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050.打ち上げと相談

「皆集まったね。今日はこの店は貸し切ってる。どんどん食べて飲んで騒いでくれ。全部私の奢りだよ」

「「「いえ~い」」」

「いや、ゴブリンキングの威圧凄かったな」

「ジェネラルも強かったよ。加勢してくれてマジ助かった」

「中層のオークリーダーよりもジェネラル強かったよな」

「そこでブラックゴブリン・ジェネラルをソロで倒す十兵衛くんよ」

「真似したくても真似できん」

「それな」


 レオの号令でゴブリンキング討伐に赴いたメンバー五十余名が居酒屋に集まっている。五十人も集まれば流石の騒がしさだ。

 成人はしているが酒を飲めない十兵衛たちはジュースだが、出された料理は美味しい物ばかりだ。

 舌が肥えた十兵衛や梨沙でさえ美味いと感じるのだから相当良い店なのだろう。金銭に余裕のあるレオだからこそできる芸当だ。


(いや、うちでもできるし、他のパーティも中層に潜っているのだからできるか。中層探索者の収入はでかいからな)


 十兵衛はレオだからこそできると思ったが、十兵衛たちもかなり稼いでいる。正直専業にしても十分贅沢な暮らしができる金額が振り込まれている。

 実際この前のゴブリンキング討伐では功績が認められ、十兵衛には五百万、他のメンバーも二百万振り込まれたと聞いている。いや、梨沙は三百万だっただろうか。

 梨沙は他のパーティの怪我人も癒やしたので評価が高いのだ。

 もちろん梨沙の他にも治癒魔法持ちはいたが、梨沙はしっかりと病院で治癒魔法の熟練度を上げていた。故に梨沙の治癒魔法は実は相当高い。

 やはり魔法も剣もなんでもそうだが、時間と実戦を重ねる事が大事なのだ。

 結界魔法も普段から毎日障壁や結界を作って練習していると聞く。梨沙は地道な努力ができるタイプなのだ。


「十兵衛くん」

「ん? なんですか?」


 十兵衛の元に女性探索者が訪って来た。二十代中盤くらいの美人だろうか。梨沙が少し警戒するように見ているのがわかる。


「ファンです。サインください」

「え?」


 まさか年上の、更に先輩の探索者からサインを求められるとは思っていなかった十兵衛は呆気に取られてしまった。

 だが彼女の瞳は本物だ。ならば応えようと十兵衛は思った。


「それほどうまくはないですけどいいですか」

「えぇ、色紙三枚持ってきたので失敗してもいいですよ」

「では書かせていただきますね」


 色紙だけでなく、万年筆と毛筆とボールペンまで用意されている。どれも高級ブランドの品なのは見るだけでわかる。誰でも知っているような有名ブランドの品だ。

 十兵衛は万年筆を手にし、風間十兵衛とサイン風に色紙に書き、お姉さんの名前を聞いてお姉さんへときちんとサインした。


「ありがとう。家宝にするね! 嬉しい!」

「いや、そんな大袈裟にされても……」


 十兵衛の心の叫びもむなしく、お姉さんは大切に色紙を持って去って行った。大事そうにバッグにしまっているのが見える。そしてお姉さんは周りから囃し立てられている。


「サイン求められるとかすげぇな、十兵衛」

「いや、流石に初めてだぞ。びっくりした」

「十兵衛ちゃんに告白するのかと思ったよ」

「えぇ、そんなくらいの迫力があったわよね」

「まぁでもファンは大切にしないとな。十兵衛は特に人気配信者だからな。どこにでもファンはいるだろ」


 最澄にそう〆られて、そういうものかと十兵衛は思う。あまり実感がわかないのだ。だがチャンネル登録者は三百万を超え、十兵衛が配信すれば十万人以上がリアルタイムで配信を見てくれている。多い時は三十万人とか超えるのだ。

 これは梨沙や茜、最澄の配信でもかなりの同時接続数がいるが、やはり十兵衛のチャンネルが一番強い。


「最澄もこの前ファンがいっぱい居たじゃないか」

「いや、まぁそうなんだけどな。高校時代から応援してくれてたファンとか居て恥ずかしかったやら嬉しかったやらちょっと困ったな」

「そういうファンにサインを求められる事があるかもしれないぞ」

「そうだな、練習しておくか」


 最澄の真面目な返答に十兵衛は吹き出した。梨沙も茜もわらっている。

 だが梨沙も茜も他人事ではないのだ。いつサインを欲しいと求められるかはわからない。

 ただし梨沙と茜は女性なので、ストーカーが発生する可能性がある。梨沙も茜も護身術はしっかりしているのでそんじょそこらの変態に襲われたくらいでは撃退できるだろうが、そんな場面にならないのが一番である。


 人気になれば、光もあれば影ができる。アンチも湧くし心ないコメントが来ることもある。

 その点は茜と最澄が対処の仕方を教えてくれたので、基本スルーすることにしている。元々十兵衛はそれほど関心がなく、十兵衛を嫌う人は勝手に嫌えば良いと思っているのだ。


「よぉ、楽しんでるか。MVP」

「MVPはレオ先輩じゃないですか」

「いや、ブラックゴブリン・ジェネラルの存在は完全に抜け落ちていたからな。本当に助かったんだ。足止めだけでも良かったのにソロで討伐するなんて思わなかった。アレが他で暴れていたら死人が出ていただろう。だから感謝してるんだよ。何度感謝を伝えても足らないくらいだ。動画を見たがひやひやしたぞ。だが勝った! 勝ったもんが正義の世界だからな」

「そうですね、ならその感謝は素直に受け取ります。ただ勝てたのは紙一重だったので、やっぱりパーティで安定して狩れるようになりたいですね」


 レオが現れ、十兵衛に絡んでくる。楽しんでいるか、と聞いてくるがレオもそんなに飲んでいるように見えない。


「本当助かったんだよ。十兵衛くんがブラックゴブリン・ジェネラルをやっつけてくれたからうちらはゴブリンキングに集中できたの。ありがとうね」


 レオのパーティの魔法使いの女性からも感謝される。


「あぁ、ゴブリンキングはパーティで戦っても強かった。同レベルのブラックゴブリン・ジェネラルなんてとても相手できなかった。他の強いパーティはゴブリンジェネラルの相手をして貰っていたからな。安全をきするならやっぱり後三パーティくらいは欲しかったよな」


 タンクの大柄な男性が言ってくる。


「俺たちがゴブリンキングを討伐できたのは十兵衛くんと梨沙ちゃんのおかげなんだ。マジで」


 弓術士のシャープなスタイルな男性も加わってきた。チーム・アレクシオンが集まって十兵衛たちに感謝の意を伝えてくる。

 十兵衛たちはチーム・アレクシオンたちと交流しながら、他のパーティなどに十二階層以上の階層の話などを聞き、有意義な時間を過ごす事ができた。



 ◇ ◇



「なぁ、相談があるんだけど」


 十兵衛は打ち上げの帰り道に三人に話しかけた。

 梨沙は十兵衛の横に居るが前に居た茜と最澄が振り返る。


「なんだ? 何でも聞くぞ」

「えぇ、十兵衛くんの相談ならいつでも乗るわ」

「今度大学を一日休んで金曜の夜からアタックして十五階層突破を目指さないか?」

「あ~」


 最澄はやっぱりそれかと言う感じで額に手のひらを当てた。


「そうだよな、十兵衛には十一階層はもう物足りないよな。俺達三人だけで安定して狩れるようになってきてるしステップアップしたいのはわかる」

「そうね、時間があるならば一気に突破してしまいたい気持ちはあるわね」

「十兵衛ちゃんがそう言うなら付き合うよ~。月曜日は必修入れてないし」


 全員時間割りは問題ないと言う事で──英語や第二外国語などは四回欠席すると単位が落ちる、他にも必修科目は出席が厳しい──十兵衛の提案は賛成多数で可決することになった。

 だが流石に即座に今週や来週ということではない。

 最澄は火魔法をもっと熟練したいし、梨沙も雷魔法の初歩くらいは使えるようになりたいらしい。


 そして攻撃魔法は簡単に家で練習できない。暴発すると火事になりかねないからだ。治癒魔法は怪我人や病人が居なければできないのと同じだ。

 結界魔法はちょっと特殊で家でも練習できるので梨沙は時間があれば常に練習している。何なら勉強しながら結界を展開していたりするらしい。


「じゃぁテスト期間で忙しくなる前にアタックすると言う予定にしておこう。それまではどこかの平日に一日か二日、午後にダンジョンアタックをして土日はフルで使う。十二層にもチャレンジしてみよう」


 全員十兵衛の言い分を理解してくれ、そういうことになった。




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