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036.ランチと相談

「こんにちは、レオ先輩」

「あぁ、先日ぶりだな。と、言っても配信は見ていたからそれほど久しぶりと言う感じはしないがな」


 レオはやはり颯爽とした姿で待っていた。強者のオーラが立ち上っている。だがそのレオですら十七階層で躓いているのだ。探索者界隈は奥が深い。いや、レオは確かこのGWで十七階層を超えたのだったか。


 十階層代で危険とされるのが十七階層だ。魔の八階層と同じでインセクト系モンスターが現れ、更に植物型モンスターも跋扈する魔境である。

 十五階層までは洞窟型、十六階層からはフィールド型なのだが、八階層、九階層、十階層とフィールド型を経験した十兵衛から言わせればやはり洞窟型の方が戦いやすい。


 相手が来る方向がわかるし、不意打ちをされる可能性も少ない。むしろ先に察知していれば不意打ちに忍術や手裏剣を撃ち込む事ができる。

 だがフィールド型の階層は三百六十度全て警戒しなければならない。

 軍団と戦っている最中に横から、もしくは後ろから別の集団が襲い掛かってくる事すらあるのだ。

 十兵衛たちはまだ低階層だったが、中層、下層となる毎にその傾向は強まっているらしい。


「レオ先輩、いいパーティを紹介してくれてありがとうございます」

「ありがとうございます」

「いえいえ、気にしなくていいのよ。活躍しているみたいで何よりだわ。と、言うか十兵衛くんの実力だけは測りきれなくて困っているくらいなんだけどね。凄いバズっているわよね、貴方達」


 最澄と茜がレオに挨拶をすると、レオは十兵衛をしっかり見据えて言った。


「そうですね、こんなにたくさんの視聴者が付くとは考えていませんでした。低階層攻略だったんで普通じゃないのはわかります」

「十階層以下で百万人登録とか普通は有り得ないわよ。むしろ下層探索者とかそういうレベルね。私でも四十万人だもの」


 十兵衛が答えるとレオは十兵衛たちがどれだけ非常識なのか教えてくれた。

 池袋駅から歩きながら喋り、十分くらい。ランチタイムは十一時半かららしいのだが、既に人が並んでいる。だが人数的に満席になって入れないと言う事はなさそうだ。


「クランの話は食べた後でゆっくり話しましょう。まずは美味しいご飯を楽しみましょう。あと十階層のボス攻略おめでとう。一パーティで、更に最短討伐記録とか見ていて唖然としたわよ。十兵衛くんと梨沙ちゃんが居ればうちのパーティももっと到達階層を伸ばせると思ったもの」


 そこには純粋に、最澄と茜はまだその域に到達してないと言う事を示唆していた。だが最澄も茜も十七階層を突破したB級探索者であるレオと肩を並べられるとは思っていない。

 もっと経験を積み、連携をしっかり磨き、十兵衛や梨沙に負けないように探索をしてレベルアップを重ねる。そうすればレオたちチーム・アレクシオンに追いつくこともできるだろうと最澄や茜も思っていた。それだけ十兵衛の存在と言うのはチーム・暁に取って大きいし、むしろいなければこんなスピードで攻略するなど有り得ないのだ。


 そうこう話しているうちに店が開店し、ゾロゾロと人が入っていく。そこはロールキャベツが美味しい店でみんなロールキャベツを頼んでいる。十兵衛たちもロールキャベツのランチセットを頼んだ。


「美味しい!」

「あぁ、美味しいな」


 梨沙が一口食べて叫び、十兵衛は静かに呟いた。他の面々もホクホクだ。

 当然良く通っていると言うレオは「この味がいいんだよ」と言っている。

 二十分くらい雑談しながら食事を済ませ、そそくさと店を出る。なぜならば人気店で並んでいる人たちがいるのだ。

 故に並んでいるお客さんの為に席をあけなければならない。ゆっくりと会話して席を占有するのは良くないのだ。


「あっちに静かな個室があるカフェがある。そっちで話そう」

「は~い」

「レオ先輩は色々知っていて大人だなって感じるな」

「ははっ、ただちょっと君たちより多くの店に行っているだけだ。梨沙ちゃんなどもっと良い店を知っている筈だぞ。ただし相応の値段はするがな」


 最澄がレオの店のチョイスは既に最初のランチで心を鷲掴みされたらしく、色々と美味しくて安い店を聞いている。最澄としては大事な情報源だ。十兵衛も一応梨沙と行ってみようと思い、心の中に紹介された店の情報を叩き込んだ。



 ◇ ◇



「それで、クランの勧誘が凄いんだって?」

「そうですね。たくさん来てます。超有名クランや大手クランから聞いた事ないクランまで数十は来てますね」

「そんな来てたのか。そこまでは聞いてなかったな」


 最澄が梨沙の言葉に驚いた。


「でも十兵衛くんや梨沙ちゃんを欲しいってクランやパーティは幾らでも居ると思うわよ。と、言うか治癒魔法持ちってだけでどこのクランもパーティも欲しいでしょ。私たちも凄く助かっているもの」

「そうだな。梨沙ちゃんの治癒魔法には俺が一番お世話になっているからな。むしろ十兵衛はほぼ無傷で十層まで攻略しているから凄いよな」

「いや、坂崎と戦った時は怪我は負っていないが籠手で受けたりしたし、火炎竜巻の中に飛び込んだりしたから火傷したぞ」

「いや、普通は火炎竜巻に巻かれたら炭になるんだって。あと坂崎はB級探索者だったらしいじゃないか。格上にちょっと火傷しただけで勝てるってのがまずありえねぇ。レベル差どんだけあるんだよって話だ」


 十兵衛は言い訳を言ったが、最澄には響かなかったようだ。それほどレベル差と言うのは残酷だ。

 レベルが上がった探索者の犯罪が多いのもそのせいであり、警察官や自衛隊がダンジョンに潜っているのもその理由が強い。


 単純に言えば一般人などデコピンで殺してしまえる人間がゴロゴロ世界中にいるのだ。そして凶器を持っていないし、普通はレベル差などはわからない。

 十兵衛のように気配でわかれば別だし、やはりレベル差が大きいと威圧感などはあるらしいが、つまりそれは威圧感のみで一般人を制圧できてしまうと言う証左である。


 其の為に警察にも自衛隊にもダンジョンに潜るチームは多く居るし、ダンジョンでレベルアップした者たちだけで組んだ特殊部隊スペシャルフォースは自衛隊にも警察にも存在する。

 日本には八つのダンジョンがあるが、どこのダンジョン周辺にも常に特殊部隊が出動できる体制が取られているのだ。


「クランは正直良し悪しね。良いところに入ったらやっぱり手厚くダンジョンアタックのサポートもしてくれるし、装備やポーションなど優遇してくれるわ。スキルオーブが安く買えたりもするしね。でも梨沙ちゃんたちにはそれは必要ないんじゃないかしら、とも思うのよね」

「そうですね。スキルオーブが欲しければオークションで落とせばいいだけですし、装備やポーションも十分北条家から貰ってます」


 レオの意見は一般的な意見だ。そして一般的でないチーム・暁にはメリットが少ない。実際北条家と言うバックがあるだけでつよつよなのだ。


「それにクランは上意下達が基本なのよね。例えば四人で入っても、誰か新しいパーティメンバーを強制的に加入させられたり、最悪パーティを解散させて四人が別パーティになることもあるわ。それは断れないことがあるわね」


 レオがそう言った瞬間、チーム・暁のメンバーは渋面になった。


「それはイヤだな」

「イヤだ」

「イヤですね」

「イヤで~す! このメンバーで攻略したい!」


 四人の意見が揃ったところでレオは笑った。


「なら無理にクランに入る事はないんじゃないかしら。私もクラン勧誘あったけれど全部誠実にお断りしたわ」

「じゃぁそうします」


 梨沙は即答した。梨沙は上流階級の世界の人間なのでそういうのは得意だ。しっかりと意思表示して、全て断ってくれるだろう。

 後は配信でクランの勧誘はお断りします、と全員のアカウントに書いておけば良いだけだ。


「ふふっ、まぁそうなると思っていたわ。あの戦いを見ればクランに入る必要なんてないもの」

「そっか~、やっぱりそうなんですね~」


 レオはクスリと笑い、梨沙は美味しそうにコーヒーを飲みながら相槌を打った。


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