041.最澄と茜
「レイドかぁ。初レイドがゴブリンキング。マジきついな」
「そうね。でもチーム・暁の実績を考えれば誘われるのは当たり前だと思うのよね。単純に十兵衛くん一人だけでも誘いたかったんでしょう。如月さんは。多分チーム・暁に断られたら十兵衛くんと梨沙ちゃんだけでもって言われてたと思うわよ」
最澄と茜は大学の学食に席を取り、二人で話していた。大学での昼食は四人で取ることもあれば分かれることもある。それはお互いの都合があるので、都合が合う時は四人でできるだけ取ろうと言う話になっている。
今日は最澄と茜と言う二人の日だ。
だが都合が良い。十兵衛と梨沙には聞かせられない話ができる。
「そうだよな。十兵衛は戦力として。梨沙ちゃんは回復要員として絶対ギルドは欲しいよな」
「中層探索者でも回復魔法持ちは少ないわ。梨沙ちゃん以外にも確保しているでしょうけれど、やっぱり足りていないと言うのは間違いないわね。大量のポーションも用意している筈よ。私の先輩がゴブリンキングレイドをやったことがあるって話を聞いたことがあるんだけれど、レイドはパーティ毎の連携は簡単に取れなくて、思ったよりも大変だったって。あとゴブリンキングは下層に出てくるモンスターだけあって普通にめちゃくちゃ強かったって」
「そうだよな。俺達の実力じゃキングとは戦えないよな」
「でもジェネラルと戦う可能性はあるわ。十一層ではリーダー、アサシンに苦戦している現状でジェネラルと戦うのも避けたいわね」
「十兵衛ならジェネラルやキングくらい倒しちゃいそうだけどな」
最澄の言葉に茜は頷きながら笑った。
「そうね、十兵衛くんならジェネラルだろうがキングだろうが自慢の忍者刀や忍術で倒してしまいそうだと思うわ」
「今回はレオ先輩がリーダーを務めるんだろ。そしてレオ先輩はゴリゴリの前衛だ。多分キングの相手はレオ先輩のチーム・アレクシオンがやる予定なんだろうな」
最澄の予想に茜も頷く。
「それは私もそう思うわ。逆にアレクシオン以上の強いパーティを参加できなかったのね。こういうレイドって警察とか自衛隊のパーティにお願いできないのかしら」
「公的なパーティはもっと危険度が上がってから投入されるってどこかで聞いたことがあるな」
「そうなのね。知らなかったわ。警察や自衛隊のパーティは下層とかまで潜っているから、一パーティでいいから参加して欲しいわよね。探索者とは言え市民の命が賭かっているんですもの」
最澄はうんうんと大きく首を動かした。
「そうだな。だがない袖は振れない。ギルドも悔しいんだろうな。如月さんとか俺たちが参加するって言った時にすげぇ喜んでたもんな」
「如月さんは良い人よね。あの人が専任になってくれたと聞いて私も嬉しいわ」
「と、言うか専任受付嬢がまだ十一層のパーティに付くのがありえねぇよ。でもそのチーム・暁の一員なんだよな。俺。もっと頑張らなきゃな。金の心配は毎週末の探索だけで十分賄えているからぐっと生活は楽になったけどな」
「そういえば最澄くんはお金に困っているんだったわね。良ければ聞かせてくれる?」
「ん? いいぜ。と、言っても大した話じゃねぇよ。幼い頃に父親が蒸発して母子家庭になったんだ。俺は弟がいるからな、弟も大学にいかせてやりたい。そしてこれまで育ててくれた母に恩返しがしたい。其の為に命賭けて探索者をやってるんだ。母親にはめちゃくちゃ反対されたけどな」
最澄の告白を受け、茜は柔らかに微笑んだ。
「いい話ね。でもダンジョン探索者になるのを止めるお母様の気持ちもわかるわ。だって自分の子どもが命を落とすかも知れない世界に飛び込むって言うのよ。しかも高校生で。そりゃ止めるわよね」
「吹っ切ってダンジョン探索者になったけどな。金を稼いで親を楽させてやりたいって思いが強かったからな。だが所詮高校生の浅知恵でそんな稼げなかった」
「私も一年やったけれどそんな稼いでなかったわよ」
茜も一年間探索者をやっていたが低層をうろうろしていただけだ。結局パーティは解散になってしまったが、比較的有望なメンバーが集まった良いパーティだったと思う。それでも一年掛けて低層を抜けられていない。
たった数回のダンジョンアタックだけで低層を攻略しきってしまうチーム・暁がおかしいのだ。なにせまだチーム・暁は結成されて一月しか経っていない。それなのに十一階層を主戦場とし、十階層のボスも倒している。
ダンジョン配信の投げ銭は数十万が当たり前の世界になっている。この前の十兵衛の配信の分前を貰ったが、分前だけで五十万を超えていた。つまり投げ銭だけで二百万を超えているのだ。文字通り桁が違うと思った。
「チーム・暁はなー。めちゃいいパーティだしめっちゃ稼げるからいいんだけど、十兵衛の要求高いんだよな。立ち位置とか構え方とか教わったけど、マジスパルタ」
「あぁ、私も十兵衛くんを道場に呼んで稽古付けて貰ったことがあるのよ」
「マジで? 詳しく聞きたい」
「いいわよ。と、言うか門下生は全員十兵衛くんにひれ伏したわ。そしてお父様、師範も十兵衛くんに敵わなかった。私も免許皆伝ではあって、師範代をやっているけれどお父様には敵わないの。それをあっと言う間に忍者刀の模造刀をお父様の首に突きつけたわ。そして私の良いところ、悪いところ。こんな時はこう動く癖がある、こういう状況ではこういう状況判断をしがちだ。なんて凄く細かく修正すべき点を教えてくれるの。正直目から鱗どころじゃなかったわね。十代で師範代になるだけでも本当は凄いことなのよ。でも十兵衛くんを見ちゃったら……ねぇ?」
茜の言葉は最後に弱くなっていく。最澄はしっかりと茜の話を聞いていた。
「いや、わかる。十兵衛見てると違う世界の住人なんじゃないかって思う時があるからな。でも下層や深層を潜っている探索者は十兵衛みたいな奴なんだろうなとも思う。そしてそういう奴等は日本だけじゃなく世界中に何百人といるんだ。上は高いよな」
「えぇ、中層探索者なんて腐るほどいるわ。むしろボリュームゾーンとしては一番多いくらいね。二十層ボスの死亡率って凄い高いの知ってる?」
「あぁ、オーガリーダーが出てくる奴だろ。攻撃力も耐久力も半端ないってやつ」
茜は一口アイスティーを口にしてから話を続けた。
「そう、オーガと戦ったことのない中層探索者がオーガといきなり鉢合わせる。それが二十層のボス部屋なのよね。でも中層で探索していれば十分にプロとして稼いで、更に貯蓄までできるの。だから中層で諦める探索者は多いのよね。プロ探索者として上を目指さず、中層を攻略することだけを目的に生きているのよね」
「それも辛いよな。レベルアップして挑戦しようとか思わないのかな」
「そこはわかんないわね。でもボリュームゾーンとして中層探索者が多いのは事実よね。低層探索者は毎年入って来るけれど、やっぱり死亡率が高いのよね。前如月さんが頭抱えてたわ」
最澄はお茶を飲んでせんべいをバリッと砕いた。
「俺たちも二度も探索者から襲われたからな。もちろん梨沙ちゃんの装備が見るからに高級だからってのもあるだろうけれど、普通の低層探索者も狙われて行方不明って結構いるもんな」
「そうね、坂崎の時なんて完全な快楽殺人だったじゃない。あれは無差別よね。でも私たちのことを知っていたから動画で九層を探索していることを知っていたのね。多分待ち伏せされていたんだと思うわよ」
「マジかー。人気者になるのも本当考えものだな」
「でもそれも含めて上位の探索者だもの。上位の探索者はやっぱりチャンネル登録者百万人は超えているし、それだけアンチも多いわ。こればかりは有名税として諦めるしかないわよね」
「うしっ、気合い入れるか。次はゴブリンキングレイドだからな。茜さん、宜しく頼むぜ」
「こちらこそ。最澄くん、宜しくね」
丁度次の授業の時間だ。最澄と茜は二人で握手をし、手を振ってお互いの授業の校舎に分かれて行った。




