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017.魔の八階層入口

「助けられて良かったね、岡崎さんたち」

「そうだな」

「うん」

「あの量のモンスターは俺たちだけじゃ辛かった。十兵衛の忍術で半分以上持っていってくれたから助けられた。本気の忍術って本当凄いんだな」


 梨沙が帰り際に言うと最澄が十兵衛の忍術を褒め称える。だが〈風刃乱舞〉は本気で放って居ないし、あの忍術は中級忍術だ。まだまだ上がある。


「あれは本気で撃ってないし、それより強い忍術も持ってるぞ」

「マジか」

「え~、ほんと? ちょっと怖いんだけど」


 最澄と茜はそう言うが忍者とは暗殺なども請け負う職業だ。怖いのは当たり前である。だが上級忍術を放てるのは上忍だけであり、一握りの人材だけだ。

 本家で修行をしているもの、分家の才能があるものが風間家でずっと修行をして身につけるものだ。


 十兵衛も幼い頃から鍛えられ、その結果上忍になり、上級忍術も使えるようになったのである。忍術の修行は辛く、厳しい。簡単に忍術を使えると思われてしまうと心外だ。


「まぁ今どきそんなの使いどころないって思ってたけどな。ダンジョンで人助けに使えるとは思っていなかったよ」

「いやいやいや、ダンジョン探索は俺等が生まれた時からあったんだから考えたりするだろ」

「う~ん、修行が忙しかったからな。ダンジョン配信とかも見てなかったし。でも今勉強の為に見てみたらS級の探索者とかヤバイな。勝てる気がしない。そういう意味ではダンジョンに潜ってレベルアップするのも忍者には必須なんだなと思ったよ」


 最澄は呆れた表情をした。


「まぁ今気付いてくれたなら遅いってことはないか。S級やA級の強さは人類トップクラスだぞ。軍隊ですら返り討ちにした個人がいるレベルだ。そういえばお迎えが来てるぞ」

「あぁ、そろそろ行かないとな。梨沙」

「は~い」


 梨沙と最澄は北条家が迎えに寄越した白の高級車に乗り込む。ダンジョンギルドは公共の場で警察や自衛隊もいるとは言え強力な力を持った探索者がたむろしているのだ。故に探索者ギルドにいる時間はできるだけ少なくし、更に送迎が義務と北条家からは条件として付けられている。

 十兵衛は梨沙の護衛なので当然一緒の車に乗るのだ。


「あいつらすげーよな。金持ってんのに全然ひけらかさないし、それに実力も高い。梨沙とか普通にダンジョン潜る必要なんてないのに才能があるから、人を助けられるからってダンジョン探索者になったんだろ。尊敬するわ」

「いいんじゃない、最澄くんみたいに金の為に潜る人もいっぱいいるわよ。むしろそっちの方が多いんじゃないかしら。私だって剣術を地上社会では使えないからダンジョンに潜っている面はあるしね。ただ十兵衛くんは自己認識が客観的じゃないわね。あの強さでまだ上が居るとか言っているけど、その上って日本の上澄みのA級やS級レベルでしょ。まだ全然レベルアップしてない筈なのに多分B級のレオ先輩と普通に戦えるわよ。それを本人が自覚してないのよね」


 最澄は茜と二人になったので十兵衛たちの話題を出したのだが、茜は茜の視点があるようだ。

 確かに十兵衛は自己評価が客観的じゃないなと最澄は思った。あれほど強ければ天狗になっても良いと思うし、もっと大きなクランなどに高待遇で迎えられてもおかしくない。


 実際今日の最澄の配信は視聴者数が数万まで行っていた。

 最澄の視聴者は数百が精々だったのに比べて、たった一回梨沙の配信で十兵衛の力が配信され、それが世間に認知されてきているのだ。


 故に最澄のアカウントでも数万の視聴者が集まり、特にモンスターパレードに突っ込んで救助する場面などは切り取られてどこかの動画に使われるだろう。

 最澄も茜も経験者なのでそのくらいはわかっている。


「今日貰った投げ銭、十万どころじゃないんだけど、これ分けた方がいいかな」

「梨沙ちゃんと十兵衛くんが要らないって言ってるんだから有り難く貰っておけば? ちなみに私も要らないわ。ただたまに私のアカウントで配信はさせて貰うつもりでいるけどね」

「わかった。探索者として本来先輩なんだからあいつらを助けるべきなんだけど、十兵衛も梨沙も強すぎて助けられてばっかりだな。俺も助ける側にならないと」

「そうね、パーティとして釣り合う実力を持たないとね」


 最澄は茜に言われて十兵衛と梨沙に恩を返さなければならないと決心した。



 ◇ ◇



「怖い怖い怖いっ」

「おい、梨沙。離れろ。守れん。ってか自分で結界張ればいいだろう」


 梨沙は八層に入ってからまだエンカウントもしていないのに十兵衛の腕に抱きついて目を瞑って居た。


「う~、そうなんだけどさぁ」

「とりあえずダンジョン内なんだ。抱きつかないでくれ。ダンジョンに潜るって決めたのは梨沙だろ。そしてダンジョンにインセクト系モンスターがいるのはちょっと調べればわかる。知らなかったとは言わせないぞ。その上でなるって決めたんだろ。だったら覚悟決めろ」

「ぐっ、わかった」


 ぐぅの音も出せない正論でパンチされた梨沙は十兵衛から離れた。

 場所は八階層入口。時間は十四時を超えた辺りだ。

 土曜日の探索はハプニングがあり、救助を行ったので八階層まで行けなかったが、日曜日の今日、探索は順調に進み、幾つかのパーティが戦っているのを見たが特に問題はなさそうだった。……十兵衛たちが戦っているのを見ているパーティは居たが。


 そして十兵衛たちのパーティ・暁も問題なく六、七階層を突破できた。

 体力も気力も十分。ならば八階層に挑戦しない理由はない。もともと土曜日に八層に挑戦する予定だったのだ。

 ちなみに今日は茜のドローンで配信している。美人の茜のファンは多いらしく、コメントを見る限り男性視聴者多めと言う感じだ。


 :ってか普通に八階層まで三回だけのアタックで辿り着くとか人外過ぎて草。

 :それな。茜ちゃんももちろん強いんだけど十兵衛くんがヤバすぎる。

 :ドローンでも動きが追えないからな。動画にしてスローにしないと何やっているかわからん。

 :今日は茜ちゃんの配信だから梨沙ちゃんなかなか見えないんだよなぁ。くそぅ。

 :まぁ梨沙ちゃんはまた配信するって言ってるからそれを待て。ここは茜ちゃんの配信だしな。


 コメント欄は結構カオスだ。だがまぁそれは良い。問題は虫が苦手な梨沙にインセクト系モンスターと戦って貰わなければ行けないことだ。

 インセクト系モンスターの克服は梨沙には必須といえる。


「ぎゃー」


 ズバッと一メートル以上あるクワガタ型モンスター、スタッグビートルが羽を羽ばたかせ、飛びかかってきたところを茜が脇に回り、首と胴の関節部分と薙刀で切り裂く。

 同じく一メートル以上ある飛蝗型モンスター、グラスホッパーの突進を受け止め、最澄が短槍で首元に穴を開けている。


 十兵衛は梨沙に近づく全てのインセクト系モンスターの首を両手の忍者刀で落としている。ただモンスターが魔石に変わるまでに数秒のラグがある。殺してすぐ溶ける訳ではないのだ。

 故に襲いかかってくるインセクト系モンスターの姿と死体に、結界で守られていて安全な筈の梨沙はずっと悲鳴を上げている。


「ねぇ、もう今日一気に八階層抜けちゃわない」

「いや、もうちょい慣れてからじゃないと続きは危ない。魔の八階層と言われているけれどインセクト系モンスターに慣れるには最適な階層だとも言われているんだ。梨沙も結界から出て戦う練習をした方がいいぞ。結局中層とか下層とかにもインセクト系モンスターは出てくるんだから今のうちに克服しとけ」

「う~。わかった。やってみる」


 半分涙目で梨沙は結界を解き、魔法杖を構える。それを見て十兵衛は一匹だけインセクト系モンスター・グラスホッパーを梨沙の方に行くように仕向けた。


「いや~、来ないでぇ!」


 梨沙は障壁でグラスホッパーを弾き、仰向けになったモンスターの腹に魔法杖を突き刺した。それで倒せたのかモンスターは塵になり、魔石を残した。


「お、ドロップあるじゃん。羽だけど」

「え、もしかして持って帰るの」

「いやだって売れる素材だぜ。八階層の素材は結構貴重なんだ。敬遠されがちで中層に行く奴らは上の階層の素材を持ってくるからな。結構な高値で取引されていた筈だ。持って帰らない理由はない。ほら、もっと戦って慣れろ。梨沙の実力なら負けるってことはないから」

「うぅ、わかったよ。スパルタだよ十兵衛ちゃん」


 :確かにスパルタで草。

 :虫嫌いな女の子探索者に戦って慣れろは十分スパルタだよなぁ。

 :でもここ超えないと中層には行けないんだから慣れろは正しいんだよなぁ。

 :正しいからって、正論だからってそれを押し付けられる側は堪らないでしょ。

 :そうだけど梨沙ちゃんは自分で探索者になるって決めて十兵衛くん巻き込んでるんだから正論パンチされてもしょうがない。

 :上に行くには必須の階層と言うか、虫系モンスターに慣れて戦えるのは上級探索者の必須技能だから今のうちに克服するのは正しい。


 コメントでも十兵衛を擁護するコメントがある。十兵衛も梨沙には悪いとは思っているが、イヤならば探索者にならなければ良いのだ。

 本来梨沙は社交界など綺羅びやかな世界で生きて行く人種だ。それが何を考えたのか探索者になりたいといい出した。それも親を説得するだけの本気でだ。


 故に梨沙は苦手だろうとなんだろうとインセクト系モンスターに慣れなければならない。

 十兵衛は梨沙に甘い自覚はあるがここは心を鬼にしなければならないと決めていた。


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