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044.束の間の休憩・十兵衛への期待

「おはよう、茜。最澄。夜番お疲れ様」

「あぁ、おはよう。梨沙ちゃんはまだ夢の中か?」


 十兵衛が目を覚ますと最澄と茜が夜番をしていた。安全地帯と言われる八階層の階段前に五十人を超える中層探索者がいる。故に殆どのパーティは夜番など立てていなかったが、十兵衛たちはしっかりと二交代で睡眠を取っていた。

 そしてレオたちチーム・アレクシオンも同じだ。ついでレオたちから注目しておいた方が良いと言われていたパーティたちもしっかりと夜番を立て、警戒を密にしている。

 十兵衛としてはダンジョンの中で熟睡するなど阿呆だと思うのだが、完全に寝ているパーティも居る。それでも中層探索者であり、十一階層で修行を続けているチーム・暁よりは先輩だ。


「まぁ人それぞれスタイルがあるからいいんだけどな。他人に興味ないし」

「そういうとこだぞ、十兵衛くん」

「ん? どういうとこだ。茜」

「他人に興味ないとこ。もっと他人に興味持とうよ。学校でもあんま友達作ってないでしょ」

「まぁ梨沙が一番大事だからな。他はそのついでみたいなもんだ」

「あぁぁぁぁぁっ」

「どうした梨沙!」


 梨沙の悲鳴が轟く。


「起き抜けに梨沙が一番大事とか言わないでよぉ。もうっ、恥ずかしい」


 梨沙の悲鳴の理由を聞いて十兵衛は呆れた。護衛対象の梨沙が大事でない訳がない。梨沙が傷つくだけで、十兵衛の経歴に傷がつくのと同義だ。

 もちろんダンジョンアタックに危険がない訳ではない。故にポーションや治癒魔法で治せる怪我程度は仕方がないと割り切っている。


 梨沙を殺して回復魔法を奪おうとする輩は必ず存在するからだ。実際十兵衛は風間家の報告書で梨沙を狙い、風魔忍者たちに返り討ちにされた者たちの報告を見ている。

 敵の中には当然探索者経験があり、レベルアップをしている者たちも居る。


(梨沙の悲鳴で何人か起きたな。起き抜けは気合が抜けている事が多いから全体としては良かったか)


 十兵衛はそんな酷い事を思った。梨沙はさっさと支度を初めている。恥ずかしいのが残っているのか耳が真っ赤だが指摘はしない事にした。


 風間家はダンジョン黎明期からダンジョンに忍者を送り込んできた。スキル・忍術が生えている者も居るが、スキル化されていなくても忍術は使えるのだ。

 ただしスキル・忍術があるのとないのとでは忍術の攻撃力が違う。同じ忍術を放てばスキル・忍術を持っている方が必ず勝つ。スキルとはそういう物だ。故にプリマヴェーラであり、スキル・忍術を持つ十兵衛は次代の小太郎だと目されているのだ。


「お前ら、準備はできたか?」

「「「はいっ、姉御!」」」


 レオが号令を掛けると全員にピシッと芯が入る。

 レオは既に全員の心を掴んだようで、幾らかのパーティからは「姉御」と呼ばれるようになった。

 十兵衛たちにとっては優しい大学の先輩であるが、他の中層探索者にとっては実力のある強者として映る。故に「姉御」なのだろうと勝手に十兵衛は解釈した。


 命令違反をしたり勝手に離脱しないだけいいか、と放りだしたとも言う。

 全体の士気を上げ、指揮をするのは十兵衛たちの仕事ではない。いずれ十兵衛たちが階層を、レベルを上げて行けばB級ライセンス、A級ライセンスとなっていくだろう。


 協会のライセンスはただの名目ではない。実力と実績が必要とされ、そしてそれらを総合的に判断されてライセンスは発行される。

 故に十兵衛たちはC級に恥じぬように振る舞わなければならないし、今後B級、A級となっていけばそれだけの振る舞いを求められる。

 中層探索者であれば低層のゴブリンキング、下層探索者になれば中層のワンダリングボス、オークキングのレイド討伐の部隊長に抜擢される可能性もあるのだ。


(今のうちにしっかりと部隊の指揮を学んで置こう。忍者たちを率いた事はあるけど身内だから裏切りとかあり得なかったんだよな)


 十兵衛は部隊を任され、動いた事がある。だが部隊は風間分家の忍者で構成されており、裏切りや命令違反はあり得ない。

 だが今のレイドはどうだ。多くのパーティが集まった寄せ集めでしかない。連携訓練もしていない。大体チーム・暁は他のパーティと組んだ事すらない。


「う~ん、他のパーティと息を合わせるのって難しそうだなぁ」

「いや、十兵衛はいつも通りでいいんじゃないかと思うぞ。マジで」

「えぇ、連携なんかは私たちの仕事で、十兵衛くんの仕事はキングやジェネラルの相手でしょう? レオ先輩に指名されているのだから今回はそれだけに集中すれば良いのよ」


 十兵衛の呟きに最澄と茜が突っ込む。確かに今現在・・・ではそれで良い。命令に従い、敵を倒す。今まで十兵衛がやってきたことだ。

 だが今後を考えるとそれだけではいけない。十兵衛はそう考えていた。


「十兵衛ちゃんは真面目だからね。それに先々の事まで見据えてるんだと思うよ」

「先々?」

「多分十兵衛ちゃんはレオ先輩みたいにレイドを率いる立場になった時にどうすべきかとかをレオ先輩から学んでいるんだよ」

「マジか、そんな先の事を見据えてるのか。くそっ、俺は目の前の事しか考えられてねぇ。十兵衛マジすげぇな」

「そうね、十兵衛くんは凄いわ。そしてそれを理解している梨沙ちゃんも凄いわね」

「そうかな、えへへっ」


 悩む十兵衛の後ろで三人が話しているが、十兵衛は集中するあまりほとんど聞いていなかった。

 だが梨沙ならば十兵衛の考えている事はお見通しだろう。昔からそうだったのだ。どんなに隠そうとしても隠しきれない。幼い頃から一緒に居る二人の絆はそれほどの物となっていた。



 ◇ ◇



「十兵衛くん、ちょっといいか」

「はい、なんでしょう」

「真面目な話なのでドローンはミュートしてくれ」

「わかりました」


 :レオさんと十兵衛くんの真面目な話とか超聞きたい!

 :それな

 :でもミュートするってことはそれだけ大切な話なんだろ。

 :こればっかりはな。プライバシーとかあるし。


 コメントが一気に流れてきたがオフにし、ドローンのカメラも一時的にオフにした。レオも同様の操作をする。だがドローン自体は多く浮いているのでギルドの規約には違反はしない。ドローンを探索者に義務付けたのは相互監視の為であり、犯罪の証拠を握る為でもある。ギルドから依頼されたクエストの中で犯罪をするものがいるとは思えないが、それでもドローンは必須だ。


「なんでしょう、レオ先輩」

「私は十兵衛くんの戦いを幾度も見てきた。特に十階層ボスの戦いと火魔法使い坂崎との戦いだ。圧巻だった。これが次世代のエースだと思った。実際たった一ヶ月で十層ボスを倒してしまった。最澄くんや茜くんも有望な新人で、実際実力もあるが十兵衛くんが居なければまだ低層でウロウロしていただろう。それは十兵衛くんもわかっているね?」


 十兵衛はしっかりと頷いた。


「はい、自覚はしているつもりです」

「スキル・忍術は確かに凄いがそれだけじゃない。十兵衛くんがこれまで培ってきた体術、刀術、投擲術など全て素晴らしい。正直タイマンでは十兵衛くんに勝てる気がしない。今まで見せていない隠し玉もあるんだろう?」

「まぁ、ある。とは言っておきます。でもレオ先輩もあるでしょう」

「そりゃあるさ。だが結果的に負けるのは私だと思う。これだけのレベル差があってもだ。坂崎は強敵だった。だがほぼ無傷で勝った。あんな動きを捕らえる事は私にはできないよ」

「評価して頂きありがとうございます」


 レオは一拍置いて話を続けた。


「だからこそだ。今の若手の中で東京の、いや、日本のエースは十兵衛くんだと思う。今後ギルドから多くの依頼が舞い込むだろう。クランへは参加しないと決めたようだがクランを作るのもありだと思うし、そのギルドからの依頼でリーダーを任せられる事もある。それを念頭に置いておいてくれ。おそらく指名依頼として今後一年以内には来るはずだ。私のこの位置、ゴブリンキング討伐の隊長の位置は来年には十兵衛くんがやることになると思うよ」

「……そうですね。その可能性もあると思ってレオ先輩の振る舞いなどを見せて貰いました」

「ははっ、恥ずかしいな。だが十兵衛くんからの視線は感じていたよ。しっかり見られている。それはわかっていた。ただちゃんと認識しているか知りたかったんだ。認識しているならそれでいい。と、言うか余計なおせっかいだったな。十兵衛くんは先を見据えてちゃんと下準備ができている。後は経験を積み、ダンジョンに潜ってモンスターを倒し、レベルアップするだけだ」

「はいっ、ありがとうございます。レオ先輩」

「いや、そのうち十兵衛くんたちのチーム・暁に抜かれて十兵衛くんの下で働く事もあるかもしれないな。そんな未来も悪くない。頑張ってくれたまえ」


 そう言って手をひらひらとさせ、レオは十兵衛の元を去った。


(そんなに評価されていたのか。嬉しいが少し気恥ずかしいな)


 十兵衛は嬉しさと困惑のないまぜになったような感覚に陥った。



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