054.探索者としての矜持
「ぐはっ」
「まだまだ甘い!」
十兵衛は道場で琢磨と真、そして静に稽古を付けて貰っていた。
十兵衛は木刀であるが忍者刀を二刀で持っているが、琢磨も真も静も素手である。だが足らない。
速さも、力も、反応速度も、全てが足らない!
最澄に偉そうな事を言っていたが、やはり日本でも最高峰の探索者たちだ。ブランクがある琢磨や静ですら十兵衛を赤子のように転がしてくる。
当たる! と、確信しても当たらないのだ。だが理由がわからない。どのような理屈で避けているのかがわからないのだ。
理由がわからなければ対策のしようがない。故に十兵衛は百度挑戦しても勝つ事ができない。
「これが深層探索者の実力か」
「おう、世界には俺たちよりも強い探索者はいる。極少数だがな。十兵衛もその高みに上がれるだけの素養はある。だが経験が足らないな。これではまだまだ下層では通用しないぞ。空間忍術にばかり頼ってはいられないだろう? 火遁も風遁も、雷遁も隠遁も全ての水準を上げろ。一瞬で発動させられるようになれ。威力を上げろ。一撃でゴブリンキングなど消し炭にする威力を身に着けろ。今のレベルでは難しいだろうが、中層で、下層でレベルアップすればそれが可能になる。それに敵は俺たちじゃないぞ、伊賀や甲賀、他にも伊達家の忍者などもダンジョンに潜ってレベルを上げている。風魔忍者が奴等に負ける訳にはいかん。わかっているな、十兵衛」
「はいっ。もう一回!」
「よしっ、いい根性だ。本気で来い!」
十兵衛は当然本気で飛び込んだ。だがやはりふわりと避けられ、そして軽く見える掌底が内蔵に響く。まるで巨大な鉄球をぶつけられたほどの衝撃が十兵衛に襲いかかる。
十兵衛は真が次の探索に行くまで毎日稽古を付けてくれるようにお願いし、真は快諾した。
真の言う通り、次代の探索者を鍛えるのも、現世代のトップ探索者としての使命であるからだ。特にダンジョン氾濫など絶対に起こしてはいけない。
十兵衛もダンジョン対策がしっかりできていないアフリカなどの国での氾濫の動画は見ている。
動画で見ただけでも酷い有り様だ。この世の地獄が顕現したと言っても過言ではない。
それが日本で起きたらどうなるか。想像するだけで寒気がする。実際生まれる前に起きているのだ。今起きないとは限らない。そして梨沙も十兵衛も死ぬかも知れない。
故に十兵衛は強くならなければならない。梨沙の護衛と言う役目もある。だが一探索者として、世代を超えて最強になる。日本の最高到達階層を塗り替える。そのくらいの志を持って探索者として生きて行くと決めたのだ。
最澄と茜、そして梨沙と共に上り詰める。もしかしたら後一人二人くらいパーティメンバーは増えるかもしれない。だがそれは今ではない。
まずは四人で中層をクリアし、二十層のボス、オーガリーダーの集団を倒す。それをこの夏の夏休みの内にクリアする。十兵衛の目標はそこだ。
最澄や茜などに言えば早すぎると言われるかも知れない。レオたちですらまだ十八階層なのだ。ただ梨沙は十兵衛が言えば従ってくれるだろう。
十兵衛の見立てでは最澄も茜もそれだけのポテンシャルはある。後はレベルを上げ、探索経験を積み、しっかりと大怪我せずに突き進むのみだ。
十兵衛はチーム・暁なら行けると信じていた。
「もう一本!」
「応!」
十兵衛の声が幾度も道場に響いた。
◇ ◇
「十兵衛ちゃんが付き合いが悪い~」
梨沙が大学で管を巻いていた。相手は茜と最澄である。
「あいつ大学終わるとすぐ帰ってるよな。何してるんだ。週末は一緒にダンジョン探索してくれるけれど、平日の探索は三人でしてくれって言われてるしな」
「そうね、何してるのかしら。と、言うか毎週毎週十兵衛くんの動きが良くなっていて本当に怖いんだけど」
最澄と茜が梨沙に返す。
「十兵衛ちゃんは修行してるんだよ。深層探索者の叔父さんが帰ってきて毎日稽古付けて貰ってるんだって。ってかあたしも呼ばれてるけどね。回復役と結界魔法で忍術使えるようにって」
「深層探索者!? 日本のトップじゃないか!」
「そんなのが身内にいるの?」
「十兵衛ちゃんの両親は三十九層まで潜ったS級探索者だよ。そして叔父さんは現役の深層S級探索者だよ」
「マジかよ。血筋からしてサラブレッドどころじゃないじゃないか、くそっ、羨ましいな」
「そんな言葉は十兵衛ちゃんの修行を見てから言えばいいと思うよ。正直言って地獄だよ? あたしは毎日じゃないけど見てるけど何度も死にかけてるよ?」
梨沙が真面目に返すと最澄は怯んだ。実際最澄は今茜の道場に正式に入門し、しっかりと武術の基礎から習っている。それでもかなり厳しいと思うが茜に言わせればまだまだ甘いらしい。そしてそれを物心付く頃からやっているのが十兵衛や茜と言う人種だ。
梨沙も幼い頃から武術師範に武道を叩き込まれたらしい。
最澄はまだ武術の頂きどころか麓にすらいない。そこからの険しい道を上り詰めるのに、どれだけ時間が必要かなどわからない。
だがその道を通ってきた梨沙が地獄だと言うのだ。普段とても大事にしている梨沙を回復薬のように使っているのだと聞いて十兵衛の本気度合いがわかった。
「私も子どもの頃は虐待だと思われるレベルで鍛えられたわよ。誰しもが通る道よね。武術を修めるのは楽じゃないのよ。最澄も今の十倍努力しても頂きに届くかどうかわからない。そんな世界よ」
「うっす、師範」
「師範はやめてって言ってるじゃない」
「ごめん、茜さん。つい」
最澄は茜に窘められ、言い直した。道場では師範として敬わなければいけないのでつい癖で出てしまったのだ。
だが最澄と茜は同じパーティメンバーであり、同じ高みを目指す仲間である。リーダーである十兵衛は別格だが、最澄と茜は助け合い、お互いに高め合う仲間である。もちろん梨沙もだ。
最澄はこのパーティに入れた事を心底幸運だと思っている。何せ数千万もする火魔法のスキルオーブをポンとくれるのだ。他のパーティならば有り得ない。
だがそれだけではない。十兵衛と言う稀代の天才忍者、そして回復魔法と結界魔法、新たに雷魔法を覚えた梨沙。薙刀と太刀でどんなモンスターも斬り伏せる茜。これ以上のパーティが同年代で組めると言う幸運は日本中探してもそうそうないだろう。
実際にチーム・暁は日本レコードをどんどん塗り替えている。十兵衛などあっという間にB級探索者になってしまった。十兵衛ならばA級、S級の最年少記録すら狙えるだろう。だが其の為には茜や最澄、梨沙が成長しなければならないのだ。
間違えても次代の日本を背負う探索者、十兵衛の足を引っ張ってはいけない。そして十兵衛と肩を並べ、共にS級探索者になるのだ。
最澄はそう決め、金の為ではなく国の為に、国民の為に探索者をやる覚悟を決めた。
そしてそれは茜も、梨沙も同じだった。
十兵衛のリーダーシップと実力を見せられては、いや、魅せられてしまってはその隣に立ちたいと思ってしまうのは誰しもが理解するだろう。
少なくとも十兵衛と共に戦い、その背を見れば憧れてしまう。それが十兵衛の魅力であり、魔力である。視聴者だけでなく、他の探索者たちも十兵衛の活躍を見て階層を更新したり、チャレンジしていると言う。梨沙は十兵衛マジックだと言っていた。
「あたしも誘われているから何度か稽古付けて貰ったけど本当地獄だよ? 十兵衛ちゃんの修行。何度も叩きつけられて、骨も折られて、血反吐を吐いて、それを毎回治癒するのがあたしの役目なの。十兵衛ちゃん毎日ボロボロになりながら、それでも毎日成長してるんだよ」
「あの十兵衛が毎日ボロボロになっているのか。俺もこんなところで足踏みしている場合じゃないな」
「そうね、師範なんて言われていても私も十兵衛くんにあっという間にやられたわ。そしてその十兵衛くんをボロボロにする相手がいる。先は長いわね」
最澄はため息を吐き、茜は改めて自分もしっかりと修行しようと心に決めた。
梨沙は十兵衛についていく事を決めている。最初は自身の治癒魔法を色々な病人や怪我人を癒やす為に探索者になりたいといい出したが、十兵衛と共に深層まで潜りたいと言う欲が出てきている。
梨沙、最澄、茜は何も言わずに目で語った。十兵衛に負けてはいられないと。自分たちも修行しなければならないと。そうでなければ十兵衛は他の有力パーティに乗り換えてしまうかもしれない。そんなことは許せない。自分たちと共に十兵衛は深く深くまで潜るのだ。それこそ世界の最高到達階層を更新するほどに。
それは彼ら、彼女らの探索者としての本物の矜持が芽生えた瞬間だった。




