072.ダンジョン探索再開・弐
「帰ってきたって感じだな。新宿に」
「マジそれだな。たった一週間だったのにめちゃくちゃ濃い一週間だった」
十兵衛が新宿ダンジョンのJDA本部を見て呟くと最澄が同調する。
「やっぱりここが私たちのホームよね」
「他のダンジョンも潜ってみたいけどね。ってか暑い~、早くはいろ」
茜は十兵衛と同じく考えているらしいが、梨沙は他のダンジョンも潜りたいらしい。
今なら数日掛ければ十層ボスまでは軽く捻れるだろう。他のダンジョンと言うのも十兵衛は興味がある。だがまずは目の前の、日本最大のSランクダンジョン──新宿ダンジョンを攻略しなければならない。
「今日は最澄の配信の番だったな。特訓を乗り越えた成果を見せて貰うぞ」
「プレッシャー掛けるなよ十兵衛」
十兵衛と最澄は一週間常に一緒に居た事で仲がより良くなった。十兵衛は最澄が努力できる人間だと知っている。それで十分だ。実力は努力の先についてくるだろう。不幸な事故さえなければ。そして不幸な事故は十兵衛が起きさせない。そう決めている。
笑いながら二人は、いや、四人はJDAに入っていく。
中に入ると如月美香が素早く近寄ってくる。
「チーム・暁の皆様。おかえりなさいませ。特訓と伺っていましたが収穫はありましたか?」
「それはもう」
「メタメタにされたわね。プライドなんてズタズタよ」
「大変だったよ~」
十兵衛は返事せずにくすりと笑う。
「それで、今日からダンジョン探索再開ですか?」
「えぇ、夏休みなんでできるだけ潜ろうと思います」
十兵衛が答えると美香は破顔した。それだけ嬉しいのだろう。それだけの期待が十兵衛たちチーム・暁に掛かっているといえる。
何せ専属受付嬢をつけられ、マップも四十階層まで提供されている。つまり深層へ行けると見られているのだ。
新宿ダンジョンが氾濫すれば避難が間に合わなければ軽く数百万の死者が出る。一千万を超えるかも知れない。それだけは防がなければならない。そういう意味では十兵衛たちの活躍は砂の一粒かもしれないが、大事な物だ。塵も積もればなんとやらである。
「では行ってきます」
「行ってらっしゃいませ。無事のお帰りをお待ちしています」
美香はダンジョンに潜る十兵衛たちをしっかりとお辞儀をして見送った。
◇ ◇
「はぁ、やっぱりダンジョンはダンジョンだな」
「ね~、でも今日エンカ率高くない?」
「正規ルートだしな。だけれど十六層はもう敵なしなんじゃないか?」
「やっぱり特訓の成果があるわね。ブラックゴブリンやオークの動きが遅く見えるわ。ジャイアントバットとかも見切れるようになってきたしね」
「まぁ風間家の忍者と比べたらこのくらい楽勝だよな」
十六層の正規ルート、その途上で十兵衛たちは話していた。周りにはモンスターたちの死骸、つまり魔石が落ちていて梨沙がしっかりと拾っている。
ただ十六層はそう甘くない。百メートルほど先に次の敵が待ち構えている。そして十兵衛だけではなく、全員がそれに気付いている。
待ち伏せされているのだ。当然のこのこと行く訳にはいかない。
「十兵衛ちゃんお願いしていい?」
「いいぞ。じゃぁ殲滅してくる」
「私たちでも倒せると思うけれど、少し疲れが溜まっているのよね。この状態では最高のパフォーマンスは発揮できるか怪しいわ」
「だな。だけれど十六層なら攻略できる。そう俺は確信してるぜ」
「あたしも確信してるよ~。あたし達なら行けるって。十七階層も勢いで突破しちゃおう! 十兵衛ちゃんが居れば大丈夫だよ!」
「梨沙、忘れてるかも知れないけれど十七階層はインセクト系モンスターが多いわよ」
「うっ、それでもやるんだもん」
梨沙も強くなったなと強い聴覚で彼らの会話を聞く。バックアタックはなさそうだし、前方のモンスターを殲滅すればいいだけだ。
「待ち伏せなんてしてるんじゃないよ、モンスターの癖に一丁前だな。だが俺には効かないぞ? 火遁〈火炎桜吹雪〉」
炎の形をした桜の花びらに似た忍術が隠れ潜んでいるオークやブラックゴブリンたちに降り注ぐ。それは一個一個が〈蒼火炎〉並の威力のある忍術であり、狭い所で隠れていたモンスターたちには逃げ場がなく一瞬で焼き尽くされた。
「少しは休めたか。今日は十七層の雰囲気だけ掴んで帰ろう。体力はまだあるよな?」
「えぇ、少し休んだから大丈夫よ」
「おう、行けるぜ」
「大丈夫だよ~」
十兵衛の問いに頼もしい答えが帰って来る。これならばこのまま十六層を攻略できる。十兵衛はそう確信した。
◇ ◇
「おい、もうチーム・暁が十六層を攻略してきたぜ」
「早すぎだろ」
「俺たちが何年掛かってここに来たか、マジで早すぎだよな」
「あいつら登録してまだ一年経ってないんだろ」
「天才様がいるとやっぱり違うな」
十六層の最奥、そこには幾つものパーティが座って休憩していた。そして十兵衛たちが現れると様々に言われてしまう。
ただそんな有象無象の言葉を気にしてはいけない。十兵衛たちは十兵衛たちのペースがある。足の遅い奴に合わせる必要はない。と、言うか十兵衛に取ってはこれでもゆったりと攻略しているのだ。本気ならとっくに二十層を突破していた。
だが最澄や茜の成長を待たねば下層では通用しないというのもわかっていた。故に彼らの成長を促し、十兵衛にとってはゆったりなペースで攻略していたのだ。これが十兵衛と梨沙、そして風間家の忍者での構成されたパーティであればとっくに下層まで行っていただろう。
しかしそれも良いと思った。十兵衛は同年代の友人が少ない。修行が忙しくて高校まで遊ぶ暇はなかった。
「注目されてるね」
「ってか最澄くん、凄い人たちに見られているわよ」
「うわ、同接五十万人超えてる!?」
「どんどん増えていったわね。投げ銭も百万超えているわよ」
「あ~、視聴者のみんな。コメントできなくて済まなかった。十六層の攻略に真剣だったからな」
:ええんやで。
:最澄くんめっちゃ成長してるやん。
:最澄くんが強くなってくれて嬉しい。
:もうそれはママなんよ。
:ってか最澄くんだけじゃなくて全体のレベルが上がってるよな。
:やっぱ特訓効果か。
:ダンジョンに潜ってなかった訳じゃないからレベルアップの恩恵じゃないんだよな。
:ってか相変わらずの十兵衛くん無双で笑うしかない。下層行っても通用するっしょ、十兵衛くん。
:ギルドが本気で下層に行く前に十兵衛くんをA級指定するかどうかって話し合ってるって話漏れ聞こえたことあるぞ。
:最年少A級探索者来る?
:流石に高校生でA級探索者はいないからな。大学入って即座に潜ってもう十六層だからな。ペース早すぎでしょ。
:いや、でもマジわかる。十兵衛くんはレベチなんよ。
:もうこの世界のバグとしか思えない。
「でもこの世界には俺より強い奴等がいっぱいいるぞ? 俺はそいつらを知っているから自分が最強だなんて自惚れたりはしない。と、言うかできない」
:十兵衛くんからコメント返信キタコレ!
:十兵衛くん基本寡黙キャラだしな。普段指示出ししてる以外あんま雑談もしないしな。
:ってか十兵衛くんの本気より強いって深層探索者とかだよな。
:だな、下層探索者でも十兵衛くんに勝てる人って一握りな気がする。
:本気の十兵衛くんはマジ凄いんだよなぁ。
:十兵衛くん今度雑談配信してよ。
:あ、それ観たい。
:おいおい、お前ら。ここは最澄くんの配信だぞ。落ち着け。
:は~い。
:そうだった。だけどチーム・暁の配信はどれも貴重なんよ。
:海外勢もめっちゃ観てるしな。
:それ、日本より海外での評価が高いまである。
:〈鈴香〉日本でも注目していますよ。
:鈴香さん降臨。
:ってか鈴香さんは潜らなくていいのか?
:鈴香さんは昨日まで大阪ダンジョン下層で暴れてたから。
:〈鈴香〉大阪ダンジョンでお待ちしています。チーム・暁の皆さん。
:直接的なお誘い。
:マジか。
:いやこれほんと凄い。
「じゃぁ俺たちはこれから十七層に潜るんで、またコメント返信できないと思うけど、活躍を観てくれると嬉しいです」
最澄はそう締めくくると、チーム・暁は休んでいるパーティたちを横目に十七層に潜っていった。




