055.それぞれの成長と十三層
六月も二週目に入った。十兵衛たちは週末にダンジョン探索をし、十三層まで層を伸ばしている。だが平日は十兵衛は常に修行に費やし、更に学業もやり、ダンジョン探索もやっている。休みなどはない。
だがやり甲斐はある。自分が強くなっていくと言う感覚がある。レベルアップとは違う快感だ。故に全く文句はない。
(和真も強くなっていたな。下の世代にも神童と呼ばれる奴等はいる。俺もうかうかしてられん)
和真とも会った。と、言うか真に連れられてきて道場で勝負を挑んできた。けちょんけちょんにしてやった。それはレベルアップしたのと修行をしたことで差が大きく開いたのだ。
だが和真が探索者としてスキル・〈忍術〉を得れば容易に覆せる程度の差だろうと思った。探索者になる前の十兵衛なら苦戦しただろう。そのくらい腕前が上がっていた。
けちょんけちょんにしてやってくれと言うのは真からの指示だった。圧倒しろと、実力差をわからせろと。そう指示を受けたので本気で殺しに掛かった。
そして十兵衛の本気の殺気を受けた和真は身動きができなくなり、即座に昏倒した。
殺気に反応できるようになっても、何度も何度も再戦の指示が真から飛ばされ、その度に十兵衛は和真を叩きのめした。
投げ、極め、叩きつけ、腹を打ち抜いた。その度に和真は道場で血反吐を吐いたり、痛みですぐには起き上がれないほどだった。梨沙が治癒しなければ一回で終わっただろう。だが梨沙の治癒があったのでそれはエンドレスな地獄となった。和真にとって。
しかしその地獄は十兵衛も毎日のように琢磨、真、静や他の上忍の探索者をやっている上級者から受けているシゴキと同じだ。むしろこっちの方が勝ち目はない。十兵衛は甘いので一瞬和真にやられるかもと言う瞬間はあったのだ。和真はその隙に気付かなかったが、やはりまだ十兵衛は甘い部分がある。それに気付けた。多分真はそれを十兵衛に気付かせたくてこのマッチを組んだのだろうと思った。
(ったく、甥にも息子にも厳しい人だな。そうでなきゃ深層探索者にはなれないか)
真はそれを見て、うんうんと頷き、ダンジョン探索に戻ると言って札幌に帰って行った。その間に多くの事を真から十兵衛は学んだ。空間忍術も、他の忍術もレベルアップした。今ならブラックゴブリン・ジェネラルもゴブリンキングだろうと火遁と風遁だけで倒せるだろう。それだけの自信がついた。
◇ ◇
そしてダンジョン探索の日。十兵衛はいつもより気合を入れて臨んだ。
「十兵衛ちゃん、顔怖いよ」
「あぁ、悪い。ちょっと……な」
梨沙に注意されてしまい、ぐにぐにと頬を緩ませる。どうやら戦闘モードが抜けきれていないらしい。
今は十三階層にいる。十三階層まで行けば猪頭鬼たちにもエンカウントする。ただし十兵衛は最初に何度かオークとソロで戦い、後の戦いは最澄、茜、梨沙の三人に任せた。十兵衛に取ってオークは五体現れてももう敵ではない。ブラックゴブリン・ジェネラルと比べれば相手にならない。実際瞬殺だった。ならば三人の経験を優先すべきだと思ったのだ。
三人ならばタイマンでオークと戦うくらいの戦力になっていると十兵衛見た。
十兵衛が成長している間に三人も修行を積み、強くなっている。
故に三体までオークの数を減らしたら十兵衛は下がり、指揮を取ってオークとの戦闘経験を積ませている。
十五層を超えればオークソルジャーやオークメイジなども出てくるのだ。単純なオークでまずはオークの癖を覚えて貰わなければ中層後半には対応ができない。
更に中層後半にはゴブリンジェネラルなどが出てくる。もしかしたらブラックゴブリン・ジェネラルが出てくる可能性もある。極小さい可能性だが、出遭えば死と言うのであれば無視できるものではない。
当然出遭えば十兵衛が戦うが、四人で戦って勝ちたいと言う欲があった。
空間忍術を使わず、パーティの力であの強敵に勝つ。それが出来得る素材は揃っている。後は経験だけだ。
「オークキングか……どうしようかな」
十層台のワンダリングボスはオークキングの集落だ。もちろんオークジェネラルも居るし、相当な規模になる。下層の探索者たちがレイドを組んで滅ぼすような相手だ。
だが十層後半に潜ればオークキングに出遭う確率は微小ではあるがある。三十六計逃げるにしかずではあるのだが、戦ってみたいと言う欲があった。ただし調べて見ると先月にオークキングの集落はギルド主催で滅ぼされている。しばらくは安全だろうと言う話だった。
「二十層のボス・オーガリーダー。どのくらい強いのかな」
指示を出しながら十兵衛は先に現れる強敵の姿を夢想する。
オークよりも巨大で強力なオーガ。それが二十層のボスである。そして取り巻きも連れている。今のチーム・暁では逆立ちをしても勝てないだろう。もちろん十兵衛が空間忍術などを使えば別だ。だがそれをしてしまえば階層は更新できてもオーガとの戦闘経験ができない。
二十層のボス戦は四人でしっかりと攻略したいと十兵衛は考えていた。
「今日はこのくらいにしよう。じゃないと帰れない」
「帰りも私たちに任せてくれないかしら。十二層なら三人で行けるわ」
「そうだな、行けると思う。まだまだ体力は余っているからそんな過保護にしないでくれていい」
「うん、十兵衛ちゃん。あたしも頑張れるよ」
「じゃぁ任せる。俺は基本的に後ろで指示だけ出すが、指示を出される前に動くように意識してくれ」
十兵衛はそれだけ言って三人に帰り道も任せる事にした。成長した彼らなら、十二層、十一層の帰路の踏破もそれなりに余裕がある。
それはやはり十三層まで行ってオークたちと戦い、レベルアップした結果がある。それに最澄は武道の基礎を身に着けた事によってかなり動きが良くなっている。望月流を学んでいるので茜との連携が深い。
そういう意味では十兵衛は異端だ。だがそれで良い。望月流で対処できない敵を十兵衛が対処する。それでも強敵なら十兵衛が切り札を切る。それがチーム・暁の戦闘スタイルだ。
梨沙の雷魔法も精度が上がってきて、威力も安定するようになってきた。立派な戦力だ。最澄も火魔法をうまく戦闘に取り入れている。
「おつかれ。今日はゆっくり休んでくれ。明日も潜るからな」
「おう」
「明日に疲れを残すようじゃ、連日での踏破なんてできないものね」
「ゆっくりお風呂に入って寝るよ~」
そう言ってダンジョンアタックが終わり、夜も更ける中チーム・暁は解散した。
「十兵衛ちゃん、あたしたち、強くなっているよね」
「おう、なってるぞ。どうした?」
梨沙が帰りの車の中で十兵衛に問いかけてくる。その瞳は真剣だった。
「十兵衛ちゃんはどんどん強くなってるの。あたしたちがそれについていけないようじゃいつか見捨てられる気がして」
「梨沙、俺はお前の護衛だ。それを忘れるな。俺が梨沙から離れるのは有り得ない」
そう言うと梨沙はぐっと何かが詰まったように息を止めた。
「そうなんだけど、そうじゃないの。十兵衛ちゃんと肩を並べたいの。護られる側じゃなくて、一緒に戦いたいの。十兵衛ちゃんの覇道を手伝いたいの。だって十兵衛ちゃんダンジョン探索が面白くなってきているでしょ? もっと深く潜りたいって思っているでしょ? あたしにはわかるよ。護衛の仕事として始まったダンジョン探索だけど、最近の十兵衛ちゃんは楽しそうだもん。それは最澄くんや茜さんもわかってる。だからこのパーティでずっと攻略したいの。其の為にはあたしたちも強くならなきゃって思うの」
「そんなことを考えていたのか。俺はお前たち、チーム・暁で深層まで潜るつもりでいるぞ。強さがたらないなら鍛えてやる。幾らでも茜の道場を借りてボコボコにしてやる。梨沙の場合は魔法使いだからそんなことはしないけどな」
十兵衛は最後は茶目っ気をつけながらウィンクした。流石に十兵衛は梨沙を殴れない。その言い訳として梨沙は魔法使いなのだから、と使わせて貰った。ずるいとは思うが流石に想い人を拳で殴ったり木刀で吹き飛ばしたりはできない。こればかりは十兵衛の秘めた想いだった。
「わかった、でもあたしも、もちろん皆も頑張るからね。置いてかないでね」
梨沙はそういい、十兵衛にしなだり掛かって腕に抱きついてきた。十兵衛の顔は真っ赤になり、梨沙に気付かれていないだろうかとふいと顔を逸らした。




