058.十五層への挑戦.弐
「そういえば北条グループ専属のパーティってことが広まって、事務所とかクランの勧誘が一切なくなったな。やっぱり北条グループの威光って凄いんだなと思ったぜ」
「そうね、うちも勧誘が激しかったけれど、電話すら掛かって来なくなったわ。ありがとうね、梨沙ちゃん」
「ううん、実家の力だもん。あたしの力じゃないよ。でもそれで助かったと思ってくれるなら嬉しいよ」
十三層の階段傍で十兵衛たちチーム・暁は休んでいた。十二層、十三層はしっかりと四時間から五時間のペースで問題なく踏破できた。通常の人なら歩くだけで倍は掛かる距離を、戦闘を挟んでなおそのペースで進んだのだ。レベルアップの恩恵とは凄まじい。
多少の怪我はあったが安いポーションで治る程度であり、戦闘続行不能になるほどの怪我はなかった。
ポーションにも余裕があり、戦闘中でなければ梨沙の治癒魔法がある。それがチーム・暁の強みでもあり、狙われる最大の要因だ。
光もあれば影ができる。未だに梨沙を狙う輩は後を絶たないと十兵衛は密かに琢磨や氏康から聞いていた。
それらは全部風魔忍者が秘密裏に処理しているが、ダンジョン内では十兵衛がその役目を負っている。しっかりと熟さなければならない。
「北条グループが後ろ盾になっていると知らしめるだけでかなり面倒は減ったな。お館様に感謝しなくちゃだな」
「そういえば十兵衛は梨沙ちゃんの父親と会った事があるんだよな。北条グループ総裁だろ? 普通会えないよな」
「十兵衛ちゃんは小さい頃からうちに入り浸ってたし、あたしも十兵衛ちゃんち入り浸ってたから当たり前なんだよね~」
「それでもちゃんと物を知ってからは緊張してるぞ。お館様と話す時は。やっぱり威圧感があるんだよな。あの威厳は俺にはまだ出せない」
「まだってことはいつかはそうなるって決めてるんだ」
茜が十兵衛に向かい、聞いてくる。
「そうだな。いつか父親と母親を超えたいと言うのは俺の夢だな。それに両親にそれを期待されているのもわかるから、きちんと期待に応えたい」
「は~、十兵衛ちゃん格好いい」
十兵衛がキリッと言い切ると梨沙が女の顔を出す。梨沙の気持ちには十兵衛も気付いている。だが主従の家の息子と娘なのだ。風間家に北条家から嫁に来てくれとは言えないのだ。だからと言って次代風魔小太郎を目指す十兵衛が婿に入る訳にもいかない。
そしてそれは梨沙もよくわかっている。大人たちの間では何かしら協定が結ばれているらしいというのは十兵衛も少しだが知っている。
だがその協定の内容まではわかっていない。十兵衛と梨沙が結ばれるか否かは、本人たちだけでは決められない事項なのだ。
十兵衛と梨沙は目と目だけで一瞬語り合った。それだけの絆が二人にはあるのだ。
「さて、十分休んだか? 十四階層に挑む準備はできてるか? 最高のパフォーマンスを発揮しても大怪我をするかもしれない。その覚悟はあるか」
「もちろんだぜ」
「当然よ」
「行けるよ!」
良い返事が返ってきた。これからは探索に十兵衛が加わる事になる。指揮をしながらの戦闘も慣れてきた。前線で戦いながら、後ろの気配を察知して、三人の動きとモンスターの動きを把握し、指揮をするのだ。声だけでなくハンドサインなども当然使われる。
三人の連携はより深まったが、それに十兵衛が加われば十三層まででも怪我一つなく踏破できる。十兵衛を温存する為に、茜や最澄は多少の怪我は負ったが、それは予定内だ。戦闘不能になるほどの大怪我でなければポーションと梨沙の治癒魔法で治せる。
全員のコンディションは万全だ。ならば十四層も行けるだろう。
十兵衛は何かあってもすぐ動けるように立っていたが、全員が立ち上がり、梨沙が片付けをする。装備をしっかり手入れし、確認もする。手持ちのポーションの数も数え直し、しっかりと回復ポーション、解毒ポーションがあることも確認させた。
「よしっ、行くぞ」
十兵衛の号令の元で十三層から初めての十四層へ十兵衛たちは足を踏み入れた。
◇ ◇
十四層はフィールド型の階層だ。十三層までは洞窟型で迷路なのだが、マップがあるので最短距離を進むことができる。
そして十兵衛たちが十四層に踏み入れるのをじっと見つめている者が居た。と、言っても刺客などではない。十兵衛の配信を見つめるその女性は、チーム・暁の専属受付嬢である如月美香であった。
美香は今日十兵衛たちが十四層、そして十五層へアタックすることを事前に聞いていたので、上長へ確認を取り、十四層以降に潜った時の配信を見る許可を貰っていたのだ。
「大丈夫かしら、十兵衛くんたち」
「大丈夫ですよ、先輩。チーム・暁の安定感は半端ないですもん。普段配信を見てる私が断言します」
ダンジョン配信を見て、犯罪者などを探すチームに所属している後輩は常にチーム・暁や他の探索者の配信を見ているのが仕事だ。特にこの後輩はチーム・暁の配信は必ず観るようにと言いつけられている。
何せチーム・暁にはスキル〈忍術〉と〈再生〉を持つ十兵衛。それに〈治癒魔法〉〈結界魔法〉〈雷魔法〉を持つ梨沙がいる。更に茜はレアな〈剣豪〉を持ち、最澄は〈火魔法〉を持っている。
これだけのスキルだけで十億はくだらない金額が動く。チーム・暁を狙う犯罪者は多いのだ。その分警察の特殊部隊もチーム・暁の動向には気を使っている。
警察に所属している探索者の斥候がチーム・暁に張り付いているのだ。だがその斥候が言うには十兵衛には気付かれていると報告があった。一瞬殺気を飛ばされたそうなので、一度姿を現し、十兵衛には極秘裏に警察の斥候であると言う事を説明したらしい。
警察の特殊部隊の斥候は下層探索者の上澄みである。その斥候の気配を気付くなど十兵衛の気配察知能力は常識では測れない。
ただその分安全ではある。不意打ちを受けたり、犯罪者からの襲撃も十兵衛が必ず気付く。そういう安心感はある。
「十兵衛くんが参加するとやっぱり安定感が違いますね」
「オークソルジャーを一撃で倒したわね。十兵衛くんだけで踏破できそうな勢いね」
「でもそれだと他のメンバーが育たないから、十兵衛くんはほどほどにモンスターを他のメンバーにも割り振ってますよ。余裕ですね」
「十四層ってそんな余裕な筈ないんだけどね。まだ今年の四月に結成されたばかりのチームが十五層に到達するなんて信じられないわ。しかも毎日潜っている訳ではないのよ」
「それはそうですね。でも十兵衛くんたちならやりかねないと言うか、きっとやってくれると思います。このまま順調に進んで欲しいですね」
美香は後輩の言い分がわかる。十兵衛たちの戦いは多少不利になることがあるが、十兵衛の補佐があり、茜、最澄、梨沙がのびのびと戦えている。緊張感がありながらしっかりと実力を発揮している。
今も画面の中でオークソルジャーが最澄の火魔法に焼かれ、梨沙の雷魔法でトドメを刺された。茜も薙刀でオークソルジャーと打ち合い、打ち勝っている。十兵衛は一撃も喰らわずにオークソルジャーの首を飛び上がって斬り落とした。十兵衛の動きが殆ど見えない。流石だ、と美香は嘆息した。
「このまま十五階層も突破できそうね」
「そうですね。油断はできませんが、イレギュラーが起きない限り十五階層を突破するでしょうね」
「じゃぁ十兵衛くん以外のメンバーのB級への申請も出しておかないとね。パーティとしての実力はちゃんとB級レベルにあると思うわ」
美香はそういい、配信を観るのを後輩に任せ、最澄、茜、梨沙のB級昇格申請の書類一式を手に取った。
もう美香に取ってチーム・暁が十五層を突破し、中層探索者の中でもそれほど多くない十六層以上の探索者になるのは目に見えていた。
そして当然の如く、十兵衛たちはその期待に応えた。




