023.十階層ボスへの挑戦・弐
六、七階層はサクサクと十兵衛たちは攻略していった。順路も覚えているし、潜っている探索者も多い。ダンジョン内は洞窟だが幅は十m以上あるので渋滞が発生することはない。
他のパーティがエンカウントしてモンスターと戦っているのを見ることもあるが、苦戦していたり怪我で危なかったりする場面はなかったので、十兵衛たちは彼らをスルーして先に進んでいった。
大体五時間くらい経っただろうか。七階層の階段にたどり着いた。
「うぅ、また八階層だよぉ」
「梨沙、乗り越えたんじゃないのか」
「マシにはなったけど、苦手なもんは苦手だよぉ。だってでっかい虫だよ!」
「いや、俺は虫平気だから気にならないが」
「うぅ、十兵衛ちゃんが意地悪を言う~」
:そうだそうだ! 梨沙ちゃんに仲良くしろ!
:インセクト系モンスター苦手な探索者多いよな。
:こればっかりは仕方ない。
:俺もアンデッド系は受け付けないなぁ。あのゴアな感じが……。
コメントも梨沙を擁護するようになっているが、八階層を迂回して九階層に行くルートなどはない。できるだけ早く、エンカウント少なめになることを期待して八階層を突破するしかないのだ。
ちなみに今日は梨沙のアカウントで配信しているのだが、既に十万人の視聴者がいる。相変わらずチーム・暁の配信は配信業界では人気のようだ。
他のパーティの配信も勉強の為に見ているが、一桁階層の配信など普通は数百行けば良いところだ……と、言う常識を十兵衛は身につけた。
十兵衛の配信の時などは一気に百万人の登録者がついたが、それが異常なのだ。十兵衛は知らなかったが、「バズった」と言うスラングがあるらしい。それを言えば梨沙も最澄も茜も「バズっている」のだが。
「さぁ、八階層をクリアするぞ」
「おう」
「頑張るわ」
「うぅ……、頑張る」
十兵衛の号令の元で再度十兵衛たちは八階層に足を踏み入れた。
「前回はこっちのルートを辿ったから今度はこっちのルートを辿って見よう」
「おお、八階層は最短ルートと言うよりは安全ルートって感じだよな。下草もヤバイし足元が危険だから危険度の少ないルートがギルドで推奨されてるんだよな」
「えぇ、そうね。やっぱり洞窟型とフィールド型では違うものね」
「だが洞窟型でも中層とかになると岩がゴツゴツしていたり地面に凹凸があったり、あとモンスターが身を隠すようなところがあって視界良好と言う訳には行かないらしいぞ」
八層を進みながら十兵衛たちは会話もする。むしろ会話をする余裕があるようになったと言うべきだろうか。
今もクワガタ型モンスターやキラービー、それに前回は見なかった蜘蛛型モンスターなどと戦っているが、順調に戦っていて問題なく排除できている。
梨沙は結界を張って自身を守りながらも、前回編み出した結界でモンスターを潰すと言う方法で戦っている。ただグチャリと潰れて中身が見えるので、梨沙としてはあまり使いたい方法ではないと泣き言を言っていた。
「梨沙、障壁の形を変えられるなら剣みたいな障壁を作って飛ばせば攻撃魔法みたいになるんじゃないか?」
「あ、それいいかも。前はできなかったけど、熟練度が上がってできるようになってると思う。やっぱレベルアップって大事よね」
十兵衛が梨沙にアドバイスすると剣型の透明な障壁が現れ、飛蝗型モンスターに突き刺さる。威力は一撃とはいかないが、飛蝗型モンスターの動きが鈍る。そこを最澄の短槍が刺さり、モンスターは塵に帰った。
「うん、行けるね。もうちょっと威力は欲しいけれど」
「それはもっとレベルアップすればいいんじゃないか。ただ階層が進めば当然敵の耐久力もアップするから、障壁剣で一撃でモンスターを倒すってのは難しそうだけどな。まぁ梨沙は後衛なんだから攻撃に参加できるってだけで助かるよ」
「十兵衛ちゃん! うん! 頑張るね!」
梨沙はやる気が出たようで最澄の戦闘の邪魔にならないように障壁剣を飛ばす練習をしている。当然フレンドリーファイヤは厳禁なので、彼らの動きを阻害しないように援助しなければならない。
十兵衛も茜も縦横無尽に動き、即座に戦場が変わるタイプだ。それに比べると最澄はじっくりと腰を据え、相手の攻撃を受け止めてから攻撃するカウンタータイプである。
梨沙は十兵衛や茜の速さにはついていけず、最澄の援護をすることになったのだろう。
パーティの位置取りでも最澄は梨沙を守る位置に居るので、梨沙と最澄は近い位置で戦っている。
「最澄くん、行くよ」
「わかった」
二人は声を掛け合い、良い感じの連携で八階層のインセクト系モンスターをしっかりと駆除していった。
:いや、障壁の形剣に変えて攻撃ってできるん?
:俺は聞いたことがない。
:と、言うか結界術士自体が殆ど存在しない。上級探索者にはちょろちょろ居るけど。
:治癒術もできて結界術もできるって梨沙ちゃん万能だよな。
:万能と言えば十兵衛くんでしょ。
:まぁそうなんだけど、治癒術のスキルオーブと結界術のスキルオーブって買おうと思ったら十億じゃきかないんだよ! 羨ましい!
;まぁそれはある。
:そんなこと言ったら忍術のスキルオーブって売っているの見たことないぞ。ドロップ履歴も少なくとも日本にはない。忍者は日本の伝統だから、忍術自体日本のダンジョンでしかドロップしないだろ。忍術の有用性は十兵衛くんで既に証明されているから、もしスキルオーブがドロップしたら争奪戦になって百億とか言ってもおかしくない。
:あ~、ありそう。私には雲の上の話だわ。
(コメントではなんか変な盛り上がりかたしているな)
十兵衛は自分の担当のモンスターを駆除し終わってコメントを見ていた。
最澄や茜にもレベルアップして貰わなければならないし、戦闘経験も積んで欲しい。十兵衛だけで掃討できるからと言って、十兵衛だけが戦う訳にはいかないのだ。それではパーティ内格差や依存が出てきてしまって、結局中層や下層に降りた時に困る事になる。
故に十兵衛は最低限の敵は排除するが、残りは三人に任せるスタイルを取るようになっている。この階層ならばそれほど忍術を使うほどでもない。忍者刀と手裏剣、そして体術だけでなんとかなっているのだ。
ただ先日のクイーンビー戦のように、忍術を使わなければいけない場面もある。流石に百を超えるモンスター相手では怪我人が出る。もしくは全滅することもあるかもしれない。梨沙の護衛として、チーム・暁として十兵衛はそんな事を許容することはできなかった。
「そろそろ半分だな」
「あぁ、順調だ」
最澄がマップを見ながら言ってくる。最澄はしっかりしていて、真面目なので話しやすい。梨沙などはからかってくるので、もっと真面目にしろと怒りたくなることがしばしばある。だがそれが梨沙の性格だと知っているので、怒る事はないのだが……。
「魔の八階層って言われているけれど、普通に攻略できているわね。やっぱりこのパーティはいいわ」
「ね~、あたしこのパーティ好きだよ」
茜はチーム・暁を気に入ってくれているらしい。茜は戦力としてはかなり頼りにさせて貰っているので、気に入ってくれていると言う事実が嬉しい。パーティを抜けるなどと言われるとまたパーティメンバー探しからしなければならない。そして四月も後半に入った今、新しい有用なメンバーを見つけるのは至難の業なのだ。
当然順調なダンジョンアタックも壁にぶち当たってしまう。
「俺もいいパーティだと思う。最澄、茜。付き合ってくれてありがとうな」
「なんだよ水くさい」
「そうよ、むしろ十兵衛がいるからこのパーティは成り立っているのよ。十兵衛がいなければこんなに早く十階層を目指すなんてことはなかったと思うわよ。ペースとしては早すぎるんだけれど、全然苦戦してない。これ本来凄い事なんだからね?」
「そうか、まぁ二人が満足してくれているんなら俺はいいんだ。これからも宜しくな。お、また団体さんが来るぞ。戦闘態勢を取って」
八階層はエンカウント率も高い。他のパーティも幾つかは見かけたがやはりさっさと抜けて行くパーティも多いようだ。ただ九階層、十階層も難易度は高いので、十階層の転移球に触るところまで行きつけないパーティもかなり居ると言う。
(今日、いや、明日中に十階層のボスを撃破して転移球に登録したいな。そしたら一桁階層突破で次は十一階層からトライできる)
十兵衛は皮算用をしながら、眼の前のカブトムシ型モンスターに忍者刀を突き立てていた。




