077.決戦・クイーンアント・壱
「十兵衛、やり過ぎだ! 耳が痛くて堪らない」
「キーンってするわね」
「あたしは結界で皆を護ったよ。でも凄い音だったね~」
十兵衛の雷遁〈轟雷・天〉は十全な威力を発揮していた。蟻塚は消し飛び、中に居たジャイアントアントも多く殲滅できた。少なくとも百は軽く超えるジャイアントを倒した感触がある。
(レベルアップしたな。流石に大量に倒せばレベルアップするか)
レベルアップはトドメを刺した者だけに訪れる物ではない。同じパーティにも経験値は配布されると言われている。そうでなければサポーターや治癒士はいつまでもレベルアップできない。だがやはり一番経験値が入るのはトドメを刺した者だ。
「ってか俺明らかにレベルが上がったぞ」
「私も上がったわ。感覚があったわ」
「あたしもあったよ~。十兵衛ちゃんありがとう! もっと強くなれたよ」
「じゃぁその上がったレベルで戦闘を試そう。ほら、ジャイアントアントたちが怒り狂って出てきたぞ」
十兵衛が作った大穴からはジャイアントアントの群れが百を超える数の暴力で向かってきていた。幸い周囲の森は雷で焼かれ、荒野のようになっている。存分に戦うことができるが、一つ間違えば包囲殲滅されてしまう不味い状況だ。
だが十兵衛は仲間たちならこの状況も耐えられる。乗り越えられると信じていた。故に積極的には戦いには加わらず、彼らの成長の糧に、経験にして欲しいと後ろで見ていた。
「ちっ、多すぎる! 〈火炎珠・重〉」
「どんだけ倒しても減った気がしないわね」
「〈障壁〉〈雷撃〉!」
最澄は短槍と火魔法で、茜は薙刀で一気に何匹も、そして梨沙は障壁で押し寄せる敵を抑えながら雷魔法で一匹ずつ倒していく。
無限に続く、なんてことは有り得ない。蟻塚に居るジャイアントアントの数は確かに多い。だがきちんと戦えば数は減るのだ。そしてモンスターは死骸が残らないのが良い。これで死骸の残るタイプだったら戦う場所が限定されてしまう。
「蟻酸だよ、気を付けて」
「応」
「ハイジャイアントアントは本当硬いわね、もうっ」
三人は文句を言いながら華麗な連携を見せてジャイアントアントの群れを的確に捌いている。なかなかのものだ。これまでの経験が生きている。このメンバーなら行ける、という十兵衛の勘は外れていなかった。
それから一時間は経っただろうか。全員がへとへとだ。傷も負っているが重傷だけは避けている。
出てくるジャイアントアントの数も減ってきた。魔石やドロップは邪魔になるので十兵衛が拾い、マジックポーチに放り込んでいる。一応十兵衛も彼らを助ける気はあったのだが、このままなら問題なさそうだ。
「終わった、か?」
「もう出てこないわね」
「多分尽きたんだろうね~。何百匹倒したかわかんないね~」
「あぁ、おかげでまたレベルが上がったぜ」
「私も上がったわ」
「あたしも上がったよ~。一日に二回もレベルが上がるってそうそうないよね?」
「普通そんなに連戦しないのよ。普通のパーティならね。蟻塚を見たら逃げる、が常識よ?」
梨沙の言葉に苦笑しながら茜が答える。そう、普通はジャイアントアントの蟻塚に中層パーティが一パーティで対処するなど有り得ない。
むしろギルドが率先して下層探索者を集め、三十人以上集めて対処する相手なのだ。
だが十兵衛は行けると踏んだ。そして三人はそれに答えた。これが答えである。
「な、行けただろ? じゃぁクイーンを倒しに行こうぜ。クイーンには近衛アントが護っている筈だ。近衛アントは下層級らしいぞ。戦う力は残っているか?」
「ちょっと、……待ってくれ。水を飲ませて休ませてくれ」
「私もちょっと辛いわ」
「あたしはまだ行けるかな。でも最澄くんと茜ちゃんは休んだ方がいいよ。ね、十兵衛ちゃん」
「そうだな、少し休憩するか。もうジャイアントアントは出てこないしな。他のモンスターが集まってきたら俺がやるから三十分休憩な。それで息を整えてしっかり戦える状態まで戻してくれ」
「わかった。助かる」
「ありがとう。これで即特攻って言われたら死を覚悟するところよ」
「死線を超えるって意味ではありだと思うんだがなぁ」
十兵衛がそう呟くと二人がぎょっとした。梨沙が十兵衛の肩にポンと手を置く。
「十兵衛ちゃん、それはスパルタが過ぎるよ?」
「そうか? 特訓の時はこのくらい当たり前だっただろう?」
「あれは特訓なんだよ。と・く・べ・つ・な訓練なの。普段からやるもんじゃないの! しかもここはダンジョンなの! いつ死ぬかわかんないの。命は一つしかないんだよ?」
「でも俺は毎日アレをやってるぞ」
十兵衛がそう反論すると最澄が悔しそうに呻いた。
「だから十兵衛は強いんだよなぁ。くそぉ、遠いなぁ」
「そうね、あの特訓が日常なんですものね。追いつくなんて夢のまた夢ね」
「そんな事言わずに追いついてくれよ。このパーティで深層に行く。俺はそう決めてるんだからな」
「そう言って貰えるのは嬉しいし、期待に応えたいとは思っているよ」
「私もよ。でも、頼むから今はちょっと休憩させて」
「わかったわかった。椅子に座って休んでくれ。十分水分も取ってな。クッキーなんかを食べてもいいぞ」
そう言いながら十兵衛は周囲の警戒に戻った。梨沙はリクライニングのあるキャンプチェアを用意して三人で座っている。きちんと外側を向いて三方向を警戒しながら休んでいる。これで並んでいたらバックアタックを受けた時に対処ができない。わかっているな、と十兵衛は思いながら哨戒を始めた。
:十兵衛くんたちがジャイアントアントの蟻塚に突っ込んでる件。
:マジキチ。
:いや、普通回れ右してギルドに報告でしょ。一パーティで数百、もしくは千を超えるジャイアントアントを倒さなきゃならないんだぞ。
:それな。と、言うかもう戦い始めるみたいだな。
:なんか上級忍術とか言ってる。
:十兵衛くんの本気?
:十兵衛くんなんだかんだで普段はパーティメンバー鍛えるために手加減してるからな。
:本気出したら十兵衛くんだけで中層突破できちゃうんよ。
:それはマジ。
:でも下層や深層は一人ではいけないから、仲間が必要ってことは十兵衛くんもわかってるとは思うんだけどね。
:十兵衛くんならソロで下層まで突破して、それで有名パーティに参加するって手も取れた筈だけどね。
:それはほら、梨沙ちゃんの護衛だから。
:あ~、それがあったか。つい忘れてた。
:でも梨沙ちゃんも強いんだよなぁ、普通に下層で通用しそう。
:いや、最澄くんと茜ちゃんも通用するでしょ。十七階層を抜けたら一気に二十層まで行くパーティが多いんだぞ。そして十七階層でちゃんと戦えてる。つまり下層に行くだけの実力はもうあるんだよ、チーム・暁は。
:めっちゃ語るじゃん。
:いやまぁその通りなんだけどね。今二十層ボスと戦っても勝てると思う。
:十兵衛くんが詠唱しだした。
:マジで、十兵衛くんの詠唱とかマジレアなんだけど。
:基本忍術は詠唱なしだと思ってた。詠唱あるんだな。
:ってか雷神の加護って何。そんなの貰ってるの。
:火神と風神の加護も貰ってそう。
:ありそう。忍術のレベルが魔法より強いんだもん。
:うおっ、画面が真っ白に!
:音もすげぇ。爆音注意。
:遅い。もう耳壊れた。
:目もやばい。まだ白くなってる。
:画面見えねぇ。
:サングラスしてた俺勝ち組。でも耳栓も必要だとは思わなかった。
:ってか蟻塚吹っ飛んでね?
:吹っ飛んでるね。ってか大穴空いてるね。
:これ百体単位でジャイアントアント殲滅したんじゃ?
:一撃で? 化け物じゃん。
:いや、十兵衛くんが化け物なのはいつものことだよ。今更定期。




