035.デートとクランへの勧誘対策
「今日は良い天気だな」
「ね~。デート日和」
「デートだったのか」
「あのね、十兵衛ちゃん。男の子と女の子が二人で出掛けたらそれはデートなんだよ!」
ビシッと梨沙が人差し指を立てて、十兵衛の顔の前に腕を伸ばす。
「だが護衛がいっぱいいるじゃないか。俺は気配を感じるから二人きり感はないぞ」
「も~。十兵衛ちゃんは女心がわかってないなぁ。いないように振る舞ってる護衛は居ない物だと思えば良いんだよ。だから二人きり、で、デート。ね?」
「わかった。デートデート」
「むぅ。軽い」
梨沙は不満そうだが十兵衛の腕に絡んできた。夏だと暑いのでイヤだがまだ四月が終わる時期だ。
「それよりそのワンピースとカーディガン可愛いな」
「でしょ! 結構安いのに生地も縫製もいいの。個人アパレルなんだけど凄いいいと思って買ったんだよね~。ってか褒めてくれてありがとね」
「あぁ、まぁ普通にいいと思ったけどな。お嬢さまモードの梨沙はアレはアレで綺麗だけどな」
(綺麗とか……そういうとこだよ、十兵衛ちゃん。誰にでも言っちゃダメなんだからね)
十兵衛と梨沙は十階層ボスの攻略が終わったので探索は三日間休みにすることにし、梨沙の我儘で十兵衛は買い物に連れ出された。
梨沙は白に水色のグラデーションが入ったワンピースを着ていて、スカートの方が水色が近い。それに合わせてなのか淡いオレンジのカーディガンを羽織っていて、更に白い日傘を差している。
どこからどう見ても深窓の令嬢である。ただ梨沙が安いと言ったのだから何十万もするような服ではないのだろう。
仕立てや生地は良いので何万かはするだろうが……。
「それより十兵衛ちゃんはあんま普段服変わんないよね」
「むしろ気に入った服は終売になる前に何着も買って着回してるな」
「だから似たような感じなのが多いんだ! そうだ、今日は十兵衛ちゃんの服を買いに行こうよ」
「え、俺は服十分持ってるぞ。フォーマルもセミフォーマルもお館様に作って貰ったし、普段着はクローゼットいっぱいにあるぞ?」
「うん、でもあたしが十兵衛ちゃんの普段とは違うスタイルの服がみたいの」
こういい出したら梨沙は止まらない。こればかりは仕方ないと十兵衛は梨沙の提案に頷き、途中でカフェに寄ったりしながら十兵衛に似合うと梨沙が思う服を着せ替え人形にされ、三着ほど買うことになった。
前回のダンジョンアタックで相当稼いだので服くらいは多少高いのを買っても問題ない。更に梨沙はやはりセンスが良いので、十兵衛が普段着ない系の服でもしっかりコーディネートしてくれる。
「これが俺か?」
「ね、十兵衛ちゃんこういうのも似合うでしょ」
鏡を見ながらなんだか軽薄そうだなと思いながらも、似合っている自分がいる。なんというかオシャレ系大学生と言う感じだ。
「まぁ梨沙が選んだんだから偶にはこれ着てデートしてやるよ」
「わ~い、やった~!」
「まぁ俺は服にそれほどこだわりないけどな」
「ううん、そんなことないよ」
十兵衛は自分は服にあまりこだわりがないと思っていたのでそのまま発言したのだが、梨沙から見たらそうではないらしい。
「十兵衛ちゃんはミリタリー系とか好きでいっぱい持ってるじゃん。むしろそれがこだわりだよ!」
「なるほど」
梨沙の発言には説得力があった。確かにそういう意味では量産型の服ではなく、こだわって服を選んで買っている。
動きやすさはもちろん、丈夫さなども含めてミリタリー系の服を良く着るのだ。実際今十兵衛が羽織っているジャケットも某国空軍のジャケットである。下はTシャツだが暑くもなく、ちょうど良い感じだ。ちなみにパンツはブラックデニムを選んでいて、それに茶色のブーツを合わせている。
「そういえば十兵衛ちゃん。クランからの誘いが凄い来てるんだけど、どうしようか」
「あ~、その問題があったな。どうしようかな。メリットもデメリットもあるからなんとも言えないんだよな」
「そうなんだよね~。レオ先輩とかに聞いてみようか」
「それもありかもな。今度大学で聞いてみようぜ」
「ううん、連絡して時間取って貰おう。GW開けるまで待たせるのは不誠実だよ」
「そ、そうか」
梨沙は上流階級に居るだけあってそういうところはしっかりとしている。
クランへの誘いは本来は有り難いのだが、十兵衛の忍術と梨沙の治癒魔法目当てなのは明白なので、正直あまり気は進まない。
むしろそれに見合うだけのメリットを提示して欲しいと思う。そして金銭はチーム・暁だけで十分稼げてしまうので、正直そこに魅力は感じない。装備も北条ダンジョンギアで選べば安く良い物を買えるので問題がないのだ。
「そう考えるとメリット少ないな」
「そうだね。レイドとか組みやすいってのはあるかも知れないけどね」
そんな話をしながら、十兵衛と梨沙は新宿の街を練り歩いていた。
◇ ◇
「梨沙か、なんだ?」
「あ、十兵衛ちゃん。レオ先輩は明後日なら良いって。相談に乗ってくれるって」
「そうか。クランの話は最澄や茜とも話し合ったほうがいいよな」
「うん、もちろん二人にもクランの誘いが来ているからその話を聞くためにレオ先輩と話すって言ったら同席してくれることになったよ」
「流石梨沙だな」
梨沙は行動力が高い。仕事を始めると即座に終わらせるタイプだ。きちんと連絡なども抜けがなく、報連相がしっかりしているので護衛対象として護衛しやすくて良い。
当然幼い頃から北条家で躾けられているから、と言うのがあるが、やはりこういうところは普段抜けているように見えてもしっかりしているなと十兵衛は感心した。
「明後日のお昼ごはんを一緒に食べながら話そうだって。いいお店知っているからそこで食べようってお誘い受けたよ」
「レオ先輩には頭が上がらないな」
「うん。って訳で、その日は池袋駅集合ね。時間は十一時。ちょっと早めに行かないと並ぶんだって。ランチ人気な店なんだって言ってたよ」
「なるほど。わかった」
最澄や茜も時間に遅れる性格ではないことは既にわかっている。故に問題はないだろう。十兵衛も梨沙も十分前行動が染み付いているので、十時五十分を目安に着くようにすれば問題ない。
「あ、十兵衛ちゃんには迎えの車出るから、もう少し早くなるよ」
「あぁ、本家から車が出るのか。そうだよな。じゃぁ一緒させてもらうよ」
「うん、迎えに行くね!」
電車を使うつもりだったが十兵衛にも迎えの車が来るらしい。東京は車がなくても問題はないと言うか、車の量が多いので渋滞にハマったりするのだが、北条家の運転手はその辺の機微がしっかりしているので遅れた事がない。スーパー運転手なのだ。
どの業界でもプロと言うのは凄い、と言うのが十兵衛の認識だ。
農家でも運転手でも……そして護衛でも。
「それでさ~、十兵衛ちゃん。今日買って貰った可愛いアクセあるじゃん?」
「買って貰ったって言うか買えって視線でおねだりしていただろうが!」
「えへへっ、だって可愛かったんだも~ん」
「自分で買えただろう」
そう言うと少し梨沙は黙った。
「十兵衛ちゃんに買って貰うのがいいんだよ。大切にするね」
そう言われると十兵衛が一瞬黙った。
(くそっ、可愛いな。俺も梨沙には大概甘いよな)
アクセサリーの金額は大した事はない。高級ブランドではなく雑貨店に並んでいたアクセサリーだったからだ。梨沙はもっと高級の、ハイブランドのアクセサリーを幾らでも持っている。
だがそういうのは社交界などのパーティ用で大学生が普段使いするものではない。
なにせアクセだけで数百万とか余裕で超えるのだ。それに時計などとドレスなどを足せば歩く金庫みたいな物である。狙ってくださいと言わんばかりだ。
十兵衛も三百万の時計を持っている。シンプルな時計で気に入っているが、フォーマルな場面でしか使わない。スーツもそうだ。
梨沙の社交界にパートナーとして連れて行かれる事がたまにあるが、その時の為のフォーマルスーツはしっかりしたテーラーで仕立てて貰った物だ。
「まぁ気に入って貰ったなら良かったよ」
「うん、大学に着けてくね! じゃぁ今日はお休み」
「おやすみ、良い夢を」
「は~い、良い夢を」
そう言って十兵衛は梨沙との通話を切った。嵐のようだったが重要な話も紛れていたので大事な電話だ。
「明後日か。有意義な話が聞けると良いな」
十兵衛は窓を開け、暗い空の中にぽつんと浮かぶ月を見ながら呟いた。




