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019.巣の駆除と襲撃

 上位種のキラービーとの戦いは十兵衛たちの優勢に進んでいた。全てワンパンとは行かないが、しっかりと駆除され、段々と敵は減っている。

 クイーンビーはその巨体のため、あまり戦闘力がないことを知られている。


 それでも可愛い我が子たちを倒されたので出てきたのだろう。もしくは巣が燃やされたことによって燻されて出てきてしまったのかもしれない。

 通常クイーンビーとは出てこないものなのだ。


 :ってか上位種のキラービー相手に無傷って……。

 :中層に出てくる奴だよな、あいつら。ってことはチーム・暁は中層でも十分通用するっていう証明だよな。

 :あぁ、通用するって思っては居たけれど、これほど余裕に熟すとは思ってなかった。っていうかキラービーの駆除依頼とか普通に中層探索者の仕事だしな。確かクエスト報酬五百万とかだったはずだし。

 :そうだよな、夢見てるんじゃなくて現実なんだよな。これ。

 :言うて有名な中層探索者なら同じ事出来るんだから、凄いけど突き抜けてるってほどじゃないでしょ。

 :ばかっ、中層探索者でも一パーティでトライしたりしないんだよ。臨時でもレイド組んでやる依頼なんだ。それを四人だけでやっちゃえてるってのが凄いんだよ


 コメント欄が賑わっているが十兵衛たちはそんなのを読んでいる暇はない。なにせ上位のキラービーは素早く、攻撃力も高く、その針にはかなり強力な毒が有ることを知られている。一度刺されるだけで毒で戦闘不能になるのだ。水面ギリギリで飛行するような、綱渡りをしていることには間違いがない。


 無傷で居られるのももちろん技量もあるが、食らったらまずいと言うのがわかっているのでできるだけ避けているだけだ。タンクの最澄だけは盾で受けているがしっかりと針の攻撃も金属製の盾は防いでいる。

 梨沙は結界で自身と最澄を守りながら、障壁でキラービーを挟んで潰している。

 茜はその俊敏性とトリッキーな動きでしっかりと避け、的確に薙刀の一撃を入れて数を減らしている。


「クイーンビー。行くわ」

「任せた」


 任せたと言いながら十兵衛はクイーンビーの首筋に棒手裏剣を投げた。それはクイーンビーの首筋にしっかりと食い込み、クイーンビーが痛みに暴れる。そこをクイーンビーの腹を足場に素早く茜が駆け上がり、首に薙刀を突き刺す。そして薙刀から手を離し、佩いて居た太刀を抜刀し、クイーンビーのでかい頭を落とした。

 クイーンビーは悲鳴すら上げられず、数秒経って塵になり、茜の薙刀と十兵衛の棒手裏剣だけが残った。


「終わった」

「終わったな」

「やったね、十兵衛ちゃん! 茜さんも凄い!」


 クイーンビーを倒すとドロップででかい魔石と壺が現れた。その中には大量の蜂蜜が入っている。キラービーのドロップでも小さな壺に入った蜂蜜はあって、それらは回収していたが流石クイーンビーである。十兵衛が抱えるほど大きい壺だ。


 キラービーの蜜は希少品であり、グラム単価でかなりいい収入になる。しかも今回は巣の駆除までしてクイーンビーも倒している。それだけで五百万円のクエスト報酬だ。ちなみにクエスト報酬は既に税抜きの値段になっているのでそのまま手取りになる。


「よし、じゃぁドロップを回収して帰ろう。今日はもう十分だろ」

「あぁ、わかった」

「そうね。少し疲れたものね」

「うんっ、もう虫は見たくないよ~」


 そうしてふっと気を抜いた瞬間、バキューンと音がして茜のドローンが弾け飛んだ。



 ◇ ◇



「襲撃だ。散開!」


 十兵衛の号令に四人が開けた場所から離れて樹木の影などに体を隠す。

 茜のドローンはしっかりカメラ部分が撃ち抜かれている。受付嬢が言っていた初心者狩りだろうか。


「ほー、いい動きだな。だが俺達から逃げられると思わない方がいいぜ」


 黒尽くめの男が三人現れる。武器は山刀と槍と剣だ。だがさっきの銃撃はこいつらではない。十兵衛は〈気配探知〉を行い、五十メートル先の木の上にスナイパーがいる事を掴んだ。


「誰だっ」

「それを聞かれて答えると思ってるのか? わざわざ装備の上に黒尽くめの格好をして、目出し帽までしてるんだ。当然敵に決まっているだろう?」


 十兵衛の叫びに淡々と答えが帰って来る。間違いない。初心者狩り、もしくは梨沙や茜の装備を狙った襲撃者だろう。気配もクイーンビーよりも高い。つまりそれだけ上級の探索者であることを示している。

 八階層をうろうろしている初心者を卒業したばかりの奴らなど鴨に違いない。


(舐めてるな。俺はこいつらよりもよっぽど強い奴等を知っているぞ。そしてそいつらに勝ったから上忍と呼ばれているんだ。あいつらには悪いが、運が悪かったと思って貰おう。初心者狩りなんかしている奴等は悪人以外何者でもない。遠慮は要らないな)


「十兵衛ちゃん、十兵衛ちゃん」

「なんだ、梨沙」


 十兵衛と梨沙は同じ場所に隠れている。と、言うか梨沙が隠れた場所に十兵衛が飛び込んだのだ。


「あいつらが襲撃者だって言う証拠が要ると思うの」

「そうだな。スマホを動画モードにして胸ポケットに入れて置くか。ドローンは壊されちゃったからな」

「うん、わかった」

「あとアイツラのうち何人かは殺すぞ。証人は一人でいい」

「……うん、わかった。ごめんね。十兵衛ちゃんの手を汚す事になっちゃって」

「いや、俺たちの装備が良いのは明白だ。いずれ狙ってくる奴等が来る事も想定していた。ただ思ったよりも早かったけどな。じゃぁやるぞ。最澄と茜にはスマホで動かないようにと伝えておいてくれ」

「まかせて」


 十兵衛はさっき探知したスナイパーに向かって無音で隠遁・〈影針〉を放った。「ぐあっ」と言う声と共にスナイパーの目が影針で撃ち抜かれ、木から落ちるのがわかる。影針は脳にまで達している筈なので即死だろう。


「何しやがった、このガキっ。くそっ、連絡が取れんっ」

「そのガキにやられるんだよ、おっさんたち」


 振り向いた男の懐に入った十兵衛は発勁を込めて胸を撃ち抜いた。勁はしっかりと浸透し、男の口や目から血が吹き出る。

 当然返り血など受ける訳がない。十兵衛はさっさと次の敵の元へ向かっていた。


「なんだ!?」

「ベータがやられた」

「ぐはっ」

「デルタッ」


 名前を呼ばずにコマンドネームを使っているなんて徹底したことだと思うが、十兵衛には関係がない。

 十兵衛の戦いはきちんと梨沙のスマホで記録されている筈だ。

 もちろん十兵衛もスマホを使って記録を撮っている。


(ベータ、デルタを倒したんだからスナイパーがリーダーじゃなければこいつがアルファか。どっちみち最後の一人だ。こいつだけは生かして置くか)


 生かす、と言っても無事で済ませるつもりはない。


「なっ」


 まず剣を持った手に手を添え、小手返しでひっくりかえす。そして金属の仕込まれたブーツで肩を踏み潰した。肩の骨から肩甲骨までイっているかもしれない。だが十兵衛たちを狙ったのだ。このくらいは当然の反撃だ。

 足も潰して起きたかったが、そうすると連行することができない。左腕は潰したので右腕は肘を踏み潰して無力化する。


「ぐあぁぁぁぁっ、いてぇっ」

「うるさいっ。黙れっ」


 黙れと言っても男は叫んだままだったので猿轡をして黙らせた。痛みで涙や鼻水が出ていて汚らしい。そんな汚れた目出し帽を取るのも面倒だったので装備だけ回収して十兵衛はそいつの腰に縄を掛けた。

 腕は無力化していて、引っ張ればかならず痛みにのたうち回ることが明白だからだ。


「十兵衛、すげぇな」

「ほんと、一瞬だったわね」

「まぁ対人は得意だからな。忍者って言うのはこういうのが生業なんだ。むしろダンジョン探索よりも人が相手の方が楽だな」


 十兵衛がそう言うと最澄と茜の瞳に恐怖が交じる。ただこればかりは仕方ない。これでパーティ解散になってしまうとしても梨沙を守る方がプライオリティは高いので、十兵衛は加減する気などなかったのだ。


 当然ベータとデルタは死んでいる。

 死体も放っておけばすぐにインセクト系モンスターが食べてくれるだろう。証拠隠滅に最適だからこそ、ダンジョン犯罪と言うのは無くならないのだ。


「いや、ちょっと引いたけど俺たちの事を守ってくれたんだよな。ありがとう」

「そうよね。びっくりしちゃっただけで十兵衛の事を怖くなったとかはないわ。ごめんなさいね」


 十兵衛が残念だと言う雰囲気を出していたので最澄と茜は即座にそういうつもりはないと釈明した。


「十兵衛ちゃんはガチ忍者だからこういうところがあるんだよ。でも無闇矢鱈に力を振るう人じゃないから、そこは信頼して欲しいな」


 梨沙がそう言うと最澄も茜もホッとしたような表情になる。その瞳にはもう十兵衛への恐怖の色はなかった。




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― 新着の感想 ―
こんにちは。 流石ニンジャ、スレイするのはお手の物…ってことですね。
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