008.エンカウント
「流石にモンスターと戦わないのはダメだな」
「うん」
「そうね」
「あたしもモンスターと戦いたい!」
二階層に入ってもモンスターとのエンカウントはなかった。コメントも新宿ダンジョンの低階層ならそんなもんだとまったりした進行になっている。なにせこのままじゃお散歩動画だ。
「とりあえず最短ルートじゃなくてこっちのルートを通って見よう。それならモンスターエンカウント率も上がる筈だ。実際低階層は五階層を攻略して転移球に登録されればみんな通り過ぎる階層だからモンスターが居ないってことは無いはずだ」
「そうだな、俺がやってた時も普通にエンカウントしたけれど、やっぱり三月から四月の登録期、それにGW、夏休みはエンカウント率が激減したな。単純に低階層を攻略する人数が桁違いなんだよな」
最澄が十兵衛の提案に頷く。更に最澄の経験談まで教えてくれた。ならばルートを変えるだけだ。
:お、ルート変えて戦闘?
:どんな戦闘するか見て見たかったから丁度いい。
:今日はお散歩で終わるかと思ってたからな。
:でもいきなり六階層とかでエンカウントするとグロ動画になる可能性が高いから低階層で陣形整えたり連携確認したりとかって必須なんだよな。
:若い子とか普通に最短ルートお散歩しちゃって六階層で初エンカで事故とかあるもんな。
:ほんそれ。若い子のグロ映像は見たくない。頼む、頑張ってくれ!
コメントでも十兵衛の提案には賛成らしいことがわかってホッとする。
ちなみに低階層初期に出るのはゴブリン系だけだ。五階層にコボルトと呼ばれる犬鬼が出る。三階層になるとゴブリンライダーと言う狼に乗ったゴブリンが出るので、先に通常ゴブリンと戦って置きたい。
「じゃぁ本来はこっちだけど違うルート取るな。それでも攻略時間は戦闘時間を除けば一時間も変わらない筈だからなんとか今日中に五階層の転移球まで行けると思う」
「えっ、今日中に五階層の転移球まで行く予定だったの!?」
十兵衛が予定を知らせると茜が驚いたように声を上げた。それほどおかしいだろうか。このメンバーならば、少なくとも五階層を超えた人間が二人居て、ジョブ持ちのプリマヴェーラである十兵衛と梨沙がいるのである。五階層くらいならば一息に行けると思っている。
ただコメントで貰ったように最短距離ルートを取るといつエンカウントするかも不明なのでエンカウントするようにルートを変えるだけだ。予定は変わらない。
実際梨沙も十兵衛も十二時間を超えて歩いたくらいで疲弊したりはしないくらい鍛えている。既にレベルアップもしていて探索経験のある二人もそうだろう。
(いや、茜と最澄は俺らのことはよくわかってないのか。でもまぁ予定は予定としてそのまま変えないで行こう。四階層まで行ってそのまま引き返すより五層をクリアして六層の転移球に登録するだけの方が時間の節約になる)
「俺と梨沙は大丈夫だ。そのくらいは鍛えてる。信じてくれ」
「おう、まぁ十兵衛がそう言うならいいけど、普通は十時間以上警戒しながら歩いたりとか初心者はできねーからな? 今日は三階層くらいまで行って様子見るだけだと思ってたよ」
最澄からもそう言われたがどちらにせよ低階層は通過点だ。梨沙もゴブリンと戦いたくて探索者になった訳ではないだろう。ならばさっさと抜けてしまうに限る。ただしある程度の連携や最澄と茜の実力の程も知っておきたい。
まさか二階層を半分来てまで全くエンカウントしないとは思って居なかった。それだけ大学生になって、もしくは高校生になってダンジョンに挑戦する人数が多いと言う事だ。
「お、こっちならモンスターの気配があるな。やっぱりルート変えて正解だった」
「え? この距離でわかるの? 私全然わからないよ?」
「足音とかグギャッとか声が聞こえる。あの角を曲がったところに二体居るな」
「マジか、十兵衛すげぇな。俺も全然わからん」
「あたしも」
十兵衛がゴブリンらしき気配を探知したが三人はわからないらしい。
:ってかこの距離でわかるのか。忍者くんヤバイな。
:いや、普通わからんて。
:中層の斥候でもわかるかどうか怪しいレベル。
コメントでもそう言われてしまっている。ただわかるものはわかるのだ。それに先手を打てるに越した事はないし、〈気配察知〉の存在は知らせている。そのレベルが思ったよりも高かっただけなのだろう。同じパーティなのだから慣れて貰わないと困る。
「とりあえず十兵衛くんの実力を見せて貰おうかしら」
「おう、そうだな」
「十兵衛で良いですよ」
「あ、ごめんなさい。そうね。十兵衛、宜しく」
「はいっ」
十兵衛はそう言われて角から五mのところでダッシュし、予想通り居た棍棒を持った汚らしい子鬼、ゴブリン二体を発見し、即座に忍者刀を薙いで首を落とした。
「は?」
「え? もう終わり? 全然見えなかったけど」
「十兵衛ちゃん、本気でやり過ぎ」
三人からは呆れた声が掛けられるがそんなことを言われても困る。と、言うか十兵衛はまだまだ本気なんて出してなかった。スローにしか見えない木偶のようなゴブリンの首を落としただけだ。
:はええっ。
:ってかドローンが追いついてなくてすでに魔石に変わってたんだが。
:あの一瞬にゴブリン二体倒したってマ? でも実際魔石落ちてるから嘘言ってる可能性ゼロなんだよなぁ。
:大型新人現る。ちょっと俺宣伝してくるわ。
「あ~、じゃぁ次はちゃんとみんなの前で戦うよ。それでいい?」
三人はそれぞれ頷いた。角を曲がったところで倒したので十兵衛の戦いの姿はドローンにすら映ってなかったのだ。当然三人も見ていない。結果だけ突きつけられた形になってしまっている。
(まぁいいか、まだまだ手を抜いても倒せるってことだしな)
十兵衛としては忍者刀一本だけで倒せる相手は余裕が過ぎる。なにせ忍術も苦無や手裏剣、煙玉などの道具も使っていない。背中に背負った強敵用マチェットは当然ゴブリン相手には抜く必要すらない。
「お、あっちにも居るな。やっぱりこっちのルートを取ってる人はあんま居ないらしい。今度はちゃんと皆の前で戦うから見ててね」
少し待っているとゴブリン三体が現れる。ドローンにもしっかり収められている筈だ。当然最澄たち三人にもゴブリンの姿が見えている。
グッと腰を落とし、ふっと膝の力を抜く。そのまま突進。ゴブリンは驚いた表情をしているが気にせずに忍者刀を抜刀。そのまま袈裟で一体倒し、返す刀で二匹目の首を落とす。そして飛び上がり、三匹目に後ろ回し蹴りで首を折る。
「ふぅ」
三体のゴブリンの姿が塵になり、魔石に変わって行く。特にドロップはなく、小さな魔石が落ちているだけだ。
:いやいやいやいや。
:何今のスピード。
:一瞬でゴブリンが魔石に変わったんだが?
:今来た。驚愕してる。
コメントが賑わっているがまぁそれはいい。パーティメンバーたちの顔を確認すると梨沙がドヤ顔をしている。まぁ梨沙は十兵衛がどのくらい戦えるかは昔から知っているのでこのくらいは出来て当然と思っているだろう。
「いや、マジか。十兵衛強すぎ問題なんだが。これなら五階層まで今日中に行くと言われても納得するわ」
「うん、三体のゴブリン瞬殺とか流石に初心者とは思えない。普通の初心者は五人とか人数多い状態で戦うのよ」
最澄と茜には十兵衛の力が驚きだったようだ。だが風魔忍者の末裔として鍛えられてきた十兵衛としてはこのくらいはできて当たり前だ。
分家のもっと若い忍者でもゴブリン程度は瞬殺だろう。一応本家の小太郎候補としてこのくらいできなければ話にならない。北条家としても令嬢の護衛に選ばれるだけの実力を十兵衛は持っているのである。
「ふふん、十兵衛ちゃんは凄いんだから」
「だからなんで梨沙が偉そうなんだよ! あと十兵衛ちゃんって言うな」
十兵衛はなぜか偉そうな梨沙に突っ込んだ。




