081.探索者たちとの模擬戦
「俺が先だ!」
「俺だ!」
「私よっ!」
ギルドの訓練場は恐ろしい程の人で溢れていた。それも殆どが探索者である。中層や下層で活動している探索者が殆どで、訓練場の周囲には観覧席が設けられている。そこには低層で頑張っている探索者たちがこの一大興行を見逃すまいと集まっている。
今日ダンジョンに入っている探索者はかなり少ないのではないか。それは大丈夫なのか? と、十兵衛は疑問に思う。
しかしこの騒ぎの元凶は十兵衛たちチーム・暁である。つまりチーム・暁の面々と腕試しをしたい連中が集まっているのだ。
「いいから、貴方たちは静かになさい。今日の事は無しにして解散させますよっ」
美香が叫ぶと探索者たちはピタッと静かになった。流石ギルド受付嬢である。何せ荒くれ者の探索者たちを毎日相手にしているのだ。なんだかんだで肝が太くないとやっていられない。そういう意味でも美香はとても強かった。ちなみに恋人は募集中だと先日聞いた事がある。
(選り取り見取りだと思うんだけどなぁ)
美香に恋する探索者は多い。他の受付嬢たちも人気だ。何せ美人揃いである。しかも美人な上で有能で、しっかりと探索者のサポートをしてくれるのだ。惚れない男が居たら問いただしたいくらいである。
十兵衛も年の差がなければ、梨沙が居なければ美香に恋していたかも知れない。ただその場合は茜がインターセプトしていただろう、と言うところまで考えていたら、場が動いた。
「最澄さんはそっち。茜さんはここ。そして十兵衛くんは中央です」
「わかった」
「わかりましたわ」
「おう」
「あたしはみんなの応援してるよ~。そして怪我したら治して上げるね」
ちなみに今回のチーム・暁に挑戦しよう大会に梨沙は当然参加しない。他の治癒術士と一緒に怪我人を治す立場に立つ事に寄って手合わせから逃げ出している。
梨沙と戦いたいと言う者も居たのだが、梨沙は一言「イヤ」と言って断った。
十兵衛もそう言えればどんなに良かっただろう。だが一番人気はやはり十兵衛なのだ。逃げる術はない。
(まぁ上忍を相手にするよりは遥かにマシか)
忍者は独特の歩法で相手の死角を付き、盲点を見つけるのが上手い。故に望月流免許皆伝を持っている茜も最初は相手にならなかったのだ。
探索者は大概が我流だ。しかし実戦を伴った我流である為、しっかりと強い。もちろん武道を習っている探索者もいる。茜や最澄もその一人だ。
「マジか」
ずらりと十兵衛の前に探索者の列が並んでいる。最澄や茜の前にも多くの探索者が並んでいるが、十兵衛の列は三列になっているのにどこまで伸びているのかわからない。
「これ俺全部相手にすんの? 一人で?」
「いえ、途中で休憩は強制的に入れさせますし、午後五時になったら強制終了です」
「いや、まだ朝の九時なんだが?」
「いつも長時間探索している探索者さんなら大丈夫ですよね?」
美香から圧のある笑みを向けられて、十兵衛は頷くしかなかった。
ただまぁいつもの地獄よりマシかと思う。琢磨と静は本当に容赦がないのだ。そしてその側近の上忍たちもそうだ。十兵衛を本気で殺す気かと言うほどの勢いで襲ってくる。それに比べればこのくらいは朝飯前だ。
「それでは、始めっ」
「よろしくお願いします」
「あっ、よろしくお願いします」
十兵衛は「始め」の合図などないのが当然の世界で育った。相対したら既に戦いは始まっていると教わって育って来たのだ。故に少し慣れない。
最初の相手は槍使いだった。かなり鋭い槍捌きを見せてくる。だが少し甘い。するりと懐に入って足に一撃、忍者刀の模擬刀で殴りつけ、腹に蹴りをめり込ませる。
「ぐはぁぁぁぁっ」
「勝負ありっ」
「「「おおお~~~~」」」
「あいつ下層探索者だぞ」
「一蹴ってどんだけ強いんだ?」
「動きが見えなかったんだけど、どうやって懐に入った?」
「十兵衛くんマジ強いと思ってたけど、予想以上だわ」
美香が現れ、十兵衛の前で血反吐を吐いている槍使いが即職員に連れ去られる。
ちなみにルールは防具は有り、武器は模擬剣。多少の怪我は良いが致命傷になるような攻撃は禁止、もしくは寸止めとなっている。魔法はありだ。当然忍術もありだが十兵衛は忍術無し縛りを自分に掛けている。人相手に手加減できる気がしないからだ。流石に死人は出したくない。
ちらりと横を見ると最澄は良い勝負をしており、茜は目の前の相手をひれ伏させて居た。最澄の相手は下層探索者だろう。茜の相手もそうであろうが、相手が悪い。対人では茜はとても強いのだ。
「は~い、順番待ちがたくさん居ますからどんどん行きますよ~」
「よろしくっ、十兵衛くん!」
次の相手は片手剣と盾を持った女性剣士だった。嬉しそうに、しかし素早く剣を振るってくる。忍者刀で受けて、捌く。二撃目は躱し、足を掛ける。それでも女性剣士は耐えた。盾をぶつけてこようとする。それをバックステップで避け、くるりと回転して後ろ回し蹴りを本気で盾に打ち付ける。
「きゃっ」
可愛い悲鳴が聞こえ、女性剣士がふっ飛ばされる。そして女性剣士が起き上がる前に十兵衛は女性剣士の前に立ち、忍者刀を首に突きつけた。
「勝負あり」
「「「おおお~」」」
十兵衛の妙技が光る。やはり下層探索者は強い。レベルが明らかに上なのだ。動きが速く、膂力は高い。だがそれだけではヌルい。そんなのは風間家で存分に味わっている。更に十兵衛の動きは風間流なので、全員に手の内はバレている。
ではバレていなければどうなるか。それは当然十兵衛の圧勝である。
風魔忍者として、簡単に負けてやる訳にはいかない。
ちなみにこの戦いはギルドの公式配信に乗っているらしい。そして投げられた投げ銭は十兵衛たちチーム・暁の口座に入る事になっている。
視聴者は既に百万どころか三百万を超えている。ギルドが宣伝したからだろう。流石にコメントを追う暇はない。
十兵衛は茜や最澄の戦いを横目で見ながら、次の探索者相手に忍者刀を振るった。
◇ ◇
:十兵衛くん無双状態なんだが。
:マジそれ。下層探索者でも相手になってない。
:えぇぃ、深層探索者はいないのか!
:深層探索者は深層潜ってるよ。
:それはそう。
:下層探索者も次があるって言って半分くらいは今回の祭りに参加せずに潜ってるらしいからな。
:ギルマスグッジョブ!
:ほんとソレな。
:ってか対人マジで十兵衛くん強いな。
:茜さんも負けてないぞ。下層探索者を見事に打倒してる。
:最澄くんも頑張ってるね。たまに負けてるけど、上位者にしか負けてない。中層探索者相手にはしっかり勝ってるよ。
:チーム・暁は超人の集まりなんだよなぁ。
:これ見るとほんとソレ。
:結構有名な探索者が本気で打ち込んで当たらないってマ?
:観てる通りだよ。掠りすらしてない。
:ね、茜ちゃんや最澄くんは結構喰らってるけど、十兵衛くん無傷だもんね。
:十兵衛くんが犯罪者になったら完全犯罪ができるね。
:やめろ!
:マジやめて。死人が百人単位で出ても警察が捕まえられないって事態になるぞ。
:ほんそれ。
:にしてもマジ強いなぁ。どうやったらあんなに強くなれるんだろ。
:そりゃ毎日の修練よ。
:レベルアップも普通の中層探索者よりもしてるよね。
:エンカ率高いもんな。わざとモンスターに向かって行ってるし。
:それな。普通エンカ避けるんだけど、チーム・暁は熟練度と経験値稼ぎにエンカしに行くんだよな。
:その時点でおかしいんだよなぁ。
:まぁそのくらいあたおかじゃないと数ヶ月で十七階層突破とかできないっしょ。
:このまま二十層まで突破するんじゃない?
:あり得るから困る。
:ってか十兵衛くん夏休み中に中層突破するって言ってたもんね。
:冗談だろって思ったけど本気なんだよなぁ。
:有言実行の男、風間十兵衛。マジかっけぇ。
:いやぁ、俺大阪の下層探索者なんだけど勝てる気がしない。ちな三十八層回ってる。
:深層間際じゃないか!
:特定しました。
:はえーよ!
:いやだって大阪で三十八層って言ったら、ねぇ? 数パーティしか居ないでしょ。
:それはそう。
:まぁ五時まで十兵衛くん無双見れるようだから楽しもうぜ。
:祭りだ祭りだー!
:次はいつだろなー。チーム・暁も探索毎日のようにしてるから超レアだよな。
:探索者たちからギルマスに要望書が山程送られてきたらしいぞ。
:それで十兵衛くんたち断れなかったのか。
:仕方ないね。実質指名依頼。
:普通中層探索者で指名依頼はそうそう受けないんだよなぁ。
:十兵衛くんたちだから。
:ね。




