029.十階層ボスへの挑戦・捌
「おはよう、十兵衛」
「お、おはよう。最澄、茜」
「おはよう、梨沙ちゃん」
朝になった。夜番を交代し、十兵衛と梨沙も六時間くらい寝た。
睡眠としては十分で、昨日の疲れも取れている。風呂に入れないのだけはちょっとアレだが、こればかりはダンジョン探索者としては仕方がない。
今日のうちに十層を突破し、十層のボスを突破すれば十一層の転移球に登録ができる。そうすれば次からは一桁階層から十層をスキップして十一階層からトライできるのだ。
そして十一階層からは中階層と呼ばれるのだが、中層探索者と言うのはプロ探索者を名乗れるレベルだ。そして中層の探索で得られる金銭は低層の探索とは桁が違う。金銭が必要な最澄なんかには大事な節目であろうと十兵衛は思う。茜も武器を更新したいと言っていたので、其の為の資金を貯めなければいけない。
「今日は十階層の攻略とボス攻略だ。ボスに関してはみんな頭に入れているな?」
「もちろんだぜ」
「当然ね。ちゃんと調べて居ない探索者なんて居ないでしょ」
「先人が開拓してくれた情報だからね。有り難く使わせて貰わないとね」
十兵衛の言葉に全員が頷く。そして梨沙は寝袋や椅子などを回収して、結界魔法を解いた。
「さぁ、行こう」
十兵衛の号令と共に十層探索が開始された。
◇ ◇
「かなり九層と十層では戦闘時間が違ってくるな」
「あぁ、手強くなってるし、単純に数の暴力って危ないな」
「そうね、強さだけなら九層と変わらないけれど数が倍になると囲まれちゃうものね」
十層に入って二回ほどエンカウントしたのだが、二回とも相手は二十を超える相手だった。飛び越えてリーダーやゴブリンメイジを先に討伐する方針は変わらない。だがやはり敵が多いので戦闘時間が掛かってしまう。それに十層は九層までよりも広い。このエンカウント確率だと十層攻略に五時間か六時間くらい掛かるかも知れない。
「ってか一パーティでトライしている人たちって少ないんだね」
「そうだな、他のパーティは二から三パーティとかで合同で攻略しているみたいだな」
「ギルドに十階層攻略パーティ求むとかそういう募集があったけれどこういうので使うんだね」
「俺たちは初心者だからな。そういうのまだわからないよな」
梨沙と十兵衛がそう話していると最澄と茜が微妙な表情をしながら会話に参加してきた。
「いや、俺も本来は他のパーティと組んだ方がいいと最初は思ってたんだが、十兵衛と茜の強さが十分だから進言しなかったんだ。変なパーティと組んでも無駄だからな」
「私も、このパーティで行けると思っているから言わなかったわ。普通だったあら二パーティとか三パーティで攻略するのが当たり前ね。でも十兵衛くんが居れば大丈夫だって信頼しているから言わなかったのよね」
:そうなんだよなぁ。
:十階層一パーティ攻略とかすでに常識外なんだよなぁ。
:でも成り立ってるし、戦いは安定しているからチーム・暁についてこられるパーティなんてそう居ないだろ。むしろ足手纏いになる。
:それな。
:変なパーティと組んだら逆に連携とか取れないもんな。
視聴者は夜寝る時になってかなり減ったが、朝になって探索を再開したらすぐに二十万人を超えた。同時接続でだ。
夜の夜番の時などから付き合ってくれている視聴者も居るのでいつ寝ているのだろうと十兵衛などは思ってしまうが、それだけの価値が十兵衛たちの配信があると言う証左だ。
そして視聴者でコメントくれる人の中でおそらくB級以上だろう探索者の先輩のアドバイスなどもコメントに入っているので、コメントを全部スルーしてしまうのは勿体ない。
ただ十万人超えてしまうと流石に全てのコメントは拾えない。投げ銭してくれたコメントだけ拾っているだけだ。
「ってか今日は投げ銭多いな」
「ね~、めちゃくちゃ多いよね」
「やっぱ十階層攻略動画とかは跳ねるよな」
「梨沙ちゃんと十兵衛くん人気で明らかに同接人数が多いからね。普通は下層探索者とか人気探索者並に視聴者が多いわよ。まぁ最初から明らかに多かったけどね」
十兵衛に見られると言う事は当然最澄や茜もコメント見られるのだ。彼らがどれだけコメントを見ているのかはわからないが、十兵衛はあまりコメントは見ていない。時折暇な時間に見るくらいで、やはり索敵がメインだからだ。
不意打ちを十層のコボルトの集団などに受けてしまうと今のパーティでもかなり危険な状況になる。
このパーティの肝は十兵衛の索敵だと言うのは、これまでの探索でわかっている。経験者の最澄や茜に言わせれば十兵衛の索敵能力は異常らしい。ただし良い意味で不意打ちなど受けないので、それを頼られるのは悪くない。
ただ十兵衛の索敵を潜ってくるような相手が出てくるような階層で最澄や茜、梨沙が対応できないのは困るので、彼らにも索敵の練習をさせている。
「エンカウントするぞ」
「おい、マジかよ」
「もう向かってきてるわね」
「十兵衛ちゃん、忍術使ってよぉ」
今まで先に先にエンカウントを宣言していたが、今後の為に十兵衛はエンカウント宣言を寸前にした。
下草の長いところから、コボルトの大群が既に十兵衛たちを囲んでいた。ただ最澄たちはしっかりと戦闘態勢を取っているので十兵衛はこのくらいのタイミングで指示しても大丈夫だなと思った。あまり依存されすぎても良くないからだ。
「私がリーダーをやるわ」
「じゃぁ茜、任せた。風遁・〈風刃・重〉」
「きゃー、十兵衛ちゃん格好いい!」
十兵衛が放った〈風刃・重〉は四本の風の刃が飛び、囲みの一つのソルジャーたちを輪切りにした。そこに茜が突っ込み、メイジの放つ火魔法を避け、コボルトタンクたちを倒してリーダーに迫っている。
最澄はしっかりと梨沙を守りながらソルジャーたちの数を減らし、十兵衛は数を減らす為に走り回りながら忍者刀でコボルトソルジャーやライダーたちの首を飛ばして行く。
少なくとも茜と十兵衛の実力では数体のコボルトソルジャーやライダーくらいなら十分に相手することができる。最澄もしっかりと梨沙を守っていて、梨沙は結界で挟み込むと言う攻撃と、槍の形に整形した結界でコボルトを倒している。
最初のうちは殴打程度の攻撃力しかなかったが、梨沙のレベルが上がったのか熟練度の問題か、コボルトソルジャーでもしっかりと当たれば致命傷を与えられるようになっている。
つまり梨沙は攻撃できる後衛として役に立つようになっていたのだ。
(昨日の夜に結界魔法でこうしたらどうかとか話した甲斐があったな)
梨沙の活躍を横目にしながら、茜がコボルトリーダーの首を落とし、連携が取れなくなったコボルトソルジャーたちを殲滅していく。
「うん、問題ないな。むしろ余計なパーティと一緒に組んでたら逆に連携が取れなくて困ってただろうな」
「そうだろ? だからパーティ募集を進めなかったんだ」
「あぁ、最澄の判断は正しいと思う」
「ね、私も最初は九、十階層は他のパーティと共同探索した方が良いんじゃないかと思っていたけれど、十分戦えているわ。そして一パーティで十階層を突破した経験っていうのは中層に行っても役立つ筈よ」
最澄と茜が十兵衛の呟きに返してきた。実際うまくやれている。これが破綻しないで踏破できれば……、もちろん十階層のボスを倒さなければいけないが中層探索者になれるのだ。
「よし、気合を抜かないようにしてみんな頑張って十層を攻略しよう」
「「「おー!」」」
十兵衛がそう号令を掛けると三人がしっかりと返事をした。
この気合があれば大丈夫だろう。そう十兵衛は思えた。




