082.二十層までの道程・壱
あのバカ騒ぎから幾日か日が経った。
当然の如くチーム・暁は多少の休日は入れつつほぼ毎日ダンジョンに潜り続けた。十七層ではもう敵はない。そう言えるまで鍛えた。
「ふぅ、いい感じだな。お盆明けたらこのまま二十層まで潜る準備はできた、と思う」
「マジか。いきなりだな。アタックは九月だと思ってたぞ」
「そうね。お盆明けにアタックするなんて私の予定にはなかったわ」
「やっぱり風間家での特訓と、いろんな探索者と手合わせ出来たのが大きいんじゃない?」
チーム・暁と戦いたい探索者は多く、たまに十兵衛たちが模擬戦をする日を作っている。そして多くの探索者の技を伝授される。模擬戦を希望するのは探索者の先輩たちが多いので色々と生きたアドバイスが貰えるのだ。
十兵衛に取っても、他の三人に取っても、有意義な時間だった。ギルマスが許可を出す訳だと後で気付いた。ギルマスもなかなかの狸っぷりだ。手強いと思った。
そしてお盆休みが来た。流石にお盆は全員が色々とある。と、言うか北条家の令嬢である梨沙は北条家の本家が分家を集めて色々と相談事をする習慣がある。故にダンジョンには潜れない。
風間の家も分家の忍者たちを集めて今年の方針やら進捗やらを色々と確認をする。当然次代小太郎と目されている十兵衛も参加は必須だ。特訓も継続しながら夜には幹部たちの話を聞いて意見をしっかりと言う。そんな日々を過ごした。
茜も道場生を鍛えないといけないと言っていたし、最澄も茜の道場に通うらしいと聞いた。
そうして忙しくしている内にお盆は終わった。
大学生に取ってはお盆は夏休みの一部だが社会人に取っては違う。大事な連休なのだ。故に探索者も多くダンジョンに潜る。
一時的にダンジョンの総魔素が下がる、と言われている。それはGWも同じだが、GWは新人探索者が多いので彼らを指導するなどがあり、お盆ほどではない。
「じゃぁ行くか」
「いこ~!」
「十兵衛が行けるって言うなら行けるんだろ。じゃぁそれを信じるだけだ。何せ十兵衛が今まで言った事で外した事はないからな」
「そうね。リーダーが言うなら従うわ」
本来パーティリーダーは梨沙なのだが、戦闘での指揮を十兵衛が取っていることもあり、外部からも十兵衛がリーダーと目されている。こればかりは仕方ない。
十兵衛も三人を鍛え、指揮するのが楽しいのでそのくらいの誤解は良いだろう。書類上と事実が違うだけだ。
そしてギルドはそんなことは気にしない。しっかりと探索者が無理せず、探索し、死人なく帰って来ることを至上としているのだ。もちろん氾濫の予兆などがあれば全探索者に号令が掛けられるが、人命が第一なのは変わりがない。
「十六層と十七層は速攻突破しよう。そして十七層の最深部で一旦仮眠して十八層へアタックだ。行けそうならそのまま十九層、二十層まで攻略する。ダメなら俺が連れて帰る。だから安心してくれていい」
十兵衛がそう言うと、全員がダンジョンへ踏み入った。
◇ ◇
「十六層はもう楽勝って感じだな」
「最澄、油断しない」
「してないよ」
「あははっ、二人仲いいね~」
十六層をほぼ無傷で突破し、まだまだ体力にも余裕がある。このまま十七層へ行けそうだ。
そう言えば十兵衛たちの配信を見て、十六層で諦めていた探索者たちが十七層へアタックするようになったと美香が言っていた。良い事なのか悪い事なのかわからない。なぜなら必ず重傷者や死人がでるだろうからだ。
だが十七層へアタックすると決めたのはその探索者たちだ。ギルドも、誰も責任は取ってくれない。自分たちで頑張るしかないのだ。
「さぁ十七層だ。もう慣れたもんだろ? 俺は気配察知しても知らせないからな。三人だけで突破して見せろ。危ない時は助けてやる」
「わかった!」
「えぇ、大丈夫よ。もう十七層でも余裕を持ってクリアしてあげるわ」
「あぁ、俺も気合十分だぜ」
良い返事が聞けた事で十兵衛は満足した。これなら大丈夫だろう。だがイレギュラーと言うのは何時でも、予期せぬ時にやってくる。それには気を付けていてもどうしようもなく襲ってくる。
それに対処するのは十兵衛の役目だ。故に気は抜けない。
「はっ」
「せいやっ」
「〈雷槍〉!」
最澄と茜、梨沙の声が十七層に響く。相手にしているのはデスマンティスだったり、デス・モスだったりするが問題なく倒している。巨大なカナブンが襲ってきて梨沙は悲鳴をあげながらしっかりと雷魔法で倒していた。
茜は薙刀を新調した。太刀と同じ魔法金属を使っている逸品だ。薙刀は槍の方が人気が高く、同じ製品でも値段が高い。だがそれでもやはり装備の更新は必要だ。それに北条ダンジョンギア製品であれば割引が効く。
太刀では届かない相手でも薙刀なら届く。それに防具も良い物に変えたらしい。見た目は変わらないが、籠手の輝きが違う。胸当ても鈍色に光っている。
最澄はクイーンアント戦で結構防具がボロボロになったので大幅に改修した。基本は変わらないが、近衛アントやブラックヴァイパーの素材を使ってしっかり作り直して貰ったらしい。武具屋の店主曰く、下層でも十分通用すると言う事で、十七層なら尚更である。
「〈火炎陣〉」
「〈剛雷矢〉」
最澄の火魔法も成長した。そろそろ火炎魔法にレベルアップするのではないのだろうか。梨沙の雷魔法もかなり豪快だ。十兵衛の雷遁とは違うが、しっかりとダメージを与えている。
イレギュラーもなく、十兵衛たちは予定時間より速く十七層をクリアする事が出来た。
「マジか、ここ十七層の最奥だぞ」
「チーム・暁がアタックするって聞いてたけどこんな速いのか」
「生十兵衛くん格好いい!」
なんか色々と探索者たちが言っているが、十七層の最深部一角にスペースを取り、仮眠の準備をする。だが予定より早くついてしまったので、時間が余っている。
夕食をゆっくりとり、まったりと四人でそれぞれお気に入りの飲み物を飲みながら談笑する。
それは最澄の家族の話であったり、茜の道場の話であったり、梨沙のパーティの話であった。
そういう意味では十兵衛は話す事があまりない。風間家は忍者の家だ。故に守秘義務がかなりきつい。話せない事だらけだ。
「十兵衛ちゃんはね~、子どもの頃こんな可愛かったんだよ!」
「可愛い!」
「マジ可愛いな。女の子かと思った」
「ね~、今はこんなに格好いいのにね」
「また惚気? 梨沙ちゃんも飽きないわね」
「だってずっと想ってた十兵衛ちゃんと結ばれるんだよ! こんなに楽しい事ないよ!」
梨沙が十兵衛の昔の写真をスマホで引っぱり出し、それをネタにからかってくる。十兵衛としては恥ずかしいのだが、梨沙の行動を止めるのも難しいので諦めている。更に惚気けられてしまうとつい口角が上がってしまう。
十兵衛も同じ気持ちだからだ。梨沙と結ばれる未来はないと諦めていた。だが実際はあった。細い細い道だったが、ゴールへの道筋は見えた。
ただ問題もある。探索者をしていれば命の危険が常にあると言う事だ。十兵衛は深層まで潜るつもりでいる。だがそこに梨沙を加えて良いのか? と言う問題だ。
ただ梨沙は着いてくる気満々で、十兵衛が幾ら言ってもダメだろう。こればかりは諦める他ない。梨沙は頑固で、絶対に譲らないところは何をしても譲ってくれないのだ。梨沙との付き合いは長い。そんな事は十兵衛は重々承知していた。
「ほら、そろそろ寝る時間だぞ」
「え~、もっと話そうよ~。なんかキャンプみたいで楽しいじゃん」
「ダメだ。明日に響く。初めての十八層なんだぞ。もちろんデータは持っているけれど、それでも油断していい階層じゃない。オークリーダーに統率されたモンスターが出てくるんだ。ちゃんと寝て英気を養わないと」
「ぐぅ、正論パンチすぎて文句も言えないよ」
「あははっ、貴方たちも本当に仲良いわね。じゃぁ先に十兵衛くんと梨沙ちゃんは寝て頂戴」
「そうだな。見張りは任せてくれ」
そう言われて十兵衛と梨沙は寝袋に入った。二人の手はこっそり並んだ寝袋の脇で繋がれていた。




