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079.決戦・クイーンアント・終

 近衛アントがギチギチとその剛顎を鳴らしている。自らたちの護る女王を傷つけさせはしないと。

 体高は三メートルを超え、像のような大きさだ。それが十二体。女王の傍に二体控え、近衛アントは十兵衛たち侵略者を見下ろしていた。

 自分たちが負ける訳がない。仮令雑兵たちが全滅したとしても、高位の近衛アントならば女王を守りきれる。その矜持が、モンスターであると言うのに見られる気がした。近衛アントから漏れ出す妖気はブラックヴァイパーに届きうるかも知れない。それが複数いるのだ。簡単に行く訳がない。


「皆、気を抜くなよ。手強いぞ」

「見ただけでわかるさ」

「本気で行くわ」

「みんなに〈強化〉を掛けるよ~。十兵衛ちゃんは本気出してね。じゃないと誰か死んじゃうよ?」


 十兵衛は痛い所を突かれた。梨沙の言う言葉は本当だ。このレベルでは、最澄か茜のどちらかが失われかねない。

 命が奪われなくても例えば腕を、足を喰われたらどうだろうか。フランスにいる聖女にでも頼まなければ四肢欠損は治せない。そして日本は聖女を呼び出せるほどの発言力がない。こちらから行っても順番待ちは長いのだ。数年待たされるなどざらだろう。つまりその線は使えない。

 斬り落とされた程度ならばポーションと梨沙の治癒魔法でも治る。つまり失わなければ良いのだ。

 だが失わなくても四肢欠損などは大怪我だ。リハビリも必要になる。ダンジョンアタックが予定通り行えなくなる。つまり夏休み中に二十層をクリアして下層探索者になると言う十兵衛の予定は狂う事になる。


(仕方ないな、梨沙はいつも本質を突いてくる)


 十兵衛は気合いを入れた。本気モードだ。


 :十兵衛くんの表情が変わったね。

 :本気モードの十兵衛くんマジ格好いい。

 :いや、普段の十兵衛くんも十分格好いいが?

 :これだからガチ恋勢は。

 :それにしてもクイーンアント戦とかそうそう見れないぞ。

 :近衛アントとか相当ランク高いって言うしな。映像記録もそんなにないんだよな。

 :基本下層探索者が戦う相手だからな。中層探索者がやる相手じゃない。

 :でもチーム・暁はそれに挑戦してるんだよなぁ。

 :たった一パーティで下層探索者が十パーティ以上使うクイーンアント討伐成し遂げるとかある?

 :でもチーム・暁ならあり得る。

 :ってか勝算がなければ十兵衛くんは逃げるでしょ。梨沙ちゃん抱えて。

 :それは確かに。

 :じゃぁ勝つな。

 :問題はどうやって勝つかだ。圧倒して勝てる……のか?

 :それをこれから見せて貰うんだよ。


 ガイン。近衛アントの突進を最澄が受ける。前まで、特訓前の最澄ならば吹き飛ばされていただろう。だがそれを耐えた。タンクとして当然の技能ではあるが、しっかりと盾の使い方に熟達し、熟練度が上がっているのがわかる。

 その後ろの梨沙は雷魔法を放っている。同時に最澄の火魔法が近衛アントを襲う。だがそれでは足りない。ダメージにはなっているが、ピンピンしている。


「足止め、ナイス」


 そう言って十兵衛は空を蹴った。〈天駆〉で近衛アントの頭の上まで飛び上がり、更に障壁を作り出し、急降下する。


「雷遁〈雷走り〉」


 忍者刀二本に雷を纏わせる。攻撃力が幾倍にもなった十兵衛の忍者刀は近衛アントの首を見事に落とした。


「さす十兵衛ちゃん」


 近衛アントはしばらくバタバタと暴れていたが、首を落とされてはどうしようもない。塵となり、でかい魔石と殻をドロップして死んだ。


「はぁっ」


 茜は薙刀で必死に近衛アントの顎を防いでいる。攻撃にも転じているが小さな傷を入れられるだけで致命傷には至らない。そこへ最澄の火魔法が近衛アントの横ツラを弾く。


「好機!」


 茜は飛び上がり、太刀を抜く。下層でも通用する妖しくほのかに朱に光る刀身がズブリと近衛アントの頭の殻を貫通し、柄までめり込む。

 流石にそこまでされては近衛アントも死は免れない。


「〈三重結界〉!」


 梨沙は茜や最澄を狙っている近衛アントを結界で防いでいる。その貴重な時間で二人は体勢を立て直す。


「まだまだいるぞ。気を抜くな」


 十兵衛はそう声を掛けながら即座に駆け出す。近衛アントのでかい顎が迫る。タイミング的に完璧に十兵衛は近衛アントの顎に噛み砕かれる……筈だった。


「隠遁〈空蝉の術〉」


 十兵衛の居た場所には丸太があり、それを近衛アントが咥えている。何が起こったのか理解できていない近衛アントの頭に雷を纏わせた忍者刀で首を落とす。

 蟻は胴体と頭を繋ぐ首が薄い。故にそこが弱点ではある。だが頭が大きいので首に攻撃する為には横に回るか、上空から攻撃するしかない。

 高さ三メートルもある近衛アントの頭を避けて横に周るのは至難の業だ。故に十兵衛は上空から攻撃する方法を選んだ。


「〈障壁〉!」


 十兵衛に向かってきていた近衛アントが、梨沙の障壁で止められる。そこに最澄の火魔法が炸裂する。追撃とばかりに梨沙の電撃が近衛アントを痺れさせる。茜が太刀を振るい、その首を落とした。


(うん、行けるな。完璧な連携だ)


 近衛アントは何トンあるのかわからない。虫だからと言って軽い訳ではないのだ。何せでかい。象よりでかいのではないのだろうか。

 十兵衛は本気であるが、強い忍術は使えない。洞窟が崩落してしまうからだ。流石に何百トンもの土砂に埋もれては十兵衛でもどうしようもない。

 その枷がないように十兵衛は縦横無尽に動いた。

 配信のドローンカメラが負えないほどのスピードを出し、近衛アントの視界から消え、そして首を落とす。

 最澄たちは任せて大丈夫だ。その信用が、十兵衛を自由に動く事に繋がる。


(あいつらも強くなったな)


 十兵衛と比べてはどうか、と言うとまだまだだ。だが探索者としては、十分下層へ行けるだけの実力がある。実際下層で出てくるであろう近衛アントとなんとか戦えているのだ。

 多少危なっかしい部分はあるが、そこは梨沙がしっかりとフォローしている。梨沙は攻撃のタイミングや相手の隙を見つけるのが上手い。これは天性の物で、十兵衛は修行で後天的に手に入れたが、梨沙は最初から持っていた。故に護身術も護身術の域を超え、達人並の実力を持っている。


「はっ」


 十兵衛が倒した近衛アントは六体にも登る。ちょうど半分だ。その間に三人は三体の近衛アントを倒している。だが最澄が怪我をしている。耐えきれなくて吹き飛ばされたのだ。骨折まではいっていないようだが、かなり苦しそうだ。

 最澄抜きでは近衛アントの相手は難しい。十兵衛は茜と共に戦う事にした。


「梨沙、下がって最澄の回復を」

「はいっ」


 梨沙に指示を出し、最澄は自前のポーションを飲んでいる。だがポーションも治癒魔法も万能ではない。一瞬でゲームのようにHPを全快してくれる訳ではないのだ。どうしても回復には時間が掛かる。


「十兵衛くんと二人での共闘は珍しい組み合わせよね」

「最近はなかったな」


 軽口を叩きながら残り三体になった近衛アントを見る。近衛アントは二体常にクイーンに張り付いていたのだが同胞がどんどんやられていくのを見て参戦を決めたようだ。

 クイーン自体に戦闘力はほとんどない。クイーンビーとは違うのだ。クイーンアントは腹がデカく、卵を生む為の装置と化している。だが今はその兵隊たちは居ない。近衛アントも残り三体だ。


「やるぞ」

「やるわ」


 二人で息を合わせ、近衛アントの顎を止める。そして茜が近衛アントの口の中に薙刀を投げた。

 流石に驚いた。だがそれはかなり深くまで行ったようで、近衛アントが塵になり、魔石とドロップになる。即座に茜は投げた薙刀を拾った。


「なかなか豪快だな」

「この薙刀は大事だけれど、道具だからね。必要とあればああいう使い方もするわ」

「じゃぁ片方は任せる。俺がもう片方を始末する」


 十兵衛は向かってくる最後の二体の近衛アントの右側に向かう。茜は太刀で左手の近衛アントと戦う。倒さなくても良い。十兵衛が近衛アントを倒す間に耐えきれば良いのだ。茜もそれはわかっている。


 シュン、と擬音がなるように十兵衛は姿を消し、近衛アントの頭の上に立つ。当然忍者刀は既に構えられている。近衛アントは何があったのかわからないようにきょとんとしている。そしてズブリと忍者刀の刃が近衛アントの頭に刺さる。


 これでOK、と茜の方を見ると善戦していた。更に遠距離から梨沙が障壁を張って護っている。流石梨沙だ。完璧なサポートだと思った。

 十兵衛は茜ばかり見ている近衛アントの横に周ると、即座に首を落とした。

 これで十二体。全ての近衛アントが倒された。広大な洞窟にはクイーンアントと大量の卵しかない。それもすぐには孵化しない。故にもう勝負は決まっている。


「最澄、最大の火魔法でクイーンアントを任せていいか」


 復活した最澄に振る。おそらくそれで最澄はレベルアップするだろう。やはりレベルアップは大事だ。


「わかった。火の精霊よ、我に力を貸し給え。その劫火を持って、我が的を討て! 〈火炎竜巻〉!」


 クイーンアントは悲鳴すらあげなかった。炎の竜巻に飲まれ、そのまま絶命していく。こうしてチーム・暁のクイーンアント討伐戦は終わったのだった。



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