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003.探索者の先輩

「この人が日向レオ先輩。あたしのジョブとスキルを知って探索者になるべきだって勧めてくれたの」

「おう、アタシは日向レオだ。レオでいいぜ。悪いな、まるで悪の道に引きずり込んだみたいな目で見ないでくれよ」


 十兵衛は梨沙に大学でレオを紹介された。

 日向レオ。B級冒険者で大剣使いとして有名だ。175cmの十兵衛とそう背は変わらない。かなり大柄な、だが金髪の美人の女性だ。筋肉がしっかりとついているのがわかる。髪はざんばらに、ただし腰まであってかなり迫力のある美人と言う感じだった。


「いえ、梨沙がやりたいって決めたのは本人なので気にしてないですけど」

「いや、余計な助言しやがってって顔に書いてあるぞ」

「そうですか?」


 十兵衛は頬をぐにぐにと両手で揉んでみた。忍者として顔色だけで心を読まれるのは失格だ。十兵衛の隠密が甘いのか、それともレオの心を見抜く目が鋭いのかはわからない。


「レオさんの事は知っています。と、言うか一応調べさせて貰いました。チーム・アクレシオンに入っている前衛アタッカーですよね。最高到達階層は十六階層。探索動画を見ても動きが滑らかで十分に通用しているとおもいます」

「お、嬉しいねぇ。だがなぁ、十六階層では通用するんだが十七階層はかなりきついんだ。新人を入れるにもそこまで付いて来られる実力者はそう居ない。もしくは居ても既に有名なパーティに入ってしまっていて引き抜きはできない。稼ぎとしては十分なんだが私としてはもっと先に進みたいんだ。中堅冒険者で終わりたくないんだよ、上級冒険者として二十階層を突破してA級になりたいって夢があるんだ」


 レオは十兵衛の言葉に喜んだがその後苦い表情をした。

 動画を見る限り十分な実力があると見たが、それでも中層後半はきついのだろう。まだぺーぺーな十兵衛たちには関係のない話だがいつかはそこまで辿り着くかも知れない。先輩の実体験を聞けるチャンスと言うのはそうそうない。


 しかも二十歳でB級冒険者と言うのは相当上澄みだ。パーティメンバーはもう少し年齢が上のようだがそれでも二十代前半だ。まだまだこれからと言う感じである。


「梨沙ちゃんもな、うちに入ってくれればいいんだが流石に探索者なりたてのヤツをうちに入れても付いてこれねぇ。回復役は貴重だからな、本当はうちに欲しいんだ。逆に十兵衛くんは梨沙ちゃんと一緒に潜るんだろう? 回復役は狙われるぞ。気をつけろよ」

「肝に命じます」


 レオは十兵衛に厳しい表情で助言をくれた。実際プリマヴェーラで回復魔法が使える人間は相当レアだ。

 そして回復魔法のスキルオーブは中層で極稀に、下層でも稀にと言うくらいにはレア度が高い。値段も軽く十億円を超えて取引される。そんなレベルだ。そんな回復魔法と、更に結界魔法を持つ梨沙はどのパーティ、クラン、企業から狙われてもおかしくはない。


 ただ梨沙は北条グループ総裁の娘と言う肩書がある。北条グループに敵対しようと言う企業はそうそうないだろう。そこだけは安心できる要素であるし、実際に大学の送迎などは風間の家の忍者が護衛としてついている。家の中にも当然護衛はいる。


 だがダンジョンの中はどうか。本来北条氏康様は護衛部隊をしっかり付けて探索者の許可を出すつもりだったと聞いた。

 だが梨沙はそれを跳ね除けた。レオに紹介されたメンバーで探索したいと言い張ったのだ。それで矛先は十兵衛に向いた。同じプリマヴェーラで忍術持ち。ダンジョン内の護衛としても良いだろう。


 それにダンジョンは人数が多いほど敵の数も多くなると言う性質がある。

 故にクランなどでも五から六人くらいでパーティを組むのが普通で、ボスを倒す時にレイドなどを組む事はあるが、十人二十人と言った大型パーティはかなり少ない。


「も~、みんな心配しすぎだよ! あたしも戦えるんだからね!」

「確かに梨沙は普通の女の子よりも戦える方だとは思うけれど、だからと言ってダンジョンで無双できる訳じゃない。攻撃系魔法も持ってないだろう。いずれ攻撃魔法のスキルオーブが手に入ったら梨沙に使って貰おうと思うけれど、それは随分先になる筈だ。それまでは後衛としてしっかりとみんなを支えて欲しいと思う」


 梨沙はむんと力こぶを作る動作をするが、十兵衛はしっかりと釘を刺した。


「むぅ、十兵衛は固いんだから!」

「過保護だねぇ」

「そうですかね。梨沙に大怪我とかしてほしくないのでこのくらいは普通じゃないですかね」


 レオが呆れたように言う。だが十兵衛は梨沙の護衛役なのだ。梨沙に傷一つ付けただけで護衛役失格だ。過保護なくらいでちょうど良い。そう思う。


「むぅ、ほんと過保護だよね。十兵衛ちゃんは昔はそんなことなかったのにな」

「いつの話しているんだいつの」


 梨沙の軽口に十兵衛は呆れたように返した。十兵衛ちゃんなどと呼ばれたのはいつぶりだろう。多分小学生低学年とかその時くらいだと思う。その頃は護衛役とか主筋とか何も考えずに純粋に幼馴染として「梨沙ちゃん」「十兵衛ちゃん」とお互いを呼びながら屋敷の中で遊んでいた物だ。

 風間家は忍者屋敷だけあって色々抜け道があったり、からくりがある。それを楽しんで梨沙と一緒に探検した思い出が蘇る。


「まぁいいや。二人は仲が良さそうだし立ち姿だけで風間くんの実力は伺える。これなら梨沙ちゃんが探索者になっても大丈夫だろう。少なくとも私はそう思うね。頑張れ若人よ」


 レオは笑いながら言う。


「若人って二つしか違わないじゃないですか」

「いや、だが最初の一年で探索者って言うのはかなり脱落するんだ。モンスターを倒す感触に馴染めなかったり、ポーションで治せるとは言え大きな怪我をしたトラウマとかで探索者を辞めて行く奴らも多いんだよ。梨沙ちゃんと風間くんなら大丈夫。少なくとも私はそう思ったよ」

「ありがとうございます。頑張ります」

「あぁ、頑張れ」


 バンバンとレオに十兵衛は背中を叩かれた。力が強いので普通に痛い。レオは笑いながら十兵衛と梨沙に別れの言葉を言って離れて言った。


「凄い人だね」

「うん、実際実力も凄いし、注目されてる人なんだよ。アレクシオンも注目のパーティだしね。レオ先輩も戦い方が豪快で美人だからファンも多いみたい」

「そっか。いい先輩なんだな」

「うんっ」


 梨沙は花が咲くような笑顔で頷いた。


「さて、じゃぁ後二人のパーティメンバーってのも紹介して貰わないとな。どんな人柄で、且つどのくらい戦えるのを知らないと連携も取れない」

「うん、そっちは今日の夜に顔合わせする予定だよ。十兵衛もあんまり突っかからないでね。二人とも良い人だよ」

「まぁ梨沙の言う言葉を信じない訳じゃないけれど、やっぱり警戒するな」

「もう、そんな人たちじゃないってば!」


 十兵衛と梨沙は笑いながら歩き、次の授業にお互い向かう。同じ大学ではあるが、学科が違うので当然取っている講義も違うのだ。


 その日の夜。顔合わせが行われた。


「風間十兵衛です。忍者のジョブを持ってます。忍術が使えます。宜しくお願いします」

「は? 忍者? マジで?」

「忍術とか聞いたことないんだけど本当?」


 最初に挨拶をした瞬間、最澄と茜に呆気にとられた顔で十兵衛は見つめられた。茜ももともと大きくぱっちりした目が口と一緒に開いている。


(自己紹介の仕方間違えたかな? でもこれから一緒に戦って行くんだからジョブと忍術が使える事は知らせないと意味ないしな)


 十兵衛は二人の反応を見て、天を仰いだ。


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― 新着の感想 ―
>それにダンジョンは人数が多いほど敵の数も多くなると言う性質がある。 ダンジョンに入るパーティごとに異なる時空にでも飛ばされるのでない限り、この設定は難しいのでは? 或いは、モンスターは徘徊型ではなく…
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