033.C級ライセンス昇格
「お帰りなさいませ、チーム・暁のみなさん」
「ただいまです。如月さん」
「えぇ、無事で良かったです。と、言うかコメントでも言われていましたが十層ボス部屋の討伐記録も更新されましたよ」
如月さんは笑顔で十一階層の転移球に登録してきた十兵衛たちを出迎えてくれた。そして衝撃的な発言をする。
「十層ボスで〈再生〉のスキルオーブが出た記録はありません。おそらく討伐スピードが関わっているのでしょう。予測でしかありませんが、それだけの偉業を達成したのです。それでなんですが、チーム・暁の皆さんは全員C級への昇格が決まりました」
「え、いきなりC級ですか。俺とかE級でしたよね」
「そうです。いきなりC級です。理由は単純に実力が飛び抜けているからです。B級でも良いと言う意見もあったくらいですが、流石に十層攻略時点でB級は早すぎると言う意見もあり、C級に落ち着きました。ライセンスを出してください。更新手続きをさせていただきます」
「あ、はい。宜しくお願いします」
如月は四人のライセンスを受け取ると更新手続きに入った。その間に今までのドロップの売却手続きをすることにする。
なにせ六層から十層までの魔石とドロップ、そして十層のボス部屋のドロップが全部あるのだ。〈再生〉のスキルオーブは使ってしまった。ちなみに殺人鬼、坂崎の装備も売ることにしている。
坂崎が持っていたスキルオーブは三つ。〈剣術〉〈槍術〉〈火魔法〉だ。そのうち火魔法は攻撃力の足らない最澄が覚えるのが良いのではないかとパーティの中で話し合っている。
〈剣術〉と〈槍術〉を売るだけでおそらく六から七千万円くらいになるのだ。魔法系スキルオーブはもっと高いが、火魔法は攻撃力が高いので結構人気だ。
だが使いやすさとしてはフレンドリーファイアがあるので風魔法の方が人気が高い。火魔法の上位魔法は範囲魔法が多く、それはモンスターには確かに有効だが仲間を巻き込む危険性もはらんでいる。
風魔法にももちろん範囲魔法はあるが、対個の魔法が多いので風魔法は人気であるし、補給で水を出せると言う意味では水魔法も人気だ。だが水魔法は氷魔法にまで昇華しないと攻撃力が少ない。それだけ熟練度を稼がないと補給要員になってしまうので上級者向けと言える。
案外使いやすいのが土魔法だ。〈石弾〉などは質量も持っているので防がれても相手の動きを止める事ができる。更に上級者になると質量兵器のような使い方ができる。だがどの魔法も基本は中層の後半、もしくは下層まで行かないとドロップしない。
火魔法を得られただけで僥倖なのだ。
「マジで俺が使っていいのか」
「いや、パーティのレベルを上げる為には最澄が使うのが一番だろ」
「そうね、私や十兵衛くんよりも最澄くんが使うべきだわ」
「私は結界魔法もあるし要らないかな~」
そういう訳で最澄が火魔法のスキルオーブを使う事になった。火魔法のスキルオーブも億単位なので最澄は気後れしていたが、その分きちんと働いてくれれば良いと十兵衛が言うと納得して使ってくれた。だがかなり冷や汗をかきながら使っていたが。
「火魔法は折を見て練習しておいてくれ。間違ってもフレンドリーファイヤにならないようにしてくれよな」
「もちろん、ちゃんと火魔法使いの探索者が使い方講座をしている動画があるから、それを見て練習するぜ」
十階層ボス、オークたちと戦う時に火魔法のスキルオーブを使わせなかった理由がこれだ。
魔法は覚えたてで即座に使いこなせる訳ではない。きちんと練習し、狙いを付けたところに百%の精度で当てられなければ怖くて使えない。
もちろん十兵衛と茜が離れており、至近距離で使う分には構わないが、それでもやはり怖い。モンスターが火魔法を避けて、それが十兵衛などに飛んでくる可能性があるからだ。
十兵衛はともかく茜は戦いの最中にファイアーボールなどが飛んできたら大怪我をしてしまう可能性がある。パーティメンバーに怪我をさせてしまう可能性は潰しておくべきだと言う事で保留にしていたが、全員の同意を得て最澄が火魔法持ちになることになった。
もちろん最澄には盾職としての役割はしっかり熟してもらうし、今まで通り短槍での戦いもして貰うが、火魔法を使えると言うだけで最澄の役割や重要度がかなり上がる。十兵衛は火魔法のスキルオーブを手に入れた時最澄に使わせようと思っていたが、茜や梨沙が同意してくれて良かったと思った。
「チーム・暁の皆さん。更新が終わりました」
「あ、如月さん。ありがとうございます」
「いえいえ、これが私の仕事ですので。それで、B級探索者坂崎の討伐報酬も出ています。初心者狩りとしてかなりの余罪があったようで、賞金が一千万円振り込まれることになりました」
「一千万ですか?」
「人の命に値段など付けられません。むしろ罪に対して賞金が安すぎると思うくらいですよ。一億でもいいと思っています。でも協会としては一千万しか出すことができません。その点は申し訳なく思っております」
如月は頭を下げるが、十兵衛は火の粉を振り払ったに過ぎない。
だがこれでパーティ資金が四千万円くらい余剰が出る事になる。
「よし、最澄。鎧と盾を更新しよう。茜も買いたい薙刀とか剣があったら買ってくれ。予算は四千万円だ。もちろん足が出たら分前から自分で出して貰うが、装備の更新は十一階層以降を潜るのには必須だと思う。宜しく頼む」
「お、おう」
「わかったわ」
「良かったら北条ダンジョンギアを使ってね。私に言ってくれれば割引してくれるよ」
そう言うと最澄は笑った。
「ちょうど北条ダンジョンギアが出している鎧が欲しいと思ってたんだ。かなり高いから割り引いてくれるなら普通に助かる。あと盾もやっぱりこれじゃダメか」
「ダメじゃないけれど先を見据えたら一千万くらいの盾を持っておいた方がいいんじゃないか?」
「やっぱりそうだよな」
「私は薙刀と太刀を買いたいわ。もちろん足が出た分は自前で払うけれど」
「あぁ、俺たちは装備の更新は要らないから、二人で二千万ずつくらいで考えておいてくれ」
「二千万、マジ有り得ない金額なんだが」
「そうね。私の家はそれなりに裕福だけれど二千万円ポンと出せるかと言うと微妙だわ」
「まぁ一緒に探索して稼いだ金だけどな。坂崎の件は不幸な事故だったが、その分稼げたと思えば良いエンカウントだった。坂崎を放置していたら九層のパーティがもっと被害が出ていたかも知れないんだ。倒せてよかった」
十兵衛がそう言うと最澄がじっと見てきた。
「なんだ?」
「ってか今回の稼ぎ、殆ど十兵衛の稼ぎなんだよな。いいのか、頭割りで」
「報酬は頭割りが基本だろう? そこで俺が稼いだんだから俺の物だって言ったらパーティが分裂するだろう。そんな細かい事でパーティ解散とかやってられないぞ?」
「確かにそうね。頭割りにすべしってのは過去の探索者パーティも言っているから素直に受け取って良いと思うわよ」
最澄の目線に対し、茜も十兵衛に賛同してくれる。
「とりあえずまぁ、そんな気にするな。確かに二千万は大金だが命には変えられないだろう? 自分たちの安全に先行投資すると考えればそんな高い値段じゃない。もっと先を目指すんだろう? チーム・暁は」
「そうだな。もっと先を目指すんなら二千万とか普通に稼げる職業なんだよな、探索者って」
「そうよ。もっと目標は高く持ちましょう、最澄」
「そうだよ~、むしろ日本の最高到達階層まで行っちゃうくらいでいいんだよ!」
「それは言い過ぎだろ」
十兵衛は梨沙の言いように苦笑した。
「あ、お迎えだ。じゃぁまたね。茜さん、最澄くん」
「あぁ、おつかれ、二人とも。今日はありがとうな」
「えぇ、お疲れ様。また次の探索で一緒しましょう。もしくは大学で会いましょう」
そう言って十兵衛と梨沙、最澄と茜は別れた。
◇ ◇
「十兵衛ちゃん」
「ん、なんだ? 梨沙」
「あたしの我儘に付き合って貰っちゃってごめんね」
「今更なんだ。梨沙が我儘なのは昔からじゃないか」
梨沙がぷくっと膨れ、ぽかぽかと十兵衛の肩を車の中で叩いてくる。
「ひど~い、そんな我儘じゃないもん」
「まぁ俺は慣れてるってことだよ。探索者になるっていうのもちゃんと考えてなるって決めたんだろ。もちろん治癒魔法や結界魔法のプリマヴェーラだって言うのも有ると思うが、それでも梨沙が決めた事だ。その決定に俺は従うよ。北条や風間の家が命じなくても俺は梨沙が探索者になるって言ったら一緒したと思うぞ」
「もうっ、十兵衛ちゃんそういうとこだよ」
「どういうとこだよ?」
(さりげに格好いいこと言うんだから。十兵衛ちゃんたら昔からそうなんだよね、もう)
十兵衛には梨沙の呟きは聞こえなかった。




