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075.再訪・十七層

「十六層はもう余裕だな」


 十兵衛が呟くと三人からしっかりと返事が返ってきた。実際余裕だ。何せ傷一つ負ってない。梨沙の治癒魔法が一度も使われなかったのだ。


「うん、大分慣れた。ここだともう物足りないかな」

「そうね、十七層はまだ慣れないけど十六層はもうお腹いっぱいね」

「えへへっ、あたしいっぱい活躍したよ!」

「梨沙はじゃぁ十七層でもいっぱい活躍しないとな」


 十兵衛がそう言うと梨沙が膨れる。


「もう! そういう時はちゃんと褒めるの! 十兵衛ちゃんのバカ!」

「よしよし、梨沙は頑張った。偉いぞ」

「えへへっ、そう素直に褒められると照れちゃうよ十兵衛ちゃん」

「どっちだよ!」


 梨沙の頭を撫でて褒めてやると梨沙の顔が真っ赤になる。


「褒めて欲しいのは本心なの。でもそう直球で来られると困るっていうか」

「でも俺たち婚約したんだからもっと距離近づけたいって言ったのは梨沙じゃないか」

「そうなんだけどさ~、っていうか十兵衛ちゃん案外ストレートに直球投げてくるよね。嬉しいんだけど、マジ照れる」

「あぁ~、もう、ダンジョンでイチャイチャすんなよ。こちとら彼女いないんだぞ」

「私もよ。甘い物を食べた気分にさせられたわ」


 最澄と茜から文句が飛んできた。だがこれは仕方ないことだろう。諦めて貰うしかない。何せ梨沙が婚約で浮かれているのだ。そして十兵衛も浮かれている自覚はある。止めろと言われて止められる物ではないのだ。


「ゴホン、さて、気を取り直して十七層だ。今回は六時間くらい十七層に滞在する。これは十七層の正規ルートを通って攻略する目安の時間だ。六時間戦い続けられなきゃ十七層は攻略できない。当然十八層にもいけない。と、なると十六層の最奥で休んでいる奴等みたいな探索者に落ちぶれるぞ」


 十兵衛が発破を掛けると三人に強い意思の力が瞳に宿った。

 ドロップアウトした、諦めた探索者にはならないと。下層、深層と目指すのだと。


「いい眼だ。その眼なら熟せるな? 余裕を持って熟すんだぞ。ギリギリいっぱいだと十八層への攻略許可なんて出さないからな」


 十兵衛はそう言って先陣を切って十七層のジャングルに足を踏み入れた。



 ◇ ◇



 ジャイアントモスが毒の鱗粉を振りまいて空中を飛んでいる。それを棒手裏剣で殺しながら最澄たちの戦いを見る。

 ジャイアントビートルと呼ばれるカブトムシに似たモンスター。だがその大きさと質量、そして硬い殻に覆われたその防御力。茜の一撃でも一刀両断できず、更に最澄の火魔法も耐えている。

 流石にそのくらいの相手になると梨沙の出番はない。ジャイアントビートルが突進してきた時に障壁を張り、突進の勢いを落とす事だけだ。障壁は幾度も破られ、ジャイアントビートルの動きが鈍る。


「望月流・〈椿華〉」


 気合いの入った一閃が煌めき、ジャイアントビートルの首が一撃が落ちる。


「すげぇ、それ俺習ってない」

「そりゃ奥伝ですもの。まだ中伝に差し掛かったばかりの最澄くんに教える訳がないわ。でも基本の応用なのよ。だから基本さえ出来てれば自然とできるようになるわ。魔力はあるんだから、魔力操作をしっかりと鍛えなさい。身体強化の魔法もまだ粗があるわよ」


 十兵衛が最澄に言いたい事を茜に全部言われてしまった。

 風間屋敷では茶化してしまったが、最澄と茜の距離感は良い感じに見える。

 茜はパーティ内恋愛に忌避感があるようだが、十兵衛と梨沙がくっついてもチーム・暁の雰囲気は変わっていない。少なくともパーティ解散などと言う事はないだろう。ならば最澄と茜がくっついても問題ない。十兵衛はそう思うが、まずは最澄が茜に認められるほどの強者にならなければいけない。


(二人も相性良いと思うんだけどな)


 二人がお付き合いをするには茜側の要求のハードルがとても高い。

 風間家の、いや、風魔忍者から見ても茜の体術、薙刀術、剣術は全て高いレベルにある。十兵衛が戦えば負ける事はないが、じゃぁ全ての忍者が茜に勝てるかと言うと疑問がある。

 中級忍者くらいならなんとかなる。それを風間屋敷の特訓で茜は証明した。琢磨も驚いていた。そして茜に負かされた中忍はしっかり修行するように言いつけられた。頭領からの言葉である。その命令は──重い。


 最澄は中忍に勝てる事はなかった。だがなかなか良い勝負をしていた。少なくともダンジョンに潜っていない下忍よりはよほど強い。

 ただ忍者の仕事は強さだけでは測れない。気配を消す能力。必要な情報を抜き取る能力など多岐に渡る。戦闘力はその一部でしかないのだ。


「次が来るぞ。総員警戒」


 ジャイアントスタッグ──巨大なクワガタと、ハイデスマンティス──巨大な蟷螂が現れ、十兵衛たちを親の敵のように狙ってくる。スタッグの顎に挟まれれば胴が生き別れになる。デスマンティスの鎌はまともに受ければ致命傷に届きうる。

 更に上空にデス・モスが現れた。アレはヤバイ。デス・モスは通常のジャイアントモスなどよりも遥かに強い毒を撒き散らすのだ。しかもその毒は人間にしか効かず、モンスターが弱ったりはしない。十七層でも見かけたら逃げろと言われる筆頭格の一つである。


「アレは俺がやる。三人はスタッグとマンティスの相手を」


 返事を待たず十兵衛は飛び上がった。更に空を蹴り・・・・、デス・モスに接近する。しかしデス・モスは危険を感じたのか羽ばたいて逃げていく。鱗粉を吸わないように十兵衛は息を止める。


「風遁〈風刃・重〉」


 幾重もの風の刃がデス・モスを切り刻む。塵に成り、魔石になることで死んだ事を確認する。モス系は厄介だが防御力はそうでもない。ただ飛んでいるので魔法でないとそうそう対処はできない。十兵衛のように空を駆ける方法がなければ。


 これは最近できるようになった〈天駆〉と言う特殊な歩法のようなものだ。実際は小さな障壁を空中に生成し、それを蹴って移動する。三次元的に、立体的な動きができるのでかなり便利だ。

 地面に降り立つと三人はきちんとスタッグとマンティスを倒していた。他にも飛蝗のモンスターが攻撃してきたらしい。死体が残っている。茜がトドメを刺して魔石に変わる。


「相変わらずえげつねぇな、十七層は」

「そうね、油断ならないわ」

「ひ~ん、虫はもうイヤだよぉ」

「でも梨沙ちゃん、ちゃんと対処できてたよ」

「嫌いだから早く死んじゃえ! って頑張ってるの!」


 梨沙はそういう方法で十七層のインセクト型モンスターに対処するようにしたらしい。確かに早く殺せばその姿を見る時間が減る。更に戦闘時間も減る。両立した良い方法だ。


「あっちにトレントがいるぜ」

「トレントの木材は高く売れるから狩って置こうか」

「おう、十兵衛は周りの警備をお願いできるか」

「いいぞ、じゃぁトレントは三人に任せた」


 そう言って十兵衛はトレントの周辺に集まって来たインセクト型モンスターを狩り始めた。



 :いやぁ、十兵衛くん十七層でも無双なんだよなぁ。

 :ってか苦戦って下層の相手にしかしてない? ブラックゴブリン・ジェネラルとかブラックヴァイパーとか。

 :そうだね。傷自体殆ど負わないよね。全部避けるか受けてる。

 :大怪我してる姿見たことないな。

 :え、それ凄くない。十七層まで戦って無傷とかある?

 :いや、普通はない。十兵衛くんが異常なだけ。

 :十七層の厄介な擬態型モンスターも全部看破してるから問題ないんだよな。ただパーティメンバー鍛えたくて十兵衛くんが指摘しないだけで。

 :他のメンバーはまだ気配察知の熟練度が低くて擬態を見抜けない事あるもんね。

 :でも結構見抜いているぜ。俺が十七層攻略した時はさっさと抜けて十八層に行ってたからこんなに見抜けなかった。

 :それが普通なんだよなぁ。十七層で鍛えるとかあたおかとしか思えない。

 :その分みんなの気配察知がガンガンにレベル上がってるんだよなぁ。連携もうまいし、十八層以降でも十分通用するっしょ。

 :下層探索者から言わせて貰うともう下層でも通用すると思う。二十層のボスも十兵衛くん居れば楽勝とは言わなくても勝てるでしょ。

 :それはそう。でもパーティメンバーの為にならないから、十兵衛くんは特訓に付き合ってるんだよね。

 :またこの十兵衛くんの指揮の上手さよ。これうちのリーダーに学んで欲しい。

 :ほんと指揮的確だよなぁ。他のメンバーのびのびと探索してるもんな。

 :梨沙ちゃん涙目可愛い。

 :おい、梨沙ちゃんは十兵衛くんのだからダメだぞ。

 :いや、可愛いって見るくらいは許されるだろ。手を出すなんて言わないってか言えないって。十兵衛くんに殺される。

 :間違いないな。梨沙ちゃんのストーカーとか居るらしいけど軒並み姿消してるって噂だしな。

 :うわ、北条家怖っ。

 :いや、当然の自衛でしょ。

 :そうだな。ガチ恋勢も距離感ちゃんと見極めてな。憧れて見るだけならいいけど変なアタック掛けて迷惑掛けちゃダメだぞ。



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