057.十五層への挑戦・壱
「さて、行こうか。十三層までは今まで通り、ただ寄り道はなしで最短距離を駆け抜ける。大体一層四時間くらいで抜けて、一時間休憩しての予定だが行けるか?」
「行けるぜ」
「私も大丈夫よ」
「あたしも行けるよ~」
十兵衛は配信を付けて十一層に飛んだ。
:十兵衛くん配信きたー!
:いや、マジ待ってた。
:ってか金曜夕方って珍しくない? 基本金曜日は休んでたよね。
:土日にしっかり潜るから金曜は休みなんよな。
「あぁ、それは今日から月曜まで掛けて遠征するつもりなので十五層まで突破しようと思います」
:なるほど。
:ってか十兵衛くんが配信のコメント拾ってくれるのが珍しい。
:十五層まで行くのか。本格的に中層探索者だな。
:十五層突破すればB級認定されるからな。上澄みだよ。
:それでも下層とか深層があるんだから探索者って深いよな。
:世界一のパーティでも五十層行ってないんだもんな。どれだけダンジョン深いんだよってなるよな。
:でも深層まで攻略されているダンジョンは基本氾濫しないってわかってるから、深層探索者のいる国は安心だよな。
:それ、この前もアフリカでダンジョン氾濫あったもんな。
:あれは酷かった。でも明日は我が身なんだよなぁ。
:探索者さんたちに感謝だよな。俺たちの平和は探索者さんたちが頑張ってくれてるから成り立ってるっていう。
:マジそれ。
「これからはマジアタックになるので基本コメ返信はしません。見ててください。行くぞ、みんな」
三人が三者三様の返事をしっかりと気合を入れて返し、ダンジョンアタックは始まった。
と、言ってもまずは十一階層だ。皆慣れた物である。ハイゴブリンリーダーに率いられた部隊とエンカウントしたが、鎧袖一触とばかりにチーム・暁は怪我一つなく倒した。それだけ全員が成長しているのだ。しっかり鍛えた甲斐があったと言うものである。十兵衛から見ても安定感が高い。
(これなら十三階層までは任せられるな。その分俺が温存できる。十四階層と十五階層は未知の階層だから俺を温存できるのはでかい)
もちろんそんなことは三人ともわかっている。故に三人でしっかりとエンカウントを処理し続けている。疲れは見えない。レベルアップした探索者は数時間連続で戦っても疲れを見せないものだ。
実際十兵衛は実家の鍛錬でダンジョンに潜る前なら耐えられないと言う修行を耐える事ができた。それだけでもレベルアップの恩恵があったと言うものだ。
そして父親や母親、叔父との差を思い知った。高みにいるとは思っていたが、思っていた以上の差があった。それが年月の重みと言うやつだ。こればかりはダンジョンに潜っている期間の差なので、早く攻略して追いつくしか手がない。
ただ真の話では下層はやはりレベルが違うらしいので、そこで躓くなと言われた。もちろん躓くつもりはないが、真がそう言うのだ。しっかりと心に刻まなければならない。
「アサシンがいるよ、気を付けて」
「キラーバットも来ているわ。上も気にして」
「応。俺もわかるようになってきたから良かったぜ」
三人が声を掛け合っている。三人もおそらく気配察知が生えている。ハイゴブリンやハイコボルトとノーマルとの差も見極められている。
十三階層ではオークと戦っていたが、五体までなら三人で問題なく狩れるようになっている。
後は上位種、オークソルジャーなどと対応できるかどうかだ。オークメイジはあまり出てこないらしいが、出てくることもあるらしい。
やはり魔法と言うのは怖い。アーチャーやアサシンも怖いが、それでもアーチャーやアサシンは予備動作がある。メイジやシャーマンの魔法は詠唱も「グギャッ」としか聞こえないのでわからないのだ。突然虚空に魔法が現れ、強襲してくる。それに対応できなければならない。
(オークメイジの魔法は威力が違うと言うからな。皆には言い聞かせてあるから大丈夫だとは思うが気をつけなくては)
十兵衛は三人に的確に指揮をしながら十一層をクリアしていった。
◇ ◇
「ふぅ、十一層は安定して攻略できたな。四時間切れたし、いい感じだったんじゃないか」
「そうね、エンカウントの回数も最短距離だから少なかったものね」
「でも結構長い距離歩かされたよ~。疲れてはないけど、やっぱり深い階層って広いよね」
「広いと言うか、最短ルートでも長いんだよな」
休憩中、最澄たちは雑談に興じている。息抜きでちゃんと休むのも大事だ。故に警戒は十兵衛がして、他の三人は椅子を出してそれに座って休んでいる。
ダンジョンで恐ろしいのはモンスターだけではない。
梨沙や他のメンバーの装備を狙って襲ってくる裏の道を歩く探索者も存在するのだ。一桁階層でもB級の殺人鬼が居たが、中層でも居ないとは限らない。そして中層で現れる殺人鬼と言うのはA級な可能性が高いのだ。
そして十兵衛は梨沙には人殺しをさせたくないと言う思いがあった。そういう汚れ仕事は十兵衛の仕事である。
故に以前の坂崎に襲われた時も十兵衛が対処した。実際十一層の階段近くには他の探索者たちが休憩している。十兵衛たちだけではないのだ。ニコニコと近づいて不意打ちしてくる相手もいるかも知れない。常にそれは気をつけている。
モンスターを倒すのは国の為、国民の利益になるが殺人鬼を退治するのは本来は警察の領分だ。だがそうだと言って襲われた時に常に警察がいる訳ではない。襲撃時に頼むのは自分たちの力量に掛かっているのだ。
「さて、十分休んだし、十二階層に行こうぜ」
「いいのか? まだ三十分しか休んでないぞ」
「茜の道場で鍛えられたしレベルアップもしたからな。一層くらいじゃそうそう疲れないって」
「そうよ、私たちの事をもっと信頼して。大丈夫よ」
「まぁ三人がそう言うならいいが、休める時はしっかり休んだ方がいいぞ。パフォーマンスにモロに影響するからな」
「大丈夫だよ~、十兵衛ちゃん。むしろ今日の十兵衛ちゃんは慎重だよね」
梨沙がそう言ってくる。十兵衛は梨沙を見つめて口を開いた。
「未知の階層の十四層と十五層に行くからな。体力は十分に残しておいた方がいい。最高のパフォーマンスで十四層に入らなければいけないんだ。だからいつもよりも慎重なんだよ」
「そうだね、十三層までで息切れしてたらそれより深い階層で戦える訳がないもんね。でも十二層までは大丈夫だよ!」
「わかった、行こうか」
:いやマジ三人の成長が感じられる。
:ほんと、古参勢ってほどでもないけどめっちゃ強くなってる。
:十兵衛くんに鍛えられたら俺もこれだけ成長できるのかな。
:どちらかと言うと置いてかれないように全員が努力した結果じゃないかな。十兵衛くんに並ぼうと思うと並大抵の努力じゃ間に合わないよ。
:それはそう。ついてけてる三人が凄い。
:絶対裏でめちゃくちゃ努力してるよな。
梨沙が椅子と珈琲などを回収し、臨戦態勢に入る。これからは十二層。何度も攻略したとは言え、一つの油断で大怪我をする世界だ。油断はならない。
慣れた頃が危ない、それは十兵衛はよく知っている。幼い頃から自分で「慣れてきた」と思うと思わぬ落とし穴があったりして琢磨などに叱られたものだ。おそらく茜も梨沙も同じ経験をしている筈だ。
最澄は本人が慎重な性格であるので油断はしないだろう。
「じゃぁ十二層の攻略に行こうか。いつも通り、安心安全で掃討する。気は抜いちゃダメだぞ」
「は~い」
梨沙の元気な返事で、チーム・暁は十二層への階段を下っていった。




