073.雑談配信・零
「十七層は速攻抜けるだけなら難しくないと思うけれどちゃんと経験を積みたいな」
最澄がそう感想を述べた。茜も梨沙も頷いている。
「そうだな。最澄たちはもっと人型モンスター以外との戦いの経験を積むべきだと思う。実際苦戦してるだろ。ゴブリンやオークの方が戦いやすいのはわかるんだ。でもダンジョンには様々なモンスターも居る。そのうちドラゴンとかも戦うんだ。人型以外に慣れていたほうが良い。そして十七階層は一番向いている階層だ。下層の魔の階層はレベルが高すぎるからな」
「いや、今すぐ下層に行くとかレベル的にも実力的にも無理だって。それで、在宅配信するんだって。多分めちゃくちゃコメント来るぞ」
「あぁ、そういうのは俺は疎いからな。最澄や茜さんのアドバイスがあると助かる」
大学は夏休みだが通ってはいけないと言う理由はない。故に大学の休憩スペースに十兵衛と三人は集まっていた。実際多くの大学生がサークル活動や部活動で大学に通っている。
本題は十兵衛のチャンネル登録者が一千万人を超え、配信をすると同接が百万を超える事だ。そのうち三割ほどが海外勢らしい。
十兵衛は日本語と英語、そしてフランス語や中国語も喋れる。ヒンディ語は学んでいる最中だ。
敵が日本人とは限らない。むしろ外国人の方が犯罪者が多い。敵の会話がわかると言うのは戦闘にとってとても重要だ。故に外国語は積極的に学ばされてきた。
日本も故に移民を制限している訳だが、……不法移民でない、昔から日本に居る外国人を排斥はできない。そして外国人はダンジョンに潜る率が高いのだ。そして十分に稼いでいる筈なのに犯罪者に落ちる。巧みに誘われるのだ。犯罪組織に。これは日本の闇だと十兵衛は思っている。
故に警察も外国籍のダンジョン探索者にはかなり注視している。いつ彼らが犯罪者に落ちるかわからないからだ。だが警察に注視されていると言う事で外国人にルーツを持つ探索者たちは肩身の狭い思いをしているのも事実だ。鶏が先か卵が先か。難しい問題である。
(これは行政が考えるべきことで俺が考える事じゃないな)
それはともかく、本題は十兵衛の配信だ。コメントを追うと十兵衛の戦いを見るのも楽しいが、視聴者が十兵衛と話す機会を作って欲しいと言う要望が、それこそ数十万届いた事だ。これほどリクエストがあれば無視できない。
そして最澄や茜、梨沙は自宅配信と言う事で適度にガス抜きをしているらしい。その辺は十兵衛は苦手なので三人に相談している。
「十兵衛ちゃんは質問に答えて上げればいいんだよ。コメント多すぎて拾えないから、答えられる事だけ。あと投げ銭してくれた人を優先にすれば投げ銭が増える筈だよ」
梨沙のアドバイスでなんとなくわかる。実際十兵衛は勉強の為に他の探索者の配信をよく見るようになっている。そしてダンジョン配信だけでなく、在宅配信などと言うのも結構需要があるらしいのだ。
そして十兵衛は世界的に有名になってしまった。その需要は右肩上がりどころか連日ストップ高と言って良い。そろそろ一度ちゃんと話し合う機会を作るべきかと十兵衛ですら考えるほど要望が多いのだ。
視聴者たちは十兵衛たちを応援し、かなりの金額を投げてくれている。これに報いなければダンジョン配信者としては失格だと最澄に注意を受けてしまった。
なんだかんだで配信者はアイドル業と言う側面がある。十兵衛はその実力でバズったが、その影響で三人のアカウントも軒並み数百万の登録者が居る。そしてその中にはかなり過激なコメントをする奴等がいるらしいのだが、そいつらは基本的にスルーしていれば良識派十兵衛ファンが追い出してくれると言う。運営も酷い言葉を投げかけてくる視聴者はBANしてくれている。AI判定は辛いのだ。
「ふむふむ、そうやってやるんだな」
「うん、専用の配信部屋を作っても良いと思うよ。風間屋敷が特定されちゃうかも知れないから」
「それはよくないな。父上に相談してみるか」
琢磨の時代はダンジョン配信などなかった。だが琢磨は常にアップグレードしている。日本の探索者の配信などは結構観ているらしい。当然チーム・暁の配信は上忍たちを集めて皆で観ていると言う。
それを聞かされた時は十兵衛も恥ずかしくて赤面してしまったものだ。
だがダンジョン配信者として有名になった。故にファンサは必須だと梨沙は力説する。茜も最澄も同意のようだ。
「そういえば最澄や茜は俺たちが潜れない間に低階層の間引きをしているんだろう? 俺もそういうのやったほうがいいのかな」
「う~ん、十兵衛がやると低階層のモンスターが絶滅しそうだから辞めて置いた方が良いと思う。なんだかんだで低階層は登竜門なんだ。新規層がそれなりにエンカウントしないと育たないだろ。そういう意味では十兵衛は向かないな」
最澄にそう言われて仕舞っては仕方がない。ギルドの掲示板に時折低階層の間引きの依頼などが出ている。当然中階層や下層にもある。だが中層の間引きは下層の探索者が行うことだ。十兵衛たちの出る幕はない。むしろ中層攻略をしている今が、間引きをしている状態と言える。
「あぁ、でも十一層から十五層までの間引き依頼は受けてもいいと思うぜ。ただし十兵衛がソロで潜ったらまたバズると思うけどな。相手にならないだろ? それに普通は六時間とか掛かる探索を二、三時間とかで終わらせられるだろう? そんな事したら明らかにバズる。トレンドにも乗るかも知れないな。まぁこれは強制依頼じゃないし、十六層で留まっている探索者たちの飯の種でもあるから、あんまり受けると探索者の受けが悪くなるかも知れないな」
「そんなこともあるんだな。結構勉強したつもりなんだけど、まだ慣れないな」
ハァ、と茜がため息を吐く。
「十兵衛くんは自身が規格外だと言う自覚を持ちなさい。十兵衛くんの一挙手一投足が日本中、世界中から注目されているのよ。実際街を歩くと注目されているでしょう。そろそろ変装とかした方が良いわよ。むしろ遅いくらいね」
「変装か。それは得意だぞ」
忍者は色々な所に忍び込む。其の為の変装や、潜り込む相手の職業になりきる訓練もする。十兵衛は様々な訓練を受けているし、気配を消せば人混みだろうが誰にも気付かれない。そこは十兵衛の得意分野だった。
「まぁ一度やってみたらいいんじゃないか。在宅配信。家が特定されないようにな。特定されてもあの忍者屋敷なら速攻排除しそうで怖いけどな」
「まぁ人死にが出ることはあるよ。他の諜報組織がうちを調べていたりね。拷問して全部吐かせて毒で苦しませて殺すんだ。そういうノウハウがうちにはある」
それを言うと最澄と茜が一歩引いた。ドン引いたとも言う。
「そうだよな、十兵衛の家は忍者の家系なんだものな。敵も多いし、調べようとする勢力も居るよな」
「最近は伊賀忍か甲賀か、もしくは別勢力かわからないけれど、忍者に見張られているんだよな。警察には通報したけれどどれだけ対応してくれるかはわからない。相手も忍術使いだからこちらも対応しようとすると犠牲者が出る可能性がある。だから今は放置してるな」
「まぁ忍者の闇の世界はわかった。取り敢えず話を戻そうぜ」
「十兵衛ちゃん、どうせならうちでやらない? うちの配信部屋なら問題ないよ。防備は完璧!」
「それも良いな。俺の部屋は殺風景だからな」
梨沙の提案に寄り、北条家の一室を借りて十兵衛は雑談配信と言う物に挑戦することにした。当然ダンジョンに潜らない休日の日で、しっかりと対応するつもりだ。
梨沙はやる気で機材なども全部用意してくれるらしい。と、言うより梨沙の在宅配信用に一室すでにできているらしい。有り難い限りだ。
そういう訳で、十兵衛の雑談配信が決行されることが決まった。
十兵衛は自分の影響力がどれほど大きいのか理解していなかった。後々、雑談配信などしなければ良かったと思うほどに大変だった。




