024.十階層ボスへの挑戦・参
「ちょっと待て。前で戦ってる奴がいる」
「あぁ、じゃぁちょっと休憩だな」
ダンジョンでは基本横殴りはNGだ。二つのパーティでモンスターを倒した場合、どの魔石がどっちのパーティに所属するのかで揉めるのである。
魔石は紙幣と同じだ。ギルドに提出すればそれがそのまま金銭になる。つまり金銭トラブルが起きるのだ。そりゃ横殴りNGの規則が出来るわけである。
ただしそのパーティからの救助要請があった場合は別でその場合は救助義務ではないが、できるだけ救助して欲しいとギルドからは言われている。
前回十兵衛たちが救助した時のように、本人たちから助けて欲しいと言う意思が確認できた時はできるだけ助けるように、もしくは全滅しそうなら確認なしでも助けて欲しい。相互互助の精神を持って探索して欲しいと言うのがJDAの見解だ。
「とりあえず気配の感覚では苦戦はしていない見たいだから気にせず待とう」
「十兵衛の気配察知のレベルが高すぎて呆れるんだが」
「そうよね、戦闘がどんな推移になっているかまでわかるの?」
「あぁ、大体わかるぞ。お、探索者が勝ったな。モンスターの気配が消えた。なんていうかな、探索者の気配とモンスターの気配って違うんだよ。色が違う感じで違う。だから探索者を青だとしてモンスターを赤だとすれば青四赤七みたいな感じで気配察知ができるんだ。で、赤の数が減っていて青の数が減っていなければ探索者パーティが優勢に進めているってのがわかるだろう? ただこの精度でわかる距離は百メートルくらいだけどな」
「いや、百メートルでそのレベルでわかるのがおかしいよ。俺前のパーティに気配察知持ち居たけれどそんなレベルで気配察知もできなかったし、百mも範囲は広くなかったぞ」
「そんなこと言われてもな。俺は俺だとしかいいようがない」
:百メートル気配さっちできたら不意打ちとか殆どないじゃん
:しかも探索者とモンスター見分けられるとか最強じゃない?
:十兵衛くんの秘密がまた一つ。
:あ~、十兵衛くんの配信まだかなぁ。この前の配信凄かった。
:あぁ、アレはマジ凄かった。いや、他のパーティでの配信でもいいんだけど、やっぱり十兵衛くん見切れるんだよね。
:その代わり十兵衛くんの配信では殆ど十兵衛くんしか映らないけどね。
:まぁそれはしゃーない。
「ほら、コメントでもおかしいっていってるよ」
「うるさいな。スキルも忍術も便利な道具みたいなもんだ。使ってなんぼだろ?」
「うぅ、確かにそうなんだけどぉ。便利過ぎて十兵衛ちゃん以外とパーティ組めない体になっちゃう」
「なんだそのお嫁に行けないみたいな言い方。やめろ、梨沙」
「茜さ~ん、十兵衛ちゃんがいじめるぅ」
「よしよし、梨沙ちゃんは良い子よ」
コメントを見ていると梨沙も見ていたようでからかってきた。だが十兵衛の能力がおかしかったからと言って何が問題なのだろうか。便利なのだから良いのではないか。
むしろ上忍ならば、中忍や下忍たちに示しをつける為にもこのくらいできなければならないと十兵衛は思っている。
実際他の上忍も十兵衛と同レベルか近いレベルの気配察知ができる筈だ。忍者にとって気配を消す、読むと言うのは必須技能だからだ。
「お、今度は後ろからパーティが来るぞ。先に進もうか」
「結構このルート使うパーティいるんだな。了解」
十兵衛たちが動き出そうとした時、後ろからしっかりした装備をしたパーティが現れた。五人だ。
「待ってくれ、少し話を良いだろうか」
「自衛隊のパーティですよね。いいですよ」
装備を見ればわかる。話しかけてきたのは自衛隊から派遣されているダンジョン攻略隊で、本来八階層には居ない筈だ。自衛隊のダンジョン攻略隊は下層や深層に潜っているのが常だ。ただ、ダンジョン氾濫が起きない為に低層や中層なども潜っていると聞いていたが、まさか出会うとは思わなかった。
「私は芹沢二尉だ。風間十兵衛くんたちチーム・暁だな。君たちの事は知っている。先日のクイーンビーの討伐、そして初心者狩りの犯罪者を捕らえてくれたこと、感謝する」
芹沢は軽くペコリとお辞儀した。ヘルメットをしているが、きりっとした三十代くらいのイケメンだ。他の四人もしっかりと隊列を組んでいて、明らかに十兵衛たちよりもレベルが上なのが気配の感覚でわかる。
戦って勝てるとか負けると言えば話は別だが、十兵衛は相手が自分のレベルより上かどうか気配でわかるのである。レベルはあくまで目安で戦闘力と直結する訳ではない。だがレベル差があまりにありすぎると攻撃をしても通用しなかったりするので、やはりレベルは大事だ……と、言うのが十兵衛の結論だった。
「いえ、俺たちはやれるからやっただけで、そして犯罪者は襲ってきたから返り討ちにしただけですから」
「まぁそうなんだが、それらは本来自衛隊や警察の領分なんだ。私たちがやれば賞金は払う必要がないからな」
「自衛隊のスペシャルフォースが駆除すると賞金は貰えないんですか?」
「危険手当は付くが、賞金全額は貰えない。賞金はあくまで民間の探索者用の金額で、元は税金になる。公務員である我々が公務をしていて貰う訳にはいかないさ」
「なるほど」
芹沢二尉はそう言って佇まいを直した。隙がない。
「まぁそんな訳で、今話題のチーム・暁に挨拶をしておきたかったのと、私たちの仕事を減らしてくれた礼を言おうと思ってね。クイーンビーの巣は近日中に駆除する予定だったんだ。私たちのチームといくつかのチームでね。まさか一つのパーティだけで駆除してしまうとは思わなかった。動画を見た時は唖然としたよ。スキル忍術とは本当に凄いんだな。教えて欲しいものだ」
「あ、モンスターが来ます。申し訳ありませんがこのくらいで」
「わかった。武運を祈る」
「ありがとうございます」
芹沢は良い感じだったのでもう少し話していたかったがモンスターが攻めて来ていた。当然芹沢たちは邪魔しないように少し離れている。
そこに飛蝗型モンスターと蜘蛛型モンスター、そして蟷螂型モンスターが現れた。
蟷螂型モンスター・デスマンティスは強敵だ。正直最澄にはまだ任せられない。防御に徹するのはできるが攻撃する暇がないのだ。結果、いずれ盾を破壊されて殺されてしまう可能性がある。
故に十兵衛は蟷螂型モンスターにまず近寄った。鎌が物凄いスピードで振られる。それを目視しながらダッキングして避ける。二の鎌が胴を狙ってくるのをバックステップしながら棒手裏剣を投げる。それは柔らかい蟷螂型モンスターの腹に刺さり、痛そうに体をよじる。そこの隙を逃さず、〈縮地〉で懐に入り、蟷螂の頭部分を忍者刀で斬り飛ばす。
飛蝗型モンスターは最澄が、蜘蛛型モンスターは茜と梨沙がやってくれたらしい。怪我らしい怪我もなく、問題なく今回のエンカウントを攻略することができた。
八階層はまだそれほど潜っている訳ではないが、どんな型のインセクト系モンスターが出た時は誰が対処すると言う手法が確立しつつあり、連携も良くなっている。
少なくとも今のままであれば十兵衛たちは八階層で苦労することはないだろう。ならばこのまま抜けてしまうべきだ。
梨沙の虫嫌いが治った訳ではないので、やはりそこは不安要素だ。危険な区域からはさっさと抜けるに限る。
「それでは先に進めさせて頂きます。芹沢さんたちもお気を付けて」
「いや、本当に凄いな。あぁ、わかった。ありがとう。君たちも気をつけて」
十兵衛たちは芹沢たち自衛隊のチームに別れを告げて、先を急いだ。




