045.レイド・前哨戦
ギルドから派遣された斥候が帰ってきた。ギルドの斥候は軽鎧を付けて忍者スタイルに近い。やはり斥候はああいうスタイルになるのだなと思った。
十兵衛も黒尽くめであるが鎖帷子に強靭な布、そして軽鎧の装備だ。動きやすさを重視しているが、防御力もあると言う最高の装備である。おそらくギルドの斥候よりも良い装備を付けている。お館様さまさまである。
もちろんそれは梨沙の護衛としての期待が含まれているので、きちんと護衛の仕事は果たさなければならない。
「集落だが三百程度だったのが三百五十程度に膨れ上がっている。これは放置しているとどんどん増えるぞ。今のうちに叩くべきだ」
斥候の意見はそうだった。
「三百五十だって。もう二、三パーティ必要だったんじゃないか?」
「だがもうここまで来ちゃったんだ。このメンバーでやるしかない」
「このメンバーで行けるか? ゴブリンキングと戦った事はないが、下層に出てくるモンスターなんだろう?」
全員がざわつく。
「狼狽えるんじゃないよ!」
レオが吠える。その一喝で全員が黙った。それだけレオの威圧は強かった。
「私たちが受けたのは何だい? 相手が三百だろうが三百五十だろうがゴブリン集落の殲滅が任務だろう? 契約書にサインしたんだ。多少相手の規模が大きろうがやるしかないんだ。腹括りな」
その一言で士気が戻った。
「俺はやるぜ」
「やるしかないしな、死人を出さずにクリアしようぜ」
「それでギルドから評価上げて賞金で美味いもの食おうぜ」
「あぁ、もうすぐ近くまで来ているし、俺たちが撤退したら次の遠征は先になる。ってことは後輩たちが死ぬってことだ。それは許せねぇよな」
予定と違うことなどままある。護衛とはそういう仕事だ。だから十兵衛は斥候の報告に焦りは感じなかった。
敵とは不意打ちでスナイパーライフルを使ってくる奴も居るのだ。常在戦場。それが十兵衛が叩き込まれた忍びの掟である。
チーム・暁の面々を見ると怯んでいるメンバーはいない。みんな良い表情をしている。これならばやれる。信頼して背中を預けられる。十兵衛はそう思った。
「幸い集落の場所は変わっちゃいない。行こう」
「レオ先輩、ちょっと提案があるのですが」
「なんだい? 十兵衛。良い提案なら採用するよ」
「斥候部隊を作って幾つかのゴブリンリーダーのはぐれ部隊をゲリラで減らしませんか? もちろん俺も参加します」
レオは少し考えて頷いた。
「他のパーティの斥候が良いって言うなら良いよ。どうだい、斥候職の奴等、十兵衛の提案を飲む奴はいるかい? 最低五人、できれば十人の部隊を送り出したいと私は考えている」
「俺はやれるぜ」
「ゴブリンリーダーだろ、ならやれるさ」
「俺も得意だぜ」
「私も参加するわ」
次々に手を上げる斥候職が手を上げる。結局十兵衛を含めて六人のメンバーが揃った。それにギルドから派遣された斥候も参加してくれて八人だ。十分な戦力だと十兵衛は思った。
「これだけ居るならやってみる価値があるね。言い出しっぺだ。十兵衛、お前が指揮を取りな。他の奴等、十兵衛が指揮を取るのに異議が有る奴等は居るかい?」
「いや、大丈夫だ。俺は従う」
「十兵衛くんと一緒に戦える機会なんてそうない。是非間近で見てみたい」
「私も従うわ」
「俺はギルドから派遣されているからな、日向レオがそう指示するなら従うぜ」
と、全員が十兵衛の指揮下に入ってくれることになった。即席の連携になるので名前を交換したが、α、βなどのコードネームで呼び合う事に決まる。当然αが十兵衛だ。
「よし、じゃぁ先行してはぐれ部隊を削って行こう。五つのリーダー部隊を倒せば元々報告にあった三百の集落になる。それなら危険度ががくりと減る。俺たちの活躍が勝利の鍵となる。俺はまだぺーぺーだが変な指示は出さないつもりだ。むしろおかしな指示があれば指摘してくれれば良い。話を聞く用意はある。さて、行こう」
「「「応」」」
良い返事があったところで斥候部隊八名は九層の森林フィールドに足を踏み入れた。もちろん百mほど後に本体が続いている。
梨沙の安全は最澄と茜に任せてきた。本来なら護衛として離れるのは有り得ない話だが、逆にゴブリンキング戦で梨沙が危険になった時に十兵衛が手一杯の時がある。ならば先に数を減らし、戦況を有利にする。そうした方が梨沙の安全に寄与すると考えたのだ。
「あっちにゴブリンの群れがいる。大体十体くらいだ」
「すげぇな、そのサーチ能力。俺も欲しいぜ」
「八人で奇襲すれば余裕だろ。確認次第殲滅するぞ。GO!」
八人の斥候チームたちはたちまちのうちにゴブリンリーダーに率いられた偵察ゴブリン部隊を鏖殺した。
(うん、良い感じだ)
斥候だけで構成されているだけあって、以前十兵衛が指揮したことの有る忍者部隊にかなり近い。全員武器や得意な分野は違うが、九層のゴブリン相手には過剰戦力なくらいである。
八人と言うのは二パーティくらいの人数だ。一パーティの適正人数は四から六人と言われている。もちろん八人パーティを組んで攻略しているパーティもあるが、それは少数派だ。
「次はあっちだ。三百mくらい」
「私にはまだ察知できないわ。これほどの察知能力があればチーム・暁が苦戦しないのも納得ね」
唯一の女性斥候が小さく呟く。
十兵衛はレベルアップを果たした事で気配察知が敏感になった。気配察知のスキルが熟練度によってレベルアップしたのかも知れない。
ただそれは鑑定してみないとわからない。そして十兵衛は自分のスキルをギルドに渡すつもりはなかった。故に鑑定は受けない。それは決定事項だ。
──それから一時間ほど戦った。
「結構狩れたな」
「あぁ、七集団くらい倒せた。後は集落に引きこもっている。俺たちの仕事は終わりだな。良い指揮だったぜ、十兵衛。誰も大怪我をせずに七十を超えるゴブリンの集団を狩れたんだ。指揮官の才能あると思うぜ」
「ありがとう。頑張ってみようと思う。本体に戻って報告しよう」
「あぁ、わかった」
十兵衛たちが戻ると本体の戦闘にレオたちチーム・アレクシオンが待っていた。誰も欠けていない事を確認してレオはうんうんと頷いている。
梨沙は心配していたのか十兵衛の姿を見つけて嬉しそうだ。
「七集団、約七十のゴブリンを掃討しました。これで集落に居るのは二百八十くらい。この十二パーティで十分殲滅できる筈です」
「そんなにかい。精々三集団くらいを倒してくれれば上等だと思っていたんだけど、倍以上とは恐れ入った。十兵衛、良い働きをしたね。ギルドにも報告しておくよ」
「はい、ありがとうございます。付き合ってくれた斥候の皆さんもありがとう。別のパーティと組んだ事はなかったんですが、みんな即席でも連携がうまくて勉強になりました」
「いや、十兵衛くん強すぎでしょ。半分くらいは十兵衛くんがやってたよ」
「な、十兵衛くんが十一階層とか信じられねぇ。二十階層を突破しているって言われても信じられる動きだったぜ」
十兵衛の働きは他の斥候にもかなり評価されたようだ。
だがこれはまだ前哨戦である。相手の数を減らしたとは言え、まだゴブリンキングの本体は残っている。そしてそれには少し丘になっている場所に陣取っているので、丘を登って攻め入らなければならない。
攻城戦と言うほど難易度は高くないが、戦争ではやはり上を取った方が有利なのだ。
レオはどう采配するのか。十兵衛の関心はそこに向いていた。それはともかく自分の案が採用され、しっかり結果を残せた事には満足していた。




