025.十階層ボスへの挑戦・肆
「は~、やっと八階層を抜けられたよ~。十兵衛ちゃん、ちょっと休憩しよ~」
「階層を抜けたら毎回休憩を挟んでるだろうが。当然休憩するぞ」
「そうじゃなくて、ちゃんと休もうって話。お茶とお菓子だすから食べようよ」
「うぐっ、わかった。休憩も大事だからな。特に次は未知の九階層だ。念には念を入れて置いたほうがいい」
「わ~い、やった~!」
梨沙はやはり八階層では相当緊張していたらしく、八階層を抜けるとぐったりとした。ちなみに階層毎の階段付近はほぼほぼセーフエリアとなっている。モンスターとエンカウントすることはないと言われているのだ。
故に八階層の出口付近には十兵衛たちだけでなく、幾つものパーティが各々休んでいる。
十兵衛たちは彼らとは少し距離を取りながらレジャーシートを敷き、梨沙が持ってきた水筒に入っているアイスコーヒーとサクサクとしたクッキーを座って食べた。
「うおっ、めっちゃうまいな、これ」
「えぇ、初めて食べる味ね。それにコーヒーも美味しいわ」
「えへへっ、これはうちの料理長が作ってくれたんだよ。コーヒーは使用人が淹れてくれたの」
「……うちの料理長。……使用人、……。」
最澄は家に料理人や使用人が居ると言う格差に絶句したようだ。
ただ普通の家には料理人も使用人も居ない。風間家や北条家が特別なだけだ。ただここで「気にするな」と言うと嫌味に取られてしまうかも知れないので十兵衛は黙っていることにした。
:うちの料理長と言うパワーワード!
:八階層だってのにピクニック感覚だな。
:でも無事に魔の八階層をほとんど怪我なく抜けるって凄くね。しかもまだ三回目だろ。
:いや、凄いなんてもんじゃない。しかもこれ最速で抜けてるんじゃなくてちゃんと経験を積みながら攻略して進んでてこのスピードだからな。
:今日中に十階層……は時間的に厳しいか。明日には十階層クリアできるかもしれんね。
:ってかまだチーム・暁結成してから一月も経ってないんだよなぁ。それだと普通四階層くらいが精一杯なんだよなぁ。八階層攻略するだけで通常の倍以上の速度で攻略してるってことで、やっぱおかしいわこいつら。
オンにしたコメント欄は相変わらず物凄いスピードで流れている。その一部を見ながら十兵衛は梨沙から貰ったクッキーとコーヒーを味わっていた。
北条家の料理長は一流ホテルのシェフをしていた人間だ。つまり本当に超一流の料理人なのである。その料理人が作ったクッキーが不味い筈がない。
(食べ慣れているのに、幾らでも食べられるな。あの料理長は本当に凄い)
一流は一流を知ると言うが、忍者では一流の十兵衛でも料理はできてもこれほどのクッキーを作る事はできない。
クッキー自体は作り方自体は簡単だと言うのに、どう足掻いてもこの味が出せないのだ。高校時代にお菓子作りにハマっていた事があるが、北条家の料理人に勝てなくてプロはやはり凄いのだと思った事があるが、久々に食べてみるとやはり美味いなと改めて感心した。
◇ ◇
「さて、十分休んだし行くか」
「おう」
「わかったわ。なんかダンジョンでまったりするってイメージすらなかったけれど、やっぱり休息って大事よね」
「うん、気を抜くべき時は抜くべきだよ~。視聴者さんとも交流できるしね」
梨沙が言う通り梨沙はコメントを追ってコメントに返信していたりした。それによって梨沙の人気はあがり、既に七十万にまで登録が増えている。
希少な回復職のプリマヴェーラと言う事もあり、梨沙も注目の探索者なのだ。
実際最澄が小さな怪我を負ったりもしたが、ポーションを使わずに梨沙の回復魔法で治している。ポーションは最低十万円。高い物だと余裕で一千万円を超えるのでポーションを使うと赤字になるのだ。
ダンジョン探索初心者には良くポーション赤字と言うスラングがある。探索をしたが怪我を負ってしまってポーションを使ってしまい、赤字になってしまうと言う事態に陥るのだ。
その点、チーム・暁は梨沙が居る分ポーションを節約することができる。
もちろん重傷を負った時などは治癒魔法よりもポーションのが即効性があるし、戦闘中などはポーションのが使いやすいのでポーションは必要な時は必ず使えと厳命している。
ただ今までの探索でポーションが活躍する場面は、他パーティを救助した時だけだ。あの時は百万円のポーションを二本使うことになった。それだけ事態が逼迫していたからだ。
「九階層はゴブリンリーダーやコボルトリーダーが出てくるんだよな」
「あぁ、草原フィールドで、森林もあって、集団で統率されたゴブリンやコボルトが出てくるらしい。七階層までのゴブリンやコボルトとはレベルが違うらしいから注意して欲しい」
「えぇ、わかったわ。私の薙刀、通用するかしら」
「通用すると思うぞ。茜の薙刀術も剣術も相当レベルが高い。俺も茜とは戦いたくないな」
十兵衛がそう言うと茜は困ったような表情をした。
「私は十兵衛とは絶対戦いたくないわ。勝てる未来がないもの」
「忍術なしならどうだ?」
「忍術なしでも厳しいわね。うちの望月流古武術でも十兵衛より強い人は居ないわよ。更にダンジョンでレベルアップもしているでしょう。私よりたくさんモンスターを倒している十兵衛はレベルでもすぐ私を抜くと思うわ。今は私の方がレベルは高いと思うけれど、それでも互角で戦うのも難しいと思うわ。十兵衛の忍者刀二刀流は相当のレベルよ。私が保証するわ」
茜は本気の目でそう言った。
「望月流古武術は知らないけれど、古武術の免許皆伝を持っている茜に言われると嬉しいな」
「と、言うか十兵衛は体術も強いじゃない。忍術は古武術に通じる物があると思うわ」
「それはそうだな。幼い頃から空手や合気道、柔術なんかを仕込まれていたから古武術には詳しい方だと思うぞ」
忍者は戦場で動く者たちだ。当然剣術も体術も洗練されている。そうでなければ生き残って来られなかっただろう。十兵衛は風魔流古武術を学んでいるのと同じなのだ。
「そうよね。それに忍術が上乗せされているのよ、正直イカサマしてるんじゃないかってくらい十兵衛は強いわよ。自己認識としてもっと強い人を知っているからまだまだだって十兵衛は言うけれど、少なくとも探索者界隈の低級探索者の枠には収まりきらないレベルね。十兵衛が居るからこそ、私たちは九階層までこんなに早く到達できているのよ」
「自己認識か。どうしても父上たちと比べちゃうからな、父上は幼い頃から超えられない壁だったから自分がそんなに強いって意識はないんだ。ただ視聴者の反応とか見て自分が常識外に居るって言うのは最近わかってきたぞ」
「それは良かったわ。じゃぁ行きましょう」
十兵衛は茜にまで自己認識が低いと言われてしまい、やはりそこの齟齬は治さなければならないと思った。と、言っても天狗になっても仕方がない。変なプライドも持つ必要がない。十兵衛は十兵衛らしく、そして梨沙の護衛として頑張れば良いのだ。
「ここが九階層。八階層とはやっぱり雰囲気が違うのね」
「そうだな。だが動画で予習はしてある。マップも買ってある。少し遠回りになるが森林フィールドを避けるルートを取ろう。その方が視界が開けていて危ない場面に陥りづらい」
「おう、ルート選択は十兵衛に任せるぜ」
「私も任せるわ」
「と、言うかチーム・暁のリーダーはあたしってことになってるけど、実質十兵衛ちゃんになってるよね」
「あははっ、まぁその辺は臨機応変に行こう。あっちに反応がある。まずは一当てしてみよう」
草原の丘の向こうに十を超える反応があった。モンスターだ。
十兵衛たちは九階層のモンスターに自分たちが通用するかどうか試される最初の敵だ。ここで苦戦するようだと十階層到達など言っていられない。
そういう意味では怪我なく楽勝で勝つくらいでなければならない。
十兵衛の上位忍術は使うとそれだけで倒してしまうので封印中だ。そうでなくては最澄や茜、梨沙が成長しない。
「よ~し、虫じゃないなら大丈夫だかんね。頑張るよ!」
梨沙がそう言って気合を入れて居るのを見て十兵衛はきちんと守らねばと思いつつほっこりした。




