070.男子会
:最近チーム・暁でてないよな。
:夏休みだから毎日潜るんだと思ってた。
:だな。期待してたんだがなぁ。
:なんか最澄くんが特訓してくるって言ってた気がする。
:あ~、言ってたわ。それか。どこで特訓してるんだろうな。
:レベルアップ以外の部分ってすげぇ重要だからな。最澄くんの動きが武道の動きを取り入れて凄くよくなっているのは配信観てるとよくわかる。
:それな。十兵衛くんと茜ちゃん、梨沙ちゃんは最初から武道を学んでる人の動きだったよな。
:いや、武道経験者だけどあの三人の動きはおかしいぞ。日本の一番でかい大会で優勝できるレベル。ちな俺はベストエイト経験者。
:ベストエイト経験者にそう言われるって十兵衛くんと茜ちゃん、梨沙ちゃんどんだけ訓練してたんだよ。
:ってか茜ちゃんはあの若さで古武術の免許皆伝持ってるんだろ。そら強いよ。
:望月流な。あそこマジ厳しいんで有名な道場なんよ。そこで免許皆伝とか相当だぞ?
:本当、大会とか出たら総なめできるレベル。
:それでいてダンジョン潜ってレベルアップしてるんだから手に負えないよな。
:そう、それ。でも一般の大会は探索者出られないからな。レベルアップした瞬間に出場資格がなくなる。
:それで出てないのか。
:いや、中学の時に茜さんは全中優勝してるぞ。空手道の部で。
:言うて茜さん空手だけじゃなくて合気道とか薙刀とか太刀使えるからな。制限して全中優勝とかレベチ。
:早く十兵衛くんたちの活躍がみた~い!
:それはそう。早く特訓終わって帰って来てくれ~。みんな待ってるぞ~。
「最澄、動き良くなってきたな」
「そうか? ずっと転がされてばかりだからな。実感が湧かないんだが十兵衛がそう言ってくれるならそうなんだろうな」
特訓は一週間に及び、もう最終日だ。十兵衛の屋敷にある檜風呂で十兵衛と最澄は文字通り裸の付き合いをしていた。
梨沙と茜は女子風呂で楽しんで居ることだろう。風間屋敷には多数の人間が住んでいて、風呂は幾つもあるのだ。
「あぁ、ちゃんと中忍との戦いじゃ互角くらいになってるじゃないか。上忍の相手はまだまだだけどな」
「いや、風魔忍者の上忍って上澄みなんだろ。殆ど下層か深層探索者だって聞いたぞ。勝てる訳ねぇよ」
「でも下層に挑戦するならあいつらと肩を並べなきゃならないんだぞ?」
「そうだな。そうなんだよな」
最澄は風呂の中で真剣に考え出した。
「それで、茜さんとの仲は深まっているのか?」
「なっ」
十兵衛が爆弾を投下した瞬間、最澄は立ち上がった。アレがブラブラと揺れていて視界がよくない。早く座れと十兵衛は促した。
「バレてたのか」
「バレバレだろ」
「だがなぁ、茜さんは自分より強い男しか認めないって言ってるだろ。俺はまだ初伝なんだ。皆伝の茜さんに告白するにはまだ身の丈が合っていないんだよな」
「そうだな。でも中伝くらいの力はあると思うぞ。後は奥伝、そして秘伝を伝授されれば免許皆伝だ。早くしないと茜さんは他の男に奪われるぞ」
そう十兵衛が発破を掛ける。
「それは絶対嫌だ」
「いいから座れ。みっともないものを見せるんじゃない」
「すまん」
また立ち上がった最澄は大人しく湯船に沈んだ。
「特訓で強くなれた。そしてダンジョンでも予想以上のスピードで攻略はできてる。だがそれは十兵衛がいてくれてなんだよ。十兵衛は俺たちがいなくても下層に潜れるくらいの実力はあるだろう?」
「多分、な。潜った事はないからわからないが、少なくとも即死することはないと思うぞ」
「そうだよな。俺は、俺たちはまだ中層レベルなんだ。十兵衛はもう下層レベルでA級探索者と言っても過言じゃない実力を持ってる。明らかにレベルが違うんだよ。実際の数字のレベルじゃなくて実力の話な」
「まぁそれはわかってる。わかっていてお前たちとパーティを組んでいるんだ。問題ないぞ」
「俺たちには問題があるんだ!」
最澄がまた立ち上がろうとしたので肩を抑えて止める。何度も見たくはない。
「だからこその特訓だろ」
「あぁ、地獄だったけどな」
「あの程度生易しいもんだぞ。身内じゃないから全員手加減してくれている」
「いや、それは十兵衛の特訓見て知っているよ。容赦ないよな、十兵衛に対しては」
「まぁ期待の顕れだと思って受け止めているよ。死ぬって何度も思うけどな。深層に到達するにはこの程度で音を上げる訳にはいかん」
「やっぱり目標は深層なんだな」
「あぁ、俺の目標はガストン・ガーランドを超えて五十層のボスを討伐することだ」
「ははっ、マジ夢だな。それは世界一の探索者になるって言っているのと同義だぞ」
「その通りだが?」
「十兵衛は嘘は言わないからな。本気なんだろ。じゃぁ俺たちも食らいついて、深層探索者として胸を張れるだけの実力をつけないとな」
「ちゃんとダンジョン内で鍛えてやってるだろ。一応手加減してるんだぞ」
「あれでか!?」
最澄がまた立ち上がろうとしたので肩を抑える。最澄は興奮すると立ち上がるのだ。面倒くさいと思いながら先を取って抑える。これも武術の応用だ。
「ダンジョンでレベルアップして、望月道場で鍛えて貰えば大丈夫だ。そして免許皆伝を持って茜さんに交際を申し込め。この場合交際と言うよりは決闘かな。見事茜さんに勝利して恋人の座を射止めるんだな」
「くそっ、十兵衛は梨沙ちゃんっていう可愛い婚約者がいるから余裕だな」
「はっはっは、羨ましかろう」
十兵衛がそう言うと最澄は悔しそうに表情を歪めた。
茜は自分より強い男しか認めないと公言している。そして自分より遥かに強い十兵衛に惹かれない訳がない。だが十兵衛には梨沙がいる。故に茜は十兵衛にアタックしないのだ。
長い付き合いではないが、茜をずっと見てきた最澄にはそれがわかる。茜は最澄よりも十兵衛を見ている。最澄は視界にすら入っていないかも知れない。
だがそれではいけない。茜の心を射止めるのは自分だ。最澄はそう決めていた。そしてそれは一年やそこらで到達しなければならない。
最澄より強い男など風間家だけで幾らでも居るのだ。彼らが茜にアタックしたらどうなるだろうか。少なくとも茜は興味を示すだろう。それほど風魔忍者の男たちは強い。
ただ殆どの上忍は妻帯者であり、それだけが唯一の救いだ。
「とりあえず夏休み中に二十層のボスを攻略して下層探索者になる。ついてこいよ、最澄」
「わかった。よろしく頼む。十兵衛」
「あぁ」
最澄はそこで少し溜めた。
「と、言うか十兵衛は本気で忍術を放ってないよな。ダンジョンアタックの時」
「強敵以外には手加減してるな。じゃないと殲滅しちゃって相手が残らないだろ。そうするとパーティメンバーの底上げにならないじゃないか」
「そうだと思った。道場での十兵衛の忍術は桁違いだった。これが本気の十兵衛かと腰を抜かしそうになったぞ」
「ははっ、まぁ強敵が出れば、梨沙が危険になれば本気を出すさ」
「そうだな。十兵衛は梨沙ファーストだもんな」
「専属護衛だからな。それに今は婚約者だ」
十兵衛がドヤ顔をすると最澄は悔しそうにしていたが、その悔しさをバネに頑張ってほしい。最澄は努力できる人間だ。しかも素養はある。でなければほんの少し望月流を習っただけであれだけ順応できる訳がない。
最澄が免許皆伝を貰い、茜に勝つ未来もある。十兵衛はそう見ていた。ただしこれは知らせない。最澄が自身を磨き、強くなってくれれば十兵衛に取っては良いのだ。
十兵衛に取って大事なのは梨沙で、最澄と茜が交際するかどうかは当人たちの問題なので十兵衛は口を出す気はなかった。
まだまだ暑いですね。一日二話更新は今日で終わりです。明日からは18時更新のみになります。宜しくお願いします((。・ω・)。_ _))ペコリ




