067.ダンジョン探索再開・壱
四人の試験が終わり、夏休みに入った。そして夏休みは十兵衛たちに取っては絶好の機会だ。何せ毎日潜っても問題がない。
ダンジョン探索者として、この好機は見逃せない。少なくとも二十層ボスまでは攻略するつもりで十兵衛は居た。
そしてそれはパーティメンバーにも話している。茜も最澄も、そして当然梨沙も反対はしなかった。
当然ながらいきなり二十層にアタックしたりはしない。十六層からじっくりと行かねばならない。特に魔の十七層はレオですら苦戦した階層だ。しっかりと探索しなければならない。
十兵衛以外も気配察知ができるようになり、パーティとしての完成形が見えてきている。もちろんまだまだではあるが、連携もよくなっている。
少なくとも十兵衛が背中を預けられる、と思うくらいには実力がついている。
「茜さん、太刀新調するんですよね。いいのがありましたよ」
「多分私が目をつけているのと一緒ね。お高いけどいいのかしら」
「いいですよ。パーティ口座はこの為に作っているんです」
「脇差しもいいのあったよ~。買っちゃいなよ! 下層でも通用するよ!」
先日ダンジョンショップで見かけた少し朱色の入った鋼の太刀。そして蒼の入った脇差し。どちらもダンジョンでしか取れない鉱石を使って打たれた銘刀だ。当然お値段は目が飛び出るほど高い。
更に強敵と戦えば折れることもある。消耗品なのだ。更に下層まで潜ればより強い武器に乗り換えなければならない。その場合は後輩たちに安く譲っても良いだろう。刀を使う探索者は日本には多い。
剣の方が刀よりも使いやすい。故に剣士も多い。だが日本人の血なのだろうか。刀を使いたいと言って剣術を習い、刀術を使う探索者は多いのだ。
日本刀は剣よりも繊細で扱いも難しい。それでも、やはり人気は高い。
そして威力は高く、海外でも人気が出ていると聞いている。
十兵衛の使う忍者刀は特殊だ。特注で打って貰ったと聞いている。氏康には感謝しかない。他の装備も全て特注品で、深層まで潜っても耐えられるだけの逸品だ。そして梨沙の装備も同じである。特注で、梨沙の為だけに作られている。
「最澄の盾と鎧もできたんだな。格好いいぞ」
「ありがとう。ブラックヴァイパーの鱗を持ち込んだら店主が喜んで作ってくれたよ」
「そりゃ普通は下層にいる相手だからな。十五層にいるとは思わなかった」
「普通は逃げるのよ。そして逃げ切れず殺される。倒すなんて有り得ないわ、本来ならね」
「十兵衛ちゃんだからね」
「そうね、十兵衛くんは中層なんかでは収まらない器よ。実力もある。私たちも追いつかないといけないわ。それでないとついて行けなくなる日がきっと来る。それはイヤだわ」
「俺もイヤだな。茜さんも最澄も一緒に潜って欲しいと思っているよ」
その言葉に茜と最澄は破顔した。そして気を引き締めた表情をする。
「努力する。そして絶対食らいつく。だから待ってろとは言わない。十兵衛はそのまま強くなれ。いずれ追いつくからな!」
最澄がしっかりと断言した。この中で一番実力がないのが最澄だ。だが瞳を見れば本気であることがわかる。
もう金の為にダンジョンに潜っていた最澄は居ない。一探索者としての矜持が芽生えているのがわかる。それは茜も梨沙も同じだった。当然十兵衛も本気で探索者をやっている。
もっと強いパーティに入れば早く下層や深層に潜る事もできるだろう。だが十兵衛は彼らと一緒に下層や深層に潜りたいと思っている。そして彼らはその期待に応えたいと思ってくれているのだ。これほど嬉しい事はない。
「じゃぁ行こうか。十六層だ。十五層よりも手強いぞ」
「望むところだ」
十兵衛が号令を掛けると皆が頷き、十六層への一歩を踏み出した。
◇ ◇
十六層は一度転移球に登録する為に入っている。十六層は洞窟型だ。ただしかなり広い上にぐねぐねと正規ルートですらかなり時間が掛かる。
マップも当然買ってあるし、事前知識は入れてある。それは十兵衛に限らず全員だ。
マップで予定ルートをARデバイスで共有し、今日はどこまで進めるかを試す日だ。十一層でやったように、まずは相手に慣れる事から始める。そして無意識でも対処できるようになるのが肝要だ。
「じゃぁ行くか。とりあえず俺も戦う。だけど頼りすぎるなよ」
「あぁ、やるぜ」
「私も頑張るわ」
「あたしはみんなを護るよ~」
いい返事を貰い、十兵衛は良い感覚で足を進めた。他のパーティも十六層に転移してきて探索を始める。だが最短ルートを行くようで十兵衛たちとは途中で分岐する。チーム・暁はまだ十六層を攻略する予定ではないからだ。
ならば脇道に逸れて多くのエンカウントを得て、経験値を得られる方が絶対に良い。
「げ、ブラックゴブリン」
「しかも群れだね~」
「やるしかないわね」
ブラックゴブリンの群れ。それに上空にはキラーバット。十六層のソレが弱い筈もなく、最澄は慎重に盾を構え、茜も薙刀を待ちの構えで立っている。梨沙は障壁をすぐに張れるように杖を構え、十兵衛は試しとばかりに突っ込む。
一閃。
十兵衛の忍者刀がブラックゴブリンの首を刎ね、更に次の相手へ移る。都合七回忍者刀を振り、七つの魔石とドロップが残っている。
「十兵衛ちゃん全部やっちゃうちらが成長しないよ~?」
「そうなんだが手応えを試したかったんだ。茜や最澄でも相手できる筈だ。このくらいならな」
「ってか一瞬だったな。マジ十兵衛強くなってるな。どんだけ離れるんだよ」
「毎日修行してるからな」
「十兵衛ちゃんの修行受けてみる? 頼んでみてもいいよ~? 多分死ぬほうがマシだと思うけどね」
最澄と茜は一瞬迷ったようだった。だが覚悟を決めて「受ける」と答えた。
ならば十兵衛も琢磨に頼み、パーティメンバーを鍛えて貰おうと思った。風間家は通常一般人は招かないが、十兵衛のパーティメンバーで、梨沙の口添えがあれば琢磨たちも断れない。
茜の実家の道場もレベルは高かったが、それでもやはり風間家には敵わない。何せ深層まで行っている忍者がうようよいるのだ。真などは札幌で活躍しているが紛うことなき深層探索者である。
「じゃぁ次は三人で戦ってみてくれ」
「わかった」
そうして次のエンカウント予定ポイントまで移動する。奇襲はできるがしない。正面突破で倒せなくてはいけないからだ。
もちろん相手に寄っては奇襲も立派な兵法だ。だが自身たちのレベルアップの為にはしっかりと相手した方が為になるのだ。
「そっちいったよ」
「おう」
「こっちは任せて」
「助かる」
声を掛け合って、茜が前衛として薙刀を振り切り、最澄が梨沙を守り、梨沙も雷魔法で攻撃している。雷魔法一撃では倒しきれないが痺れているブラックゴブリンを最澄が短槍で倒している。
茜は新調した太刀も試したいらしく、次のエンカウントでは太刀と脇差しを使っていた。どちらも斬れ味が素晴らしく、更に炎や氷のエンチャントがされており、切り札として使えそうだ。
高かっただけはある。有名な刀匠が打ったものらしく、価格は普通の大学生どころか社会人でも買えない値段だ。だが十兵衛たちならば買える。そして買う必要もある。ならば悩まずに購入する。それが十兵衛の判断だった。
「いい太刀ね。実際に斬って見ると明らかに以前のと違うわ。やっぱり高いのには高いだけの理由があるのね。柄とか手に吸い付くようよ」
「いい買い物が出来て良かったな。じゃぁ次に行こうか」
「おう、俺も火魔法が成長したからな。短槍だとまだ一撃とはいかないが戦力になれるぜ」
最澄の良い返事を聞いて十兵衛たちは気配察知を使い、次の相手を求めて歩いた。




