005.講習会
「ここがギルドね、探索者になるのには講習がいるのよね」
「そうだよ。俺らはまだ探索者の免許すら持ってないからね」
十兵衛と梨沙は新宿の探索者協会、通称ギルドに足を運んでいた。
四階建ての建物で結構大きい。そして敷地は驚く程広い。庁舎と呼ばれてもおかしくはない。
もともとは新宿の歓楽街だった場所だったらしいのだが、ダンジョンが現れた結果、国が土地を買い上げてギルドを建設したのだ。しかもダンジョン氾濫の危険があるので新宿の地価は暴落したのだと聞いたことがある。
ギルドに入ると総合案内所があり、お役所と言うイメージが強い。多くの探索者が休憩所で屯しているのがわかる。
「探索者になられるのですね、でしたらここを右に行ったカウンターで書類手続きをしてください。その後講習を受ければ探索者免許が発行されます。成人はしてらっしゃいますよね、していない場合は親御さんの委任状が必要になります」
「わかりました、ありがとうございます」
総合案内所の案内員は壁に貼られた大きな地図でここだと指さしながら教えてくれた。親切で丁寧な対応だった。
言われた通りのカウンターに行くとそこそこの人が並んでいた。みんな若い。
「結構人いるね」
「この時期に大学生が探索者になるのは多いらしいよ。でも一番多いのは高校の卒業式が終わってすぐの春休みだって」
「十兵衛ちゃんそういうの調べたんだね」
「十兵衛ちゃんはやめろって」
「だってあたしの為に調べてくれたんでしょ? なんか嬉しいじゃん」
梨沙はるんるんで受付で書類を書き、受付嬢に案内されて午後二時からの講習を受けることになった。
◇ ◇
講習の前半はとても退屈だった。なにせ座学なのだ。高校でも習うようなダンジョン史と日本のダンジョン対策、あとダンジョンで得た物の売却方法、税金に関して、そしてダンジョンで得た力で罪を犯すと通常の犯罪よりも重罪として扱われるなどの説明が行われた。
講習会は百人ほど入れる大きな部屋で、説明の人は壇上に立ってマイクを持ち、後ろにあるでかいスクリーンで授業のように説明している。
まぁこれも必要な事なのだろう。なにせ高校を卒業して大学に行っていない若者や、高校にも行かずに十八歳になったような人間も講習会に参加しているのだ。高校で習うダンジョン史などよりもよっぽど詳しくやったので、講習を受けた意味はあるといえる。ただし二度言うがとても退屈だった。
「ふぁ~、必要な事なのはわかるけど眠くなるよね」
「わかる」
実際周りにも眠そうな奴らはいるし、実際寝ている奴も居た。これから命の危険のあるダンジョンに潜ると言うのに大丈夫なのか少し心配になる。なにせ彼らは一応十兵衛たちと同期と言う事になるのだ。絡むこともあるかも知れないのだ。
もちろん講習会で寝ているような奴らと絡むつもりはない。ただこの中にまだ見ぬ実力者が居たり、もしくは未来の実力者が居て一緒に探索をする機会もあるかもしれないのだ。
パッと見て「こいつ、やるな!」みたいな人間は見当たらなかったが、スキルやジョブなどがある世界なのでそう簡単に見抜けない。十兵衛には鑑定スキルはないのだ。
「次は模擬戦だっけ。楽しみだね」
「そうだな、まぁ簡単に戦えるかどうかだけを試す場所らしいからそんなにレベルは高くないと思うけれど」
ぞろぞろと百人以上の人間が移動する。探索者になりたい人数はもちろんこれだけではないので、一日に何度も講習と模擬戦を行うようだ。
模擬戦の試験官はそれを毎日業務としてこなすのだ。お疲れ様としかいいようがない。
それを言うならさっき講習をした人も毎日何回もあの退屈な講習をしているのだろう。
(流石にアレを仕事にするのはイヤだな)
想像しただけで十兵衛はイヤな気分になった。退屈過ぎると思うのだ。
そうこうしているうちに模擬戦を行う訓練場に着いた。
ちなみにここは新規探索者の試験を行う為に貸し切っている訓練場で、訓練場自体は三つもあるのだと言う。この時期は新規探索者が多いので、この第三訓練場は新規探索者用に貸し切られていると試験官から説明を受ける。
「うちら順番後ろの方だね。どんな実力者がいるかちょっと楽しみだね」
「そうだね、じっくり見させて貰おうか」
「あ、あの人強そう」
「なんかの武道の大会で見たことがある人だね」
十代が多い中で少し年の行っている、だがまだ二十代後半だろう男は武人の空気を纏っていた。持っているのは棍だろうが、本来の得物は槍だろう。構えだけでわかる。
その男と試験官の戦いはなかなか見応えがあった。それまでは素人がレベルアップも果たし、武道の心得もある試験官にすべて攻撃を弾き返され、アドバイスを受けると言うものだったが、その男は試験官と同レベルで渡り合っていた。
槍を扱うように棍をうまく使い、ガツガツと試験官を攻め立てている。
もしかしたら彼はプリマヴェーラなのかも知れないと十兵衛は思った。そうでなければレベルアップも経験したスキル持ちの試験官と渡り合うと言うのはそうそうない事だと事前情報で知っていたからだ。
「止め」
五分ほど戦いは続き、もう十分だと言うことでその戦いは終わった。最後まで見たかったが、他に何十人も試験があるのだ。彼にだけ関わっては居られなかったのだろう。こればかりは仕方がない。
「そろそろ私たちだね」
「そうだな。緊張してる?」
「してる。でも大丈夫」
梨沙は緊張はしているようだったが、体は震えていない。むしろ楽しみだと言う感じで試験官と受験者の戦いを見つめている。
(梨沙も武道は習っているからな、何もできないってことはないだろ)
そう思っていると十兵衛と梨沙が同時に呼ばれた。試験官は五人なので梨沙と十兵衛は違う試験官と戦う事になる。
(忍者刀に近いのはないな。小太刀でいいか。二刀にしよう)
十兵衛は普段使っている忍者刀より五センチメートルほど長い小太刀の模擬刀を選び、両手に構えた。
「始めっ」
「はっ」
始めの声と同時に縮地を使い、試験官に接近して右手の小太刀で攻撃を加える。それが防がれたのと同時に左手で袈裟に切り上げる。試験官もさるものでバックステップでそれを避ける。
だが十兵衛はすでにそれを予測していた。追い突きの体勢を整えており、右手で胴に向かって突きを放つ。その一撃は防がれたが、左手の小太刀でするりと相手の左腕を撫でた。
本気で打ち込んだりはしない。だが今の一連の攻撃で相手の左腕が落ちたのは試験官もわかっている筈だ。
「合格だ。まさか一瞬で負けるとは。君はもう十分見させて貰ったからいいよ。と、言うか明らかにスキル持ちだよね。スキルは……いや、詮索はよくないか。とりあえず終わりでいいよ」
「ありがとうございました」
「うん、こっちもありがとう。良い勉強になった」
試験官はにこやかな笑みで十兵衛に合格を言い渡した。
試験官から離れると梨沙の戦いはまだ続いていた。梨沙は混を選んだようだ。梨沙は槍と杖術を使える。試験官と良い感じに打ち合い、周りからは歓声が出ている。
梨沙の見た目は美しい。そこらのアイドルにも負けないくらいだ。それでいて気の強さがしっかりと表情からわかる。
試験官は梨沙のジョブが治癒術士だなんてかけらも思わないだろう。戦闘系のジョブになるだろうと思いこむはずだ。
いや、これは試験官に限った事ではない。周りで見ている受講者たちも同じことを思っていると思う。
梨沙の戦いは先程の大太刀使いの男と同じように五分ほど続いて終わった。もう十分だと言う事だろう。
「ふぅ、十兵衛は早かったんだね。あたしはしっかり五分戦っちゃったよ。やっぱり違いがあるね」
「いや、でも今日の受験者の中でさっきの大太刀の人と同じくらい良い勝負だったよ。誇って良いと思う」
「やった、ダンジョンに行っても通用すると思う?」
「低層なら大丈夫じゃないかなぁ?」
「むぅ、辛口なんだから」
十兵衛の評価に梨沙はわかりやすくむくれた。
さて、これで準備は整った。後は最澄と茜と共にダンジョンに潜るだけだ。
十兵衛はしっかりと気を引き締めねばと心の中で梨沙を守ることを誓った。




