」
梨沙がドヤぁと強く言う。これで蛙や蛇もダメと言うならば探索者は諦めろと言うしかない。しかし虫の苦手意識もかなり克服できた。八階層と十七階層でそうとう戦ったので、敵として見られるようになったのだろう。
後は倒せば塵になると言うのも良い。死骸が残ればやはり梨沙は嫌がるだろう。
「じゃぁ進もう。足元に気をつけてな。後奇襲に注意な」
「わかってる」
「えぇ、十分注意するわ」
「わかってるよ~」
湿原は歩きづらい。ブーツが沈む。だが汚れなど気にして居られない。それに汚れは梨沙の浄化魔法で綺麗にできる。十八階層をクリアするまでの我慢である。
(梨沙の浄化魔法は本当に助かるな)
本来はスペクター系の魔物への特攻になる魔法であるが、単純に汚れを落としてくれる機能も持つ。単純に探索の安全が担保されるだけでなく、治癒術士がどこからも欲しがられる所以でもある。
長い間ダンジョンに潜るのであれば当然汚れとの戦いになる。だが梨沙が居れば風呂に入った後のような爽快感が得られるのだ。
その為の魔力も節約できるようで、梨沙の魔力切れも問題ない。
(梨沙が狙われる訳だな。いや、梨沙だけじゃないか。治癒術士は皆狙われるから大手クランに囲われたり国に仕えたりするんだもんな)
残念ながら治癒魔法のスキルオーブのドロップ率は渋い。故に治癒術士の数は少ない。もっと増やしたいと政府は、ギルドは思っているらしいがこればかりはどうしようもない。
その国で落ちたスキルオーブはその国の物。それがWDA・世界ダンジョン協会の掟だ。これは希少なスキルオーブを大国がオークションで独占したことから決められたルールだ。
逆に言えば、自国でしか治癒魔法のスキルオーブを得られない。つまり探索者の弱い国は治癒術士を得られないのだ。
「おっと」
反射で飛んできた舌の攻撃を避け、それを忍者刀で斬り裂く。ウェットランドフロッグが痛みにのたうち回っている。そんな隙を見逃す十兵衛ではない。即接近してその心臓の辺りに忍者刀を突き立て、雷を体内に巡らせる。するとウェットランドフロッグは絶命し、皮をドロップした。
「これがウェットランドフロッグか。舌は思ったより素早いな」
「ってかよく気付いたな。感知できなかったぞ」
「水の中に居たから地上から上しか探知してないと探知には引っかからないぞ?」
「マジか。くそぅ。気配察知も随分レベル上がったと思うんだけど、俺は気付かなかった」
「私もギリギリ気付いたくらいよ。最澄が狙われなくて良かったわね」
「最澄くんなら直撃受けても大丈夫なんじゃない? 全身鎧だし」
「いや、普通に痛いからね? 骨折れた時とか激痛だからね?」
梨沙の酷い言葉に最澄が泣き言を言う。だがタンクは攻撃を受けるのが仕事だ。敵を倒すのは前衛である茜と十兵衛の仕事である。
これは最澄何度かやられるな、と十兵衛が思っていると最澄を狙っているウェットランドフロッグが居た。十兵衛は警告を出そうと思ったが、一回くらい痛い目を見た方が良いと思って警告をわざと出さなかった。
「あっ」
「えっ?」
茜が気付き、声を上げるが遅かったようだ。最澄はウェットランドフロッグの一撃を受け、二メートルくらい吹き飛ばされた。
「くそっ、いてぇっ!」
「〈治癒〉」
「ありがとう、梨沙」
最澄が回復されている間に茜がウェットランドフロッグと切り結ぶ。茜に取っては問題ない相手のようでウェットランドフロッグが塵になり、魔石と皮を落とす。
ちなみにレアドロップは舌で珍味だそうだ。初めて食べた人は凄いと思う。もちろん検疫を受けた後であるが、オーク肉なども普通に市場に出回っているのだ。まぁそのお陰で日本の食料自給率がかなり上がったと聞いているので良い事なのだ。十兵衛たちの世代は既にモンスター肉は食卓にあるのが当たり前だった。だが親の世代、祖父の世代はどうか。
食えるかどうかわからない肉がドロップする。それをどうするか。様々な検査に掛けたがその時代では安心して食べられるかどうかわからなかった。
結局猛者が食べてみて実験したらしい。そして毒有りに当たって酷い目にあった猛者もいる。
そういう経緯もあり、色々と法整備が進み、ギルドが鑑定できるようになり、今十兵衛たちの食卓にはダンジョン産の食べ物が並んでいるのだ。歴史も調べてみるとなかなか面白いと十兵衛は講義を聞いて思ったものだ。
「最澄、油断してると毎回梨沙に治癒させることになる。それだと魔力が心配だ。つまりちゃんと攻撃を盾で受けられるようになれ。今すぐにだ」
「お、おうっ」
「その程度の傷じゃ次は治癒させないからな」
「うぐっ、わかった。頑張るぜ」
「その調子だ。頼んだよ」
と、言ったが次からはちゃんと警告することにする。一朝一夕で気配察知のレベルが上がる筈がない。そして十八層に長く留まるつもりもない。つまり最澄の熟練度が上がるのを待つ暇はないと言う事だ。
幸い気配察知が得意な十兵衛がこのパーティにはいる。ならばそれを使えば良い。斥候とは本来そういう役割なのだ。
「ほら、あっちにいるぞ。集中して気配を読んでみろ」
「ん~、集中すればわかるな」
「じゃぁソロで倒して来い。相手がいるのがわかれば対処できるだろ?」
「おう、行ってくる」
「いいの、十兵衛ちゃん」
「ちゃんと見てるから大丈夫だ。それに奇襲じゃなきゃ最澄は負けないさ」
十兵衛の言う通り、最澄は真っ向勝負ならウェットランドフロッグに負けはしなかった。多少苦戦はしたようだがしっかりと倒した。これで問題はない。
十八層はかなり苦戦した場面も多かった。ウェットランドフロッグやリザードマン、それに気配を消して迫ってくるウェットランドポイズンスネークなどタンクである最澄が被害担当となった。
もちろん十兵衛も二回目からはきちんと警告をするのだが、一回目は気付くかどうか試している。最澄はまだ気配察知が甘い。これは鍛えなければならないと十兵衛は心に刻んだ。下層に行けばもっと気配を消す相手が出てくるのだ。
そして十八層最深部に到達した時、意外な顔が居た。
「よぉ、十兵衛くん。梨沙ちゃん」
「レオ先輩!」
「どうしたんですか、こんなところで」
そこに居たのは以前共闘した日向レオとそのメンバーたち、チーム・アレクシオンだった。




