046.二体の怪物
「敵本拠の場所が見えるね。丘の上か、情報通りだけど少し面倒だね。ゴブリンメイジやゴブリンアーチャーの攻撃に気をつけながら一気に駆け上がるんだ。そして目の前のゴブリンたちを倒してくれ。ジェネラルが出たら私たちを呼んでくれていい。無茶しないで引くのも大事だ。命のが大事だからね。ただ戦線を維持する為にはタンクたちはちょっとでもジェネラルの攻撃に耐えてほしい。その間にアレクシオンか主要パーティが救援に向かう手筈になっている。わかったかい」
レオが丘の上のゴブリン集落を見ながら全員に演説する。全員しっかりと聞き、頷いている。士気は高い。
特に十兵衛たち斥候部隊が相手の数を減らしたと言うのが精神的にも助けになっている。むしろ斥候だけで七十を超えるゴブリンを倒したのだ。実に二割である。斥候たちはもう十分仕事を果たしたといえる。
だが本来の目的はゴブリンキングの討伐だ。キングを倒さない事には仕事は完遂しない。それは全員がわかっている。故にさっきまで戦闘をしていた斥候たちも自分の武器の手入れなどを怠らず、更にレオの言葉もしっかり聞いている。
(やはり普段中階層を潜っているだけあって指揮しやすかったな。おかしな動きを取る斥候も居なかったし、スカウト部隊は使いやすいな)
斥候、スカウトだけでパーティを組むということは基本ない。タンクが一から二、アタッカーが一から二。それにできれば後衛で魔法職か弓職が欲しいと言うのが基本的なパーティ編成だ。
例で言うとチーム・アレクシオンは圧倒的な前衛であるレオをしっかり使う戦略を持ってパーティを編成している。レオが前衛でスカウトとタンクが一。更に弓職と魔法職が一ととてもバランスの良いパーティだ。
チーム・暁はスカウト兼アタッカーの十兵衛。アタッカーの茜。タンクの最澄。そして後衛兼回復役の梨沙となっている。
(腕の良い弓職入れられないかな、そこそこ自衛出来る奴)
十兵衛はレオのパーティを見て腕の良い弓職が居れば戦略の幅が広がるな、と考えていた。だが当然腕の良い弓職は人気だ。そう簡単に引き抜ける訳ではない。求人を出したとしても良い人間が来るとは限らない。ならば今のメンバーで行けるとこまで行き、その功績を持って優秀な弓職を募集してみるのもありかもしれないと思った。
(大手クランに所属していたらこんな問題はおきないんだけどな)
話し合いの結果、クランへの所属はなしと言う事になった。メリットよりデメリットのが上回ると言う結論だからだ。故にクランに所属しているメリットも当然受け取れない。そればかりは仕方のないことであるし、無い袖は振れないのだ。
くだらないことを考えている暇はない。レイドではチーム・暁は、十兵衛は中核を担うように言いつけられている。
十兵衛は改めてパシンと頬を叩いて気合を入れた。
◇ ◇
「「「うおおおおぉぉぉっ!」」」
叫びながら五十を超える探索者が丘の上に吶喊する。それに合わせてゴブリンたちは警戒するが間に合ってはいない。時折矢が飛んできているがそれらは全て避けられるか弾かれている。
所詮ゴブリンである。知能はあるがそれほど高くはない。故に最初の突撃でかなりの数を減らすことができた。
魔法職が魔法を放ち、弓職が弓で狙撃している。ゴブリン相手なら銃も効くのだが、銃は今回使わない事になっている。フレンドリーファイアが怖いからだ。
そんなことを言えば魔法も弓もそうではあるが、そこは全員ベテランである。きちんと隙間を縫って攻撃を精密に当てている。
「火遁・〈蒼炎刃〉」
十兵衛もパーティとパーティの隙間に忍術を放ち、三体のゴブリンを輪切りにした。だがこれはまだ前哨戦だ。なにせゴブリンジェネラルすら出てきていない。あまり消耗する訳にもいかないので、十兵衛は抑えながら戦っていた。
「ジェネラルが現れた。右翼だ!」
「おい、お前ら。右翼に行きな!」
「はい、姉御」
「任せたよ」
指定されたパーティは即座に右翼に行き、ゴブリンジェネラルと戦い始める。
遠目でしか見えないがゴブリンジェネラルの身長は二mは超えている。しかもムキムキで筋肉むき出しだ。ゴブリンとは思えない大きさだと思った。
更に鎧を来ており、山刀をぶんぶんと振り回している。中層探索者でも直撃すれば大怪我は免れないだろう。
実際ゴブリンジェネラルは中層後半に普通にモンスターとして現れるらしい。そしてジェネラルに負けて崩壊するパーティと言うのも多いと聞いた。それだけジェネラルは強敵なのだ。侮ってはいけない。
「左翼にも出た。ジェネラルだ」
「おい、左翼に行きな。増援だ」
「はいっ」
左翼にも主要とされる戦力のパーティが派遣される。これで中央はレオとチーム・暁。それに二パーティとなる。
当然レオは大剣でゴブリンをめった切りにしており、その暴風の中にはなかなか入っていけない。十兵衛は手裏剣でその暴風圏から逃れたゴブリンの処理をしていた。
最澄や茜、梨沙もきちんと戦っている。やはりゴブリンの数が多いのだ。囲まれないように背中を預け合い、しっかりと連携を取って戦えている。
十一階層でスパルタに三人で戦わせた経験が生きていると思った。
「ゴアァァァァッ」
大きな咆哮が響く。ゴブリンキングが現れたのだ。その威圧感は遠くにあっても近くに感じられるほどだ。だが様子がおかしい。ゴブリンキングの横にゴブリンキングと同等の気配が感じられる。
ゴブリンの集落で王は一体。間違ってもキング種が共生すると言う報告はダンジョンが現れてから世界で一例も存在していない。
(どういうことだ、何が起こっている?)
「レオ先輩。キングの横にキング並の敵が控えています。おそらくジェネラルの亜種だと思うんですが」
「ちっ、数まで違うのに戦力も違うのか。ギルドに後で文句を言わないといけないね! その分報酬はふんだくるよ!」
レオは負けるなどとは考えていないのだ。後で情報が間違っていたとギルドから賠償金をふんだくる事まで考えている。逞しいと思った。
そして自分はそんなくらいでは死なないと自身満々であるレオが頼もしいと思った。
十兵衛もいずれその域に達さなければならない。そう決心した。
:おいおい、キング並の亜種ってなんだよ。
:聞いた事ないよな。
:ってかむしろ今回は早めに対処できた方だろ? ゴブリンキング。それで強力な亜種がいるとかどんだけ引き悪いんだよ、十兵衛くん。
:いや、でも十兵衛くんならなんとかしてくれると信じてる。
:俺も信じてるけどさ、やっぱりゴブリンキングだぜ。十一階層を潜ってるチーム・暁には早いって思うんだよな。
:まぁそういう意見もあるけれど、ギルドが耐えうると判断して派遣してるんだろ。ギルドはしっかりチーム・暁を評価してるんだよ。
:日向レオも十兵衛くんの事信じて献策を採用してたしな。
:あのゲリラ戦法やられたら探索者とか即死だよな。十兵衛くんを敵に回しちゃいけない。俺は理解した。
どうやらコメントはかなり盛り上がっているらしい。十兵衛はレベルアップしたことと、何度も探索を繰り返したことで、意識のほんのちょびっとをコメントに割いても戦闘に支障がないように訓練した。
配信をしている以上、視聴者やコメントへの配慮も大事だと梨沙に怒られたのだ。
その通りではあるが、十兵衛はあくまで探索者が主であり、配信者は従である。ただ三百万を超える登録者がいる。それだけ十兵衛に期待する人間がいるのだ。
探索者と言うのは人気インフルエンサーでもあるが、今やインフラの一つだ。ダンジョン災害を引き起こさないように、探索者がダンジョンの間引きを行い、街が壊滅しないようにするための歯車である。
そして魔石を使った発電や重機、ドローンなども開発されている。ダンジョンでしか手に入らない鉱石がある。ダンジョンでしか手に入れられないポーションがある。それらを手に入れ、富を手にするのが探索者だ。当然ベットするのは自分の命である。命に見合うだけの富を手にできるかどうかは自身の実力と努力と才能に賭かっている。
今も大手製薬会社はポーションを科学的に錬成しようとしているが叶っていない。スキルオーブは当然生成できない。魔法金属はどうやら魔素と言うのが絡んでいるということまではわかっているがやはりダンジョンからしか手に入れる事ができていない。
「レオ先輩、行きましょう」
「おう、相手が二体のキングだろうが私は構わないよ。十兵衛、ついてきな。梨沙たちはここで待機だよ。あんたたちにはまだ早い」
「「「はいっ」」」
そうしてチーム・アレクシオンと十兵衛は強烈な気配を放つ二つの怪物に相対した。




