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071.女子会

 十兵衛たちが男子風呂で楽しんでいる時、梨沙と茜も風呂に入っていた。

 今日の訓練だけでもボロボロにされている。梨沙の治癒魔法がなければ痣だらけどころか骨折もあった。開放骨折だったので骨を戻す時に茜は悲鳴を上げた。アレは痛いのだ。だが整復しなければ開放骨折はきちんと骨が繋がらない。

 自動で骨を元に戻すほど梨沙の治癒魔法は万能ではない。現代医学と組み合わせて使うのが最良だ。


「それで、どうなの。十兵衛くんとは」

「えへへっ、最近手を繋いでもイヤな顔しなくなってくれたんだよ。後やっぱりちゃんと護ってくれるってのが行動の端々に出てて嬉しくなっちゃう」

「はいはい、惚気るのはそのくらいにしてね」

「酷い、茜さんが振ってきたんじゃん! にしても茜さんおっぱい大きくて良いなぁ」

「肩は凝るし弓道なんかでは邪魔だから要らないわよこんなの」

「え~、だから胸当てで押さえつけてるの?」

「そうね、それに鎖帷子も着ているから、その内側にさらしを巻いているわ。普段の私服では隠していないけれど、男子の視線が痛いのよ」

「女子だけど見ちゃうもん。いっぱい見たけどね。この一週間で」

「梨沙ちゃんになら幾らでも見せるわよ。なんなら触る?」

「いいの!?」


 茜の許可に梨沙は驚いて立ち上がった。


「いいわよ。でも優しくね。やらしく触ったらそれでおしまい」

「えへへ~、やった~」


 そう言ってゆっくりと梨沙は茜の胸に手を伸ばし、その質量の大きさに驚きながら存分に楽しんだ。触って、揉んで、下から持ち上げたりと色々としたのだ。


「ありがとね。堪能できたよ」

「ってか梨沙ちゃんもプロポーションいいわよね。十分でしょ」

「でも十兵衛ちゃんが巨乳好きだったら悔しいじゃん!」

「婚約してるんでしょ。ってか貴女たちが惹かれ合っているってのはバレバレだったわよ」

「わかってるよ~。でもおうちの事情とか色々あるんだよ~」

「上流階級のお嬢様はそうよね。うちも結構縁談とか来るのよ。全員叩きのめしたけどね」

「そっか~、茜さんは自分より強い男じゃないとダメなんだもんね。でさ、最澄くんはどうなん?」


 その一言に茜は凍りついた。図星を突かれたからだ。

 茜は最澄の事をパーティメンバーとして信頼している。そして最澄からの視線が熱いこともわかっている。そしてその上で無視しているのだ。

 自分よりも強い相手なら誰でも良いと言う訳では当然ない。最初は十兵衛こそ自身の伴侶にふさわしいと思っていたが梨沙の想いを知って断念した。


 梨沙の純愛振りは見ていただけでわかったからだ。これほど愛されているのならば、茜は身を引こうと思った。何よりも十兵衛は梨沙をとても大事に扱っている。それこそお姫様のように。

 それを見て横恋慕する気は起きなかった。十兵衛ほどの逸材がこの世に何人も居るわけがない。

 そういう意味では最澄はなしよりの有りだ。今の実力では茜に釣り合わないが、性格が良い事はわかっている。後は強さのみだ。


 その強さも茜の道場に通うようになってあっという間に初伝を取ってしまった。才能ではなく努力で。そして中伝まで達しようとしている。これほど早く武術を身につける入門者は茜は記憶にない。茜の両親も最澄を有望株だと言っていた。故に少しだけ、そう……ほんの少しだけ、最澄の事は頭の片隅に置いている。


「そろそろ出ましょう。ゆだってしまうわ」

「えぇ、もう少し一緒しようよ~」

「部屋に帰ってからでも女子会はできるでしょ」

「そうなんだけどさ~」


 茜と梨沙は風間家の客間を二人で使っている。最澄は一人なので十兵衛は自室ではなく最澄と一緒に寝ている。そしてその客間は隣通しだ。ただ防音はしっかりしているので、隣の声が聞こえる事はない。


「じゃぁ部屋で続きの話ね!」

「わかったわ。最後の日だし存分に語り合いましょう」


 そう言って茜はざばんと湯船から出た。



 ◇ ◇



「十兵衛くんは昔から強かったの?」

「そうだよ。神童って呼ばれてた。でも神童って幼いうちに強くて大人になったらただの人っていうじゃない? 十兵衛ちゃんは努力を欠かさずに、神童じゃなくて天才の名を欲しいままにしたんだよ。風魔忍者でも百年に一人出るかどうかの天才だって」

「そうなのね。そうよね、単純な努力で到達できる限界を十兵衛くんは超えているわ」


 二人は客間に行き、歯を磨き、パジャマに着替え、喋っていた。

 十兵衛と最澄は夜に訪ねて来ることはない。話したければ茜と梨沙が彼らの部屋に突撃する。


「まぁ毎日のように風魔忍者たちに鍛えられてるからね。休んでる暇なんかなかったと思うよ。十兵衛ちゃんはひけらかさないからあたしも良くは知らないけどね。でも茜さんも見たでしょ。十兵衛ちゃんの修行。あれが物心ついた頃から当たり前にあったんだよ」

「私も物心ついた頃から木刀を振らされていたけれど、風魔忍者は格が違うわね。うちの師範クラスがゴロゴロいるわよ」

「そうなんだよ! 風間家は凄いんだよ!」


 梨沙が茜に風間家の凄さを力説するが、茜は実際に見て知っている。風間家の忍者は全員が気配を消すのに長け、体術も剣術も修めている。更に忍術まで使うのだ。弱い筈がない。


「それは十分実感しているわ。それに十兵衛くんが強い理由はそこにもあるけれど、風間琢磨さんと風間静さんのお子さんだとは知らなかったわ」

「あ~、やっぱ知ってるんだ」

「そりゃそうよ、うちらの世代で彼らに憧れない人は居ないと言われるほどの伝説的な探索者よ。家の都合で引退するって発表した時は政府が慌てて頭をさげたと聞いているわ。実際広島や仙台でのスタンピードでも大活躍した英雄ですもの。誰でも知っているわ」

「そうだよね、当時はドローンとかなかったからアレだけど、映像は残ってるもんね」

「そうね、幼い頃に親に何度も見せられたわ。本物の実力者とはこういう人たちの事を言うんだってね。だから私がダンジョンに潜るのは必然なの。琢磨さんたちに憧れてダンジョン探索者になるって決めていたからね」

「そして前のパーティが解散して、うちに来てくれたんだね」

「そうよ、そしてそこに十兵衛くんが居た。もう運命だと思ったわ」

「ダメだよ。十兵衛ちゃんはあたしのなんだから。誘惑とかしちゃダメだからね」


 梨沙はしっかりと茜に釘を刺した。それはもうぶっとく。それくらい、最初の頃の茜は十兵衛を熱い視線で見つめていたのだ。


「大丈夫よ、パーティ内で恋愛のゴタゴタは経験しているもの。横取りなんかしないわ」

「そういう意味では茜さんは最澄くんとくっつけばいいんじゃないかな?」

「そうね、彼も悪くないわ。筋もいい。もう少し経験を積んで、せめて奥伝くらいは身につけてくれれば考えてもいいわ」

「あははっ、ハードル高いね」

「風魔忍者で上忍になれって言うよりはマシだと思うわよ」


 茜はきっぱりと言った。何せ茜は免許皆伝を持って、中層の後半の探索者である。だが茜は風魔忍者の上忍に毎回手加減されて転がされた。まだ相手にされていないのだ。

 くノ一たちにすら勝てていない。つまり男女の差ではないのだ。まぁレベルアップの概念がダンジョンで導入された時から男女の差と言うのはないのではあるが。


 女子でも男子に余裕で勝つ探索者がいる。レオなどはその筆頭だ。レオは若くして下層探索者になるだろう。イレギュラーさえなければそれだけの実力がある。

 茜の目下の目標はレオに追いつくことだ。そして十兵衛が居るのであるから、チーム・暁はチーム・アレクシオンを追い抜くくらいでなければいけない。


 十兵衛と言う存在はそれだけで鬼札なのだ。更に十兵衛はまだ全力を出していない。ブラックヴァイパーとの戦いで空間忍術を使わなかった。それは使う必要がなかったと言う事だ。

 十兵衛の底はまだまだ見えない。遠い、と茜は思った。




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