048.凱旋・十兵衛の失敗
(十兵衛は無傷で帰ってきたか。流石だね)
レオはゴブリンキングと戦いながらも、十兵衛が帰って来たのに気付いていた。十兵衛は手を貸すつもりはないらしい。もちろんレオが手助けしてくれと言えばしてくれるだろう。
だがチーム・アレクシオンで十分追い詰めている。後はトドメを刺すだけである。レオは十兵衛は考えがあって手助けしないのだと判断し、手助けの声は掛けない事に決めた。
「グオォォォッ」
ゴブリンキングが叫んで右腕だけで大剣を打ち付けてくる。タンクがそれを受け、弓士が矢を撃ち込む。そして怯んだ所で渾身の一撃をゴブリンキングに叩きつける。その一撃は逆袈裟にゴブリンキングの鎧を貫き、骨まで断った感触があった。
(取った!)
そう思った。だがゴブリンキングは塵になった訳ではない。レオは完全に油断していた訳でもない。だがまさか……ゴブリンキングが無詠唱で雷魔法を繰り出してくる。レオが避けられるタイミングではなかった。
死ぬ瞬間までゴブリンキングは雷魔法を使える事を隠して居たのだ。
「〈六角障壁〉!」
梨沙の声が響く。ゴブリンキングの最後の一撃は梨沙の結界に寄って阻まれた。
「危なかった。ありがとう、梨沙。まさか雷魔法を隠し持っているとは」
レオとしても予想外であった。ゴブリンキングは死に、塵になっている。雷魔法のスキルオーブがドロップしたのが見える。それに純度の高い大きな魔石と使っていた大剣がドロップしている。
「梨沙、あんたは殊勲賞だ。どれかいるかい?」
「じゃぁ雷魔法を貰っても良いですか。使えるようになりたいです」
「いいさ、命を助けて貰った礼だ。遠慮なく持っていってくれ」
レオは梨沙の助けがなければ黒焦げになり、ゴブリンキングと相打ちになっていただろう。レオだけでなく、他のパーティメンバーも巻き込まれたかも知れない。それほどの威力だったのだ。
それを障壁一枚で防いでしまう梨沙の結界魔法の熟練度は相当高いとレオは見積もった。
「ゴブリンキングは倒した! 私たちの勝利だ!」
ゴブリンキングの大剣を掲げ、レオが勝利宣言をすると大きな歓声が上がる。
(それにしても影のMVPはブラックゴブリン・ジェネラルを単騎で倒した十兵衛くんだね。十分報酬が払われるようにギルドに言って置こう)
レオはそう決心したが、ギルド派遣の斥候たちは十兵衛の戦いも見ていたはずだ。
今回の遠征で十兵衛の負った役割はとても大きい。
まず斥候部隊でゴブリンの数を七十体倒し、そしてゴブリンキングと同等であろうブラックゴブリン・ジェネラルを単騎で倒したのだ。
もしチーム・暁が、十兵衛が居なければかなり大変な遠征になっただろう。死者も出ていたはずだ。
だが結果は怪我人はいるが死者は居ない。完全勝利と言える。レオも胸を張ってギルドに凱旋できると言うものだ。
「お疲れ様です。レオ先輩。流石ですね。ですが最後の雷魔法はびっくりしましたね。梨沙、ナイス判断だった」
「うん、なんかしそうな……、と、言うか魔力の高まりを感じたからね。慌てて障壁を張ったの。レオ先輩が助かって良かったわ」
「梨沙、改めてありがとう。助かったよ」
「いえ、レオ先輩には色々助けて貰ってますから」
「梨沙、いいチームだね」
「はいっ!!」
梨沙は華が開くように笑顔で返事を返した。
◇ ◇
ゴブリンの集落も叩き潰し、帰路になるが六階層入口に帰るよりも十階層のボス部屋を突破して十一階層の転移球から帰った方が早い。
と、言う事でゴブリンキング討伐部隊は十階層を目指していた。と、言ってもどのパーティも十階層のボスは経験済みだ。九、十階層と安定して進み、問題なくオークリーダーの集団も倒す事ができた。
十兵衛が手を出す暇もないくらい見事な連携で鏖殺した。
「お帰りなさいませ。ご無事で何よりです。みなさん」
ギルドの偉い人がレオたちを出迎える。幾人かの受付嬢も集まっている。それだけギルドの威信を賭けた討伐部隊だったのだ。
そしてレオたちは期待に応え、一人の死人も出さずにゴブリンキングの集落を殲滅した。大勝利である。
「あぁ、だが情報と違う事があった。特にブラックゴブリン・ジェネラルの情報はなかった。十兵衛が居なければかなり苦戦した筈だ。どういう事だい」
「そちらは本当に申し訳ありません。ブラックゴブリン・ジェネラルの姿は本当に確認されて居なかったのです。その分討伐報酬は十分に色を付けさせて頂きます」
「当然だね。あと倒したのは十兵衛だ。十兵衛にちゃんと報いてやって欲しい」
「畏まりました」
レオは疲れたので今日は解散であるが、後日このメンバーで居酒屋を貸し切って全員で喜びを分かち合おうと言った。
「私の奢りだよ。全員好きなだけ食べて飲みな。だけど今日はしっかり休むんだ。できれば明日も休んで、しっかり休養を取りな。遠征の疲れは残っている筈だから無理してダンジョンに潜るんじゃないよ」
レオは全員にそう言い、遠征部隊を解散させた。
「十兵衛様」
「ん? なんですか。如月さん。あと様付けは止めてください」
「はい、じゃぁ十兵衛くん。ちょっとお話があります。良いですか?」
「少しなら」
「はい、手短に話します。ギルド内で十兵衛くんの評価が高まっています。ブラックゴブリン・ジェネラルを単騎討伐する十一層探索者は存在しません。故に十兵衛くんはB級探索者への昇格が決まりました。異例ですが最短記録の更新です。おめでとうございます」
「ありがとうございます?」
十兵衛としてはライセンスの級はあまりこだわりがなかった。だが十五層を超えて潜るにはB級が一人はいないとパーティの探索が禁じられる。C級は十五層までが最高なのだ。
そういう意味では十六層以上潜る予定である十兵衛たちチーム・暁に十兵衛と言うB級探索者がいるというのはアドバンスがある。故に断る事はせず、静かにその評価を受け取ることにした。
「おめでとう、十兵衛ちゃん」
「おめでとう! 凄いわね」
「あぁ、最短でB級探索者とか同じパーティに居てもいいのか不安になるぜ」
最澄がそう言い、笑いが漏れる。もちろん茜も最澄も貴重な戦力である。これからも一緒にパーティとして活躍して貰わなければならない。
梨沙は雷魔法も覚え、魔法使いとしてのアタッカーになれる。茜はスキル〈剣豪〉を得て強力になる。最澄は火魔法を極め、タンクとしてしっかり働いてくれれば良い。
「いや、最澄はうちには必須のタンクだ。しっかり働いてくれ」
「あぁ、わかった。頑張るぜ」
「後、茜」
「何?」
「このスキルオーブは茜が使うべきだ。だから渡しておく」
茜にスキルオーブを渡すと茜はフリーズした。
「す……、スキル〈剣豪〉!? 刀使いや剣使いにとっては垂涎のスキルオーブじゃない!」
「ブラックゴブリン・ジェネラルが落としたんだ。道理で刀の使い方がうまい奴だと思ったよ。強敵だった。怪我は負っていないけれど紙一重の勝負だった。こちらも切り札を切らされたしな」
梨沙が驚いたような表情をする。
「え、十兵衛ちゃんもしかしてアレ使ったの」
「あぁ、使わないと倒せなかった」
「凄い、本当に強敵だったんだね」
「なぁ、アレってなんだ?」
「秘密だ。俺の切り札だからな。そのうち見ることもあるだろうよ」
そう十兵衛は言ったが十兵衛は失敗していた。
「今日の戦いは十兵衛のアカウントだったんでしょ。だったらアーカイブを見ればアレが何かわかるじゃない」
「あっ」
茜が突っ込み、十兵衛はすっかり忘れていたと失敗を嘆いた。
ちなみに今見てみると十兵衛の同時接続数は百万人を超えていた。




