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016.救助・護衛・感謝

 〈風刃乱舞〉は多くの風刃を発生させる忍術だ。本来なら風刃が乱舞するように多く飛ぶので制御は不可能である……十兵衛のように上忍でないのならば。

 つまり十兵衛は現れた十を超える風刃を見事に制御し、助けてと言ったパーティに当たらないように彼らを囲んでいるコボルトライダーやゴブリンライダーたちに的確に風刃を当て、全てのモンスターにトドメを刺した。


「十兵衛ナイス。後は梨沙と一緒に彼らを守ってやってくれ」

「了解」


 最澄は短槍を構えて未だ戦っている救助パーティたちに助けに入る。茜はまだ残っているライダーたちに吶喊するようだ。

 十兵衛と梨沙は倒れている二人の様子を見る為に駆けつける。二人は重傷で、このままでは出血多量で死んでしまうかも知れない。それほど大きな怪我を追っていた。


「こんなに七階層って多くのモンスターが現れるのか」

「最初は五体くらいだったんだけど手こずっている内にどんどん増えてきちゃったの。もしかしたら仲間を呼んだのかも」


 二人を見てポーションを掛けている一人の女性が十兵衛の疑問に応える。


「そのポーションじゃちょっと足らない。こっちを使ってくれ」

「あたしは治癒魔法掛けるよ」

「このポーション! 凄い高い奴じゃないですか。それに治癒魔法!?」


 女性は驚くが問答無用でポーションを傷口にぶっかける。確かに十兵衛が持っているポーションは市場価格は高い。なにせ百万円だ。女性が使っていたポーションは十万円のやつだろう。六、七階層で受ける程度の傷なら本来すぐに治す事ができる十分なポーションだ。

 ただ二人が負っている怪我はそれ以上だ。瀕死に近い。それほどの傷は十万円のポーションでは治らない。実際治っていないのだ。


「命は金では買えませんので」

「ありがとう、素直に礼を言っておくわ」

「〈治癒ヒール〉」

「本当に治癒魔法、それも練度が高い……」


 ポーションの力と梨沙の治癒魔法で二人は峠を超えたと言って良いだろう。防具は裂けたままだが大きな怪我はなく、苦しそうだった息も落ち着いている。目は覚ましていないが、このまま放っておいても死ぬ事はなさそうだ。


 そんなことをやっている内に茜と最澄は的確にモンスターたちを駆除していき、ようやくモンスターパレードと言われるモンスターたちを駆除できた。

 ただ十兵衛の忍術で半分以上倒したので二人で全部倒した訳ではないが、二人も怪我なく帰って来たので安心感が高い。


「ありがとう、助けてくれなければ本当にヤバかった。あとはリーダーたちを地上に……って傷が治ってる!?」


 救助パーティたちの男が話しかけてくるが、倒れている二人の傷が治っている事に驚いて呆然としている。そこに女性が高級ポーションと治癒魔法で治した事を説明している。


「うっ」

「リーダー!」

「岡崎くん!」


 そう言っているうちに怪我人の一人が目を覚ます。痛そうな表情はしていないのでしっかりと怪我は治っていると確信できた。


「俺は……、そうか。ウルフに噛みつかれて……って治ってる?」

「そうよ、こちらのパーティの方々が助けてくれたの」

「岡崎だ。感謝する。と、言うかチーム・暁じゃないか。そうか、君たちならあのモンスターパレードも苦にしないだろうね。お礼を言わせてもらう。あのままだと僕が死ぬだけでなくパーティ壊滅もあり得ただろうからね」

「あぁ、感謝は受け取って置く。帰りも危ないだろう。五層の転移球のところまで護衛するよ」


 十兵衛がそう言うと岡崎は深々と頭を下げた。残り三人のパーティメンバーもしっかりと頭を下げている。


「ありがとう。確かにこの状況で一人を担ぎながら五層まで帰るのも不安だったんだ。そこまでさせてしまって悪いな。使って貰ったポーション代なんかも必ず払う。良いポーションを使ってくれたんだろう」

「あぁ、まぁその辺はあまり気にしなくていい。ただ返したいと言う意思はわかったから、ゆっくりでいいから返してくれ。返すために無茶して誰か死ぬなんてことがないようにな」

「ははっ、痛い指摘だね。実際僕たちは七階層も行けると思っていた。だがこのザマだ。しばらくは六階層で修行を積んでから、また七階層以降に挑戦しようと思うよ。少なくとも魔の八階層と呼ばれる階層には早い事が今回の事で良くわかったからね。お、起きたか」

「……ここは?」


 岡崎と話しているともう一人倒れていた怪我人が目を覚ました。岡崎が十兵衛たちに助けられた事を説明し、これから五層の転移球まで一緒に戻ることになったことを理解した彼は深々とお辞儀して、しっかりと礼を言ってくれた。


「まぁ君たちが無事で良かったよ。これで壊滅寸前で三人死亡とかの状況だったら寝覚めが悪い」

「ははっ、俺たちは運が良かったな。なにせあのチーム・暁が通りがかってくれたんだ」


 そんな軽口を叩きながら岡崎たちと一緒に五層の転移球まで帰る。

 九人まで膨れたパーティであるが、七層から五層へ帰るルートでのエンカウントでは特に問題なく戦闘を熟せた。


 岡崎たちも実力はある。ただ運がなかったのだ。いや、十兵衛たちが助けに入るタイミングだったので運は良かったのかも知れない。

 十兵衛たちが通りかからなかったら、彼らは全滅の憂き目に遭っていた事はほぼ確定事項だ。


(運が良いのか悪いのかは難しいところだな)


 十兵衛はそう思いながら、索敵をしながら五層の転移球に全員を案内した。



 ◇ ◇



「チーム・暁の皆さん、救助ありがとうございます」

「止めてください。当然の事をしただけじゃないですか。とりあえず頭を上げてください」


 帰って来ると受付嬢が深々とお辞儀していた。流石に目立つので止めてくれるようにお願いする。


「上がチーム・暁さんたちに注目していて今回の配信を見ていたんです。それでちゃんと暁さんたちが危険を顧みずに救助され、更に高級なポーションも惜しげもなく使っていたじゃないですか。探索者は相互互助といいますがそれを体現されたのです。一受付嬢でしかありませんが、探索者パーティが全滅すると言うのはよくあることなのです。その一つを防いでくれた。それだけで頭を下げるのに値します」

「そうだぞ。俺たちだって逆の立場になったら助けてくれって言われても助けに入ったかどうか断言できない。でも風間くんたちは助けに入ってくれた。実際命を救われているからな、感謝してもしたりないくらいだ」


 岡崎にもそう言われてしまったが、十兵衛は梨沙が助けに行くと決め、更に状況を見て助けに入っても危険はないと判断したから助けに入ったのだ。

 これで茜や最澄にでも危険があると判断したら十兵衛は助けに入るのを止めただろう。

 そういう思いがあるので、少し後ろめたい気分になった十兵衛であったが、彼らの感謝は素直に受け取ることにした。


「これ、今日の分の魔石だ。手付として貰ってくれ」


 岡崎からは今日稼いだ分の全ての魔石とドロップの入った袋を渡された。

 岡崎たちのパーティは装備を破損している。これから金も掛かるだろう。それなのにスッと今日の上がりを渡し、更にポーション代も弁償すると言う。


(助けてよかったな)


 助けてから「助けなんて要らなかった。余計なことをするな」なんて言われたら十兵衛は一生他のパーティを助けたりすることはなかっただろう。

 そういう意味では初めて救助したパーティが良い人の集まりである岡崎たちであったと言うのは十兵衛の精神衛生上にとっても良い事だった。


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