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052.最澄の相談と武術

「なぁ、十兵衛。頼みがあるんだが」

「なんだ?」


 大学で十兵衛は最澄に相談を受けた。ここには梨沙も茜もいるのだが十兵衛に振って来ると言う事は十兵衛でしか聞けない話なのだろうと身構える。


「ちょっと俺を鍛えてくれないかな。気配察知とかも弱いし、短槍の攻撃力だけじゃ辛い場面があるんだよな」

「う~ん、やってやってもいいけど、うちはダメだな。忍者の秘伝とかがあるから認められた人しか招いちゃダメなんだ」

「くっそ~、ダメかぁ」


 最澄が嘆く。そこに茜が口を開いた。


「ならうちの道場使う? 達人いっぱいいるわよ?」

「マジか? いいのか? 茜さん」

「いいわよ。他の道場生もいるけどね」

「じゃぁ茜さんの道場借りてやるか。俺が教えられるのは対モンスターじゃなくて対人メインになるけどな」

「私も対人メインになるわね。だからゴブリンみたいな人型は良いけど、キラーバットとかキラーラビットはまだ苦手だわ。インセクト系モンスターは辛かったわね」

「やっぱり茜も辛かったのか。インセクト系モンスターは動きが読めないんだよな」

「先を取って首を狩れば一緒だろ?」

「「それは十兵衛だけだ!!」」


 二人の突っ込みがハモる。梨沙はそれに「あははっ」と笑っている。

 そういう経緯で、茜の望月流古武術の道場を貸してくれることになった。最澄に取っては様々な相手と訓練できるので良いだろう。

 十兵衛も茜も梨沙も武道の基本はできている。だが最澄はそうではない。高校生で探索者になり、探索者としての経験を積んできた。だがそれも二年半程度だ。

 物心ついた頃から武道をやっている三人とは年季が違う。

 気配の察知の仕方、気配の殺し方、歩法、型など学ぶべき事は幾らでもある。最澄は茜の道場に入門すれば良いのではないか、と十兵衛は思った。



 ◇ ◇



「イヤァァァァッ!」


 ズダァンと最澄が叩きつけられる。最澄は短槍の模擬槍を持っているが茜は素手だ。短槍の根本を抑えられ、そのまま投げ飛ばされたのだ。おそらく最澄はどうやって投げられたのかすらわからなかっただろう。それほどの腕だった。


(俺とやってもいい勝負になるな、茜は)


 負ける気はない。だが楽勝とまではいかないだろう。茜はそれほどの達人なのだ。そうでなければ十八歳、九歳で免許皆伝は貰える筈もない。

 特に古武術は免許皆伝は相当やり込まなければ取れる筈がない。なぜなら免許皆伝を持っていると言う師範は、その道場の看板を背負っているのと同義だからだ。


 仮令実の娘だとしても、簡単に皆伝を与える親は居ない。少なくとも忍者の世界や、十兵衛の知っている武術の道場はそうだ。

 そして茜の武術はその域にある。忖度抜きに免許皆伝を貰っているのだろう。それがわかる。


「もう一回!」

「いいわよ。じゃぁ次は太刀を使うわね」


 そう言って最澄は起き上がる。流石に受け身くらいはしっかり身につけている。茜が木刀を持ち、最澄と対峙する。

 最澄が盾を持ちながらじりじりとすり足で茜に迫る。


「隙ありっ」


 ビシッと最澄の籠手に一撃が入る。それで最澄の短槍は地面にガランと落ち、首筋に太刀が突きつけられている。勝負ありだ。


「もう一回!」

「幾らでも付き合うわよ。最澄くんが強くなるのはチーム・暁にとっても大事だからね。私くらいの攻撃は盾で防げないと下層とか行ったら死ぬわよ」


 十兵衛がいいたかった事をしっかりと茜が言ってくれる。ありがたいと思った。

 それから十本連続で茜と最澄は戦った。そして全て茜が勝った。最後の方は最澄も善戦の兆しが見えていたが、実力差は明白だ。一朝一夕で身につくほど武道は甘くない。


 毎日何時間も基本を繰り返し、型を覚え、その型の意味をしって実戦に応用する。そこまで出来て初めて武術といえる。

 どの武術にも言える事だが、武道ではなく武術であれば敵を殺す事を想定されている。トドメを刺して初めて勝ちなのだ。そして三本勝負などと言うのは有り得ない。

 これはダンジョン探索にも繋がる事だ。ダンジョンで油断すれば死ぬ。


(ポーションや治癒魔法も万能ではないからな)


 回復方法はあるが、大怪我を負えば誰かがそれを庇わなければならない。それが実力の拮抗した相手ならばどうか。一人脱落しただけでパーティ崩壊を招きかねないのだ。

 最澄はそれを自覚している。そして落ちるなら自分だとわかっているのだ。だから十兵衛に頭を下げて頼んできた。


 だが十兵衛は人に教えるのに向いていない。茜は毎回ココが隙だったときちんと説明し、どう動くべきか見本を見せている。茜は良い指導者になるだろうと思った。

 と、言うか茜は師範の資格を持っているので教えるのが上手いのは当たり前だ。そうでなければ師範とは呼ばれない。


「ちょっと休憩を入れましょう。誰か最澄くんに基礎を教えて上げてくれるかしら。歩法からでいいわ」

「俺がやります」

「じゃぁお願いね。それで十兵衛くん」

「ん? 俺か?」

「えぇ、私と本気で試合ってくれるかしら」

「いいぞ、やるか。この木刀二本弁償するから貰っていいか」

「いえ、プレゼントするわ。十兵衛くんとやれるなら木刀二本くらい安い物よ」

「そうか、じゃぁちょっと弄るな」


 十兵衛は〈風刃〉で木刀を忍者刀の長さにする。そして二刀に構え、茜と相対した。


「おいおい、師範がお願いするってどんだけだよ」

「知らないのか、師範が組んでるパーティでめちゃくちゃ実力のある忍者って有名だぞ。マジ動きが追えないレベル」

「俺もどんなに修行してもあぁはなれないと思ってる。茜師範の配信なんかで十兵衛くんの動きが映る時あるけれど、マジでレベルが違う」


 道場生たちがざわつく。ただ十兵衛と茜は静かだった。

 茜は得意の薙刀型の模擬剣を用意し、腰に太刀と脇差しの長さの木刀を刺した。

 最澄を相手している時と威圧感が違う。本気モードだ。


「十兵衛くんの本気の一端くらいは引き出して見せるわ」

「おう、来い。茜」

「ハァァァァァッ!」


 鋭い薙刀の薙ぎが来る。それを避けるとすぐさま燕返しが飛んでくる。凄まじいスピードだ。それを右手の忍者刀で受け流し、懐に入ろうとするが、茜はしっかりと十兵衛の動きを見て半身になり、隙を見せない。


(やはり茜は強いな。うちの忍者道場でもそこそこまで行けるだろう)


 そう思いながら今度は十兵衛が攻める番になる。

 〈縮地〉を使い、間合いを詰める。右手の忍者刀を振るうがそれは柄で防がれる。瞬間、十兵衛は飛び上がり、後ろ回し蹴りを放つ。驚きつつ茜はしっかりと腕で後ろ回し蹴りを受け止めた。


「つぅ」

「まだまだ行くぞ」


 休ませるつもりはない。十兵衛は一瞬でトップスピードになり、茜の懐に入る。逆手で柄頭を使い、茜の鳩尾に一撃を入れる。まさか刃の方ではなく柄頭で攻撃されるとは思っていなかったのか茜は反応できなかった。


「ぐふっ」


 当然それで終わりではない。追撃に膝を腹に入れ、肝臓をしっかりと狙う。膝もしっかり決まり、茜の手を取り、投げ技で叩きつけ、忍者刀を首に突きつける。


「……完敗だわ。いっつ、まだくらくらするわ。でもありがとう、十兵衛くん。自分の至らなさをしっかりと自覚したわ。そして私はまだまだ強くなれる。そう確信したわ」

「あぁ、茜はもっと強くなれる。一緒に強くなっていこう。いつでも稽古には付き合うぜ」


 十兵衛は茜に手を差し伸べ、起き上がらせた。


「師範が負けた?」

「なんだあの動き」

「消えたように見えたぞ」

「あれが、忍者・十兵衛くんの実力なのか。道場破りだったら看板を持っていかれていたところだな。良かった、道場破りでなくて」


 茜が負けた事に道場生たちは驚いているが、十兵衛は探索中に茜の動きを見て茜の癖を見切っている。ならば勝つだけなら簡単なのだ。

 だが今回はそうではない。指導だ。だから茜に足りていない部分を攻めて、そして勝った。それは茜もわかっている。故に再戦を申し込まないのだ。


「俺もあのレベルの戦いができるようにならないとな」


 最澄は十兵衛と茜の一瞬の攻防を見てそう溢した。


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