074.雑談配信・壱
「じゃぁちょっと雑談配信を始めようと思います」
:十兵衛くんの雑談配信来た! 嬉しい!
:聞きたい事が多すぎて纏められない!
:それ。
:十兵衛くん謎すぎなんよ。
:でも強いから好き。東京の安定は十兵衛くんたちで護られてる。
:これだけの超新星はここ十年いなかったからな。チーム・アレクシオンも霞んじゃうレベル。
:アレクシオンはそれでもかなりいい所行っているパーティだけどな。
:じゃぁ十兵衛くん。質問です!
その質問には赤スパと呼ばれる高額投げ銭がついていた。コメント数が多すぎるので基本投げ銭がついたコメントだけを拾い上げれば良いと梨沙には言われている。既に投げ銭がついたコメントが百を超えそうなのだがどうすれば良いのだろうとちらりと梨沙を見る。
ここは梨沙が用意した客間を改造したものだ。梨沙が配信用に作って貰った部屋らしい。機材は揃っているし、多分普通の配信者では手に入らない機材も混ざっている筈だ。これを一式揃えようと思えばどれだけの金額が掛かるのか十兵衛には予想がつかない。何せマイクだけで五十万とか言われてしまったのだ。モニターも質がよく、三枚並んでいる。これも有名老舗メーカーの一番上のモデルだった筈だ。
:十兵衛くんは忍術をいつから使えたんですか?
「あ~、物心ついた頃には修行三昧でしたね。でも五歳くらいからは忍術の初級は使えたと思います。プリマヴェーラのせいもあったと思うんですが、そん時はわかってなかったので大人たちが驚いていましたね」
:凄い! 神童だ。
「その通り神童と呼ばれてました。今は只の人ですけどね、ハハッ」
:いやいや、ないでしょ。
:期待の超新星。ギルドも認める最短攻略保持者も持ってる十兵衛くんが言うセリフじゃない。謙遜が過ぎる。
:俺も十兵衛くんに触発されて十七層に挑戦してるからな。
:マジお疲れ様です。死なないでね。
基本的にコメントは温かい。と、言うか罵詈雑言や誹謗中傷に当たるコメントはAIが判断して載せないのだ。
(雑談配信って難しいな)
「まぁ答えられる事は答えるんで、じゃんじゃん質問してください」
それは画面に映っていない梨沙がフリップで十兵衛に指示した言葉だった。
待ってましたと山程のコメントが流れていく。二つ目のモニターには通常のコメントと違って投げ銭されたコメントだけ抜粋されているのでかなり助かる。十兵衛のパソコンではこれほどの処理はできないだろう。梨沙さまさまだ。
:どんな修行してたんですか?
:修行はやっぱ辛かったですか?
:忍者ってどうやってなれるんですか。
「あ~、修行は辛かったですね。骨とか普通に折られましたし血反吐吐いた事は何度もあります。と、言うか今の修行でもありますね。今時だと虐待だと言われると思いますけど、両親が俺を強くしようと言う意思と愛情があったのでDVではないです。愛情が多すぎて英才教育をするみたいな。また才能があったらしくて、両親が本気で鍛える事を決めた時からは地獄でしたね。学校が終わったら修行、修行、修行の毎日で友達と遊ぶ時間なんてありませんでした。あと忍者は忍者の里に生まれるしかないんじゃないかなぁ。偶に才能のありそうな孤児とかを引き取ったりしますけど、基本的はうちはうちの中で完結しています。分家の子を養子に取ったりとかも普通にありますね」
:もう分家があるだけで上流階級なんよ。
:梨沙ちゃんの婚約お披露目パーティは酷かったって代議士の先生が言ってた。
:代議士の先生に知り合いいるのか。いいな。
:阿鼻叫喚の嵐だったって。梨沙ちゃん狙ってた上流階級の人たちが多かったんだろうな。
:それが十兵衛くんへの縁談もいっぱいあってそれが両方おじゃんになったから阿鼻叫喚だったらしいよ。
:あ~、十兵衛くんが婿に来てくれたら強いよな。広告塔として最高。
:実際北条グループの株価上がったしな。
:忍術今からでも習いたい!
:それな。魔法のスキルオーブいらないもんな。多数属性使いこなしてるし、普通の魔法より威力高いし。しかも忍術格好いいんだよなぁ。
「ありがとうございます。忍術は俺のアイデンティティなので褒めて貰えると嬉しいです」
十兵衛は数百を超える質問から答えられ物だけを選んで配信を進めていた。梨沙が親指を立てているので問題ないのだろう。そうして十兵衛の始めての雑談配信は一時間の予定だったが伸びに伸びて四時間もやる羽目になった。十兵衛はダンジョンに潜っている方が余程マシだと思い、雑談配信は余程の事がないともうやらないと決めた。
◇ ◇
「どうだった、始めての雑談配信」
「いや、もう何がなんだか。コメントの流れが早すぎてモンスターの攻撃のが遅いと感じるよ」
「ふふっ、十兵衛ちゃんらしい感想だね。でも配信をしてお金を貰っている以上ある程度ファンサはした方がいいよ」
梨沙は嗜めるようにそう言う。だが十兵衛の心は違っていた。
「う~ん、でも俺は特に配信者として稼ごうとは思ってないんだよな。実際稼げているし、お金貰ってるから有り難いとは思っているけど、配信者じゃなくて探索者なんだからそっちで結果見せればいいやって思う」
「十兵衛ちゃんならそう言うと思ってた。実際そうやっている探索者もいっぱいいるよ。配信は副業。探索が本業。なら本業をメインにやるべきだってね」
「だろ?」
梨沙は「でもね」と続けて腕を組んだ。
「あのね、十兵衛ちゃんクラスになると流石にファンサがないのも問題になるんだよ。何せ一千万だよ? どれだけの人が十兵衛ちゃんに期待していると思ってるの? チャンネル登録者数千の配信者じゃないんだよ。そういう意味では十兵衛ちゃんは十分収益も貰ってるんだから、たまに雑談配信とかした方がいいと思う。十兵衛ちゃんの印象も上がるよ」
「そうかぁ。最澄や茜さんもそう言ってたしなぁ。月一、いや、二月に一くらいでやるかぁ」
梨沙は大きく頷いた。
「うん、十兵衛ちゃんのペースでいいんだよ。視聴者に媚びる必要なんてないの。でも偶にでもいいから、ファンのことを考えてあげて。普段の探索でも余裕があったらコメントに返信してあげて。それだけでファンが喜ぶし、十兵衛ちゃんの人気が高まるよ」
梨沙はそう言いながら少し微妙な表情をした。
「どうした、梨沙。何か悩みでもあるのか」
「あのね、ガチ恋勢って知ってる?」
「あぁ、なんか配信者に恋するみたいな奴か。梨沙や茜さんの配信でもいるよな」
「そう、それ。それ十兵衛ちゃんにも最澄くんにもいるんだよ?」
「えぇっ? 俺たちは男だぞ」
十兵衛がそう言うと「わかってないなぁ」と言う感じで梨沙が腕を振った。
「あのね、アイドルでも女性アイドルと男性アイドルがいるでしょ? 視聴者も男性も女性もいるんだよ。そして女性視聴者でガチ恋勢がいるの。実際街を歩いているとサインくださいとか握手してくださいって言われてるじゃん。アレだよ」
「アレか! ただのファンだと思ってた」
「いや、アレは重度のただのファンだよ。厄介勢ではないの。ガチ恋勢ってたまにストーカーとかになるんだよね」
「じゃぁ俺と梨沙は大丈夫じゃないか? 護衛に護られているし、送迎は車だし」
「うん、あたしと十兵衛ちゃんは大丈夫。でも最澄くんと茜さんがねぇ」
「あぁ……」
十兵衛はそこまで言われて気がついた。彼らは一般人だ。もちろん探索者であるので強い。だがその暴力を一般市民に向けて良いかと言うとそうではない。むしろ力があるからこそ、抑制しなければならないのだ。
「最澄と茜さんは大変なのか?」
「うん、直接は言わないけどちょっと面倒な事になってるみたい」
「じゃぁうちから何人か忍者の護衛つけるか」
「いいの!?」
十兵衛の提案に梨沙は驚いた。そんなことの為に風魔忍者が居る訳ではない。更に本来なら十兵衛の一存では決められない。頭領である琢磨が決め、氏康にお伺いを立てないといけない案件だ。
「俺の権限も結構あるんだ。相手は素人なんだろう? だったら分家の下忍か中忍のテストや鍛錬にちょうどいいと思うんだよな。その方向性で説得すれば行けると思う」
「ありがとう、十兵衛ちゃん」
梨沙はそっと近寄って、十兵衛を抱きしめた。




