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080.指名依頼

「何をやっているんですか!」


 何故か十兵衛は十七層から帰ってきた時に、美香に怒られた。


「えっ、なんかやっちゃいました」

「クイーンアントですよ、クイーンアント! 見つけただけでも快挙なのに一パーティで倒すなんて前例がありませんよ? そんな相手に特攻するだなんて。もう配信を見ていてずっとハラハラしてたんですからね。わかってないと思うからもう一度いいますけど普通の中層探索者が一パーティで近衛アントとガチで戦うなんて無謀以外の何者でもないんです。それをチーム・暁はまだ中層探索者でありながら達成したんです」

「えぇと、快挙だから良いのでは?」


 美香は通じてないと察し、更に怒りのボルテージを高めた。


「だ・か・ら! 戦うなと言っているんです! 実際最澄さんが怪我したじゃないですか。普通は怪我だけじゃ済まないんです。死人がでますよ。それをわかっていますか!?」

「でも俺たちなら行けると踏んで行ったんです。勝算はありましたし、実際勝ちました。問題ないでしょう」

「はぁぁぁぁ~」


 美香はクソデカため息を吐いた。


「その通りなんですよ。無事に帰ってきて、更に戦果も大きい。これギルド内でチーム・暁をどうしようかって問題になっているんですよ。B級にしては戦果が大きすぎる。でも下層にも潜っていないのにA級にはできないって上で揉めてるんです」

「あ~、ご苦労様です?」

「そう思うなら無茶はせず、堅実に攻略を進めてください!」

「まぁまぁ、如月さん、そこまでで」


 そこに壮年の男性が現れた。イケおじだ。髭がダンディでスマートなスーツ姿である。


「これは、協会長。どうしてこんなところに」

「どうしてとは心外だね。だって中層を攻略しているパーティがクイーンアントを倒したんだよ。もちろん褒め称えに来たのさ。英雄の誕生だ」


 ギルマスがそう言った瞬間、周囲の探索者たちが湧いた。


「えっ、えっ」

「それだけ私たちがやったことが快挙だってことよ。諦めなさい、十兵衛くん」

「そうだぞ。俺だって十兵衛がやれるって言うから着いていったけど、他の奴の言葉なら馬鹿野郎って叱り倒してるぞ」

「まぁ十兵衛ちゃんだし。実際いっぱい近衛アント倒してくれたし?」


 梨沙は擁護しているのか擁護していないのかわからない発言をする。

 十兵衛としては十分やれる、との判断でやっただけなのだが、その判断は常識に照らし合わせれば有り得ないことらしい。

 そのくらいはわかる。

 わかっていて尚、チーム・暁なら行けると言う判断をしたのだ。そして最澄は怪我をしたが、怪我程度で済んだ。命も腕も足も失っては居ない。装備は少し壊れかけているが、それは修理に出せば良い。

 幸い近衛アントの素材が山程ある。それを使えば良い。ブラックヴァイパーの鱗も何枚か売らずに貯蔵してある。問題はない。


「流石チーム・暁だぜ。俺たちにはできないことをさらっとやっちまうんだもんなぁ。そこに痺れる! 憧れるぜっ!」

「配信見てたぞ。めちゃくちゃ格好良かった。でも十兵衛くんは速すぎて何がなんだかわかんなかった。なんか空蹴ってなかった?」

「いやでも十七層のクイーンアントの巣が潰れたんだ。中層潜る奴等は今がチャンスだぞ」

「そうだそうだ。早くお前らも下層に来い!」

「ってかチーム・暁はさっさと下層にいっちまえ。お前らは中層でうだうだしてる奴等じゃねぇ」


 なんだかハチャメチャになってしまっている。だが梨沙の迎えはまだ来ない。故に解散もできない。


「風間十兵衛くん」

「あ、はい。ギルマス」

「協会長なんだけどね。まぁギルマスでいいよ。探索者からは協会じゃなくてギルドって呼ばれてるのは知っているからね」

「何か御用ですか?」

「いや、本当に称賛しに来ただけだよ。如月くんの気持ちもわかるけどね。死線を超えて、更に帰ってくるのが良い探索者の条件だ。チーム・暁は満点を与えていい。まだ結成して四ヶ月も経っていないと言うのは信じられないね」

「たくさん戦いましたからね」


 ギルマスはそこで一つ溜めた。


「ところで十兵衛くん」

「なんですか?」


 十兵衛はギルマスの表情を見てイヤな予感を覚えた。


「頼みがあるんだが」


 来た。これは断れない奴だ。そして面倒くさい奴だ。


「なんですか。一応聞きましょう」

「ちょっと今低層とか中層に潜ってる奴等を鍛えてくれないか」

「一緒にダンジョンに潜れってことですか?」

「そうじゃない、協会敷設の訓練場で戦って欲しいんだよ。十兵衛くんと手合わせしたいって言う探索者の声が多くてね。それは最澄くんや茜さんにも言える事なんだが、チーム・暁と手合わせしたい探索者からの嘆願書が山程届いているんだ。私の業務が滞るほどにね」

「あ~、空いてる時間なら付き合いますよ。ただし全員の相手はできません」


 ギルマスは腕を組んでうんうんと頷いた。


「もちろん謝礼金もでるし、クエスト扱いにする。だから、ね。頼むよ」


 協会員と言うのは基本公務員だ。そしてギルマスを任せられていると言う事はキャリア組だろう。上流階級の魑魅魍魎たちと同じ匂いがする。そして十兵衛はその魑魅魍魎たちの相手はまだ苦手だった。


「本当に少しだけですからね。ダンジョン探索の支障にならない程度に受けましょう」

「わかった。きちんと調整はするよ。あぁ良かった。これで肩の荷が一つ降りた。もうね、本当に嘆願書でデスクが埋もれてたんだよ? わかるかい?」


 ここでわからねぇよ! と、言えたらどんなに良いか。だが十兵衛は頷くしかなかった。

 十兵衛はギルドに居れば注目され、街に出れば声を掛けられるほどの人気なのだ。そりゃ探索者ならその実力を自分たちで確かめたいと言う者たちも多いだろう。

 風間屋敷に帰ると中忍たちから手合わせを十兵衛は良く求められる。全員ボコボコにして帰して、そして琢磨たちにボコボコにされる。それが十兵衛のサイクルだ。


(ギルドでまでアレをやるのか、仕方ないな。これはっきり言わないけど指名依頼だよな)


 ギルマスは狡猾だ。そして十兵衛は折れざるを得なかった。


「今十兵衛くんと話したんだがね、君たちの嘆願書がクエストとして受理されたよ。訓練場でチーム・暁の皆と戦う事を十兵衛くんが了承してくれた」


 そうギルマスが発表した瞬間ギルドが沸騰でもしたのかと思うほど沸いた。


「うおおおおおおっ!」

「やっと俺達の願いが届いたのか!」

「ギルマスを追い詰めてやろう作戦成功だな」

「待て待て、そんな作戦だったのかい」


 探索者たちから様々な声が上がる。その中にはギルマスも看過し得ない発言もあった。探索者たちも狙っていたらしい。だがギルマスにそのまま言っても通用しない。十兵衛たちはギルドに着いたら美香に挨拶してすぐにダンジョンに潜り、戻ってきた時はボロボロなことが多い。

 十兵衛たちに直接直訴すると言う手は使いづらかったのだろう。だからギルマスを動かした。

 十兵衛は天を仰いだ。どうしてこうなったと。だがもう歯車は周り始めてしまった。この流れは止められない。


「まぁまぁ。順番と言うのがある。後チーム・暁は今進撃の途中だ。当然君たちはチーム・暁の邪魔なんてしないよね」


 ギルマスが沸騰している探索者たちを落ち着かせる。そこは流石にギルマスと言う雰囲気だった。


「当たり前だぜ」

「弱いものいじめなんてする気はないさ。ただ十兵衛くんの本気と仕合いたいだけだ」

「俺は茜さんと戦ってみたい」

「あたしは最澄くんと話したい!」

「梨沙ちゃんに癒やされたい」


 なんだか酷い事になっているが、梨沙の迎えが来て十兵衛たちが逃げ去るまでギルドの雰囲気は変わらなかった。




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