015.サポート、救助
「十兵衛がサポート入るとめちゃくちゃ戦いやすいな」
「うん、凄い的確なところで手裏剣とか飛んできて安定感が違う。ヤバイ! って思ったところでそのヤバさが霧散するっていうか」
「ふふん、十兵衛ちゃんはサポートも優秀なのだ」
「だからなんで梨沙が偉そうなんだ。ただまぁ今のこのスタイルいいかもな。俺が先行して数減らすよりも、連携深めるのには合ってそうだ」
六階層を順調に突破して、十兵衛に寄り掛かり過ぎていると言う最澄と茜の意見により、十兵衛はサポートに徹することに陣形を変えた。
最澄がタンクとして前に出てそこに茜が並び、その後ろに十兵衛。そして梨沙と言う陣形だ。
十兵衛は忍者刀も抜かず、忍術も使わずに棒手裏剣や苦無などで二人が危険かもしれないと言うタイミングで投擲をする。そして梨沙は二人が危険なタイミングで結界を張る。
十兵衛の投擲は完璧なタイミングで敵の態勢を崩し、梨沙の結界を張るタイミングもどんどんと的確になっている。
これが連携と言う奴だ。もちろん忍者同士の高度な連携とまでは行っていないが、段々と連携として成り立っている。
:凄いよね!
:うん、最澄くん凄いいいパーティ入ったと思う。あ、前のパーティが悪かったとかじゃなくてね。もっと深くまで安定して潜れそうだと普通に思った。
:ってか忍者の万能さよ。スキル忍術って何? ユニークスキルじゃねーの?
:十兵衛くんは普通にヤバイ。ソロで十階層とか突破できそうなくらい突き抜けてる。
いつの間にか配信も閲覧者が五千人を超えている。三時間は配信しているのだがどんどんと増えていくばかりだ。SNSかなんかでまた話題になっているんだろうか。
最澄曰くこんなに人が来た事はないらしいので最澄目的の視聴者以外の視聴者が流れ込んでいるのだろう。コメントも早すぎて最澄も最初は拾っていたが、途中から拾うのを諦めたようだ。
視聴者が増えるについで、コメント数は多すぎるので、十兵衛は戦闘の邪魔にならないように戦闘中は切っている。もちろん他のメンバーもそうだ。コメント見ながらの戦闘なんて歩きスマホで高速道路を歩く以上に危ないのだ。
「まぁ七階層まで順調に進めたし、このまま行こう。六階層と七階層は出てくる数が違うだけでモンスターの強さはそう変わらないって言うし、普通に最短距離を行こう」
「おう、わかったぜ」
「わかったわ」
「さんせ~い」
賛同が得られたところで、十兵衛たちは六階層の階段を降りる。
階段を降りてすぐと言うのは基本的にエンカウントしない。大体先に潜っている探索者が倒してしまっているし、十兵衛たちがエンカウントするのは枝道から湧いてくるモンスターたちの群れだ。
最短ルートを辿っている場合、多くの探索者が同じルートを辿る為にエンカウント率は少なくなるのが常識だ。
ただ六階層で苦戦しなかったチーム・暁は七階層でもそう苦戦する事はないだろうと十兵衛は思っている。
油断……ではない。なぜなら十兵衛はまだまだ余力を残しているし、切り札になる忍術も幾つも持っている。少なくとも七階層だけなら十兵衛はソロですら切り抜けられる自信があるし、それだけの実力を持っていると自負している。
「それにしてもレベルアップの感覚って本当にあるんだね」
「あ、初めてレベルアップするとビビるよな。なんていうか身体能力が全体的に上がるんだよな」
梨沙がぽつんと溢すと最澄が拾った。
そう、梨沙も十兵衛も既にレベルアップを経験している。そして動体視力や反射神経を含む身体能力などが上がるのが実感できるのだ。
最澄と茜は経験済だろうが、十兵衛と梨沙は初めての経験だ。十兵衛も初めてレベルアップした時は心の中で「これがレベルアップか、凄いな」と呟いてしまったほどだ。
「もっともっとレベルアップして深い階層に潜って、上位探索者って呼ばれたいな~」
「わかる。ってかそれを目指してるんだけどな。上位探索者は自衛隊とか警察関係を除くとほんと少ないからまだまだ夢だけどな。もっと経験積んで、戦って、レベルアップして、装備も更新しないと上位探索者なんて夢のまた夢だ」
「う~ん、でもあたしは十兵衛ちゃんと一緒なら成れると思ってるよ」
「そうだね。十兵衛くんが居てくれるだけでパーティの安定感が全く違うから、私もこのパーティはもっと先に進めると思うな」
茜も会話に参戦する。広めとは言え洞窟型なのだ。正直風景に見飽きることはある。そして斥候の十兵衛が優秀である為に基本的に不意打ちされることはない。故に会話する余裕も持ててしまうのだ。
「あ、そこトラップあるから踏まないで」
「おう、すげぇな。トラップ感知もできるなんて」
「まぁこの程度のトラップは危険度が低いから踏んでも大丈夫だとは思うけど」
十兵衛はわざとトラップを踏んでみると右から矢が飛んできた。それを素手でパシッと受け止める。
「いや、実演しなくていいから。と、言うかトラップわざと踏むなよ。避けろって俺に言ってたろ」
「でも最澄だって今の矢程度なら避けれるだろ?」
「避けれるけど避けた先に茜や梨沙がいるかも知れないだろ。だから避けないで盾で受けるかな、俺なら」
「なるほど」
そんな会話をしながら、時折エンカウントをしてモンスターと戦って進んで居た時、事件が起こった。
「イヤーーーーーッ!」
「おい、聞こえたか」
「あぁ、聞こえた」
「行くか?」
「行こうよ! 絶対危ないって」
悲鳴が響き、それに最澄が十兵衛に向かって振り返って来る。助けに行くかどうか、それを十兵衛に問うて来たのだが、梨沙が助けに行く一択だと提案する。
十兵衛は梨沙の提案には逆らえない。正直見逃しても良いと思っていたが、行くことに決定だ。
それに探索者は相互補助の役割も与えられている。講習会でも危険な目に陥っているパーティを助けられるなら助けて欲しいと教えられるのだ。
「行こう」
十兵衛が言うと三人が即座に首肯する。
「おし、わかった」
「十兵衛くんなら行かないって言うかもしれないと思ったけど、行くのね」
「まぁ助けられる人は助けたいですからね。とりあえずうちはまだ余裕はありますし、治癒術士の梨沙もいる。救助にはもってこいのパーティでしょ?」
「そうね。それは間違いないわ」
全員で走りながらしゃべるが、茜の印象で十兵衛なら見捨ててもおかしくないと言うのが見破られていた。
(どこでそう思われたんだろうな)
直接聞く訳にもいかない。だが理由は知りたい。気になるがまずは要救助者の救助が優先だ。声が聞こえた先は最短ルート上だ。つまり普通に探索していて予期せぬトラブルに巻き込まれたのだろう。
「確かにヤバイな」
「うん、助けようよ」
「ちょっと待って、一言掛けないと」
状況は五人のパーティがモンスターに囲まれているところだった。だが五人のうち二人が既に倒れてしまっている。三人ではジリ貧だ。このままではパーティ全員が死亡するのも時間の問題だろう。
だが勝手に横殴りするのも探索者の中ではご法度だ。勝手に助けてはいけないのである。先に意思表示を確認しなければならない。それを茜はきちんと知らせてくれた。やはり経験者は強い。
「助けは要りますか?」
「えっ? 誰か来たの? 助けてっ、お願いっ。リーダーが重傷なのっ」
「わかりました。助けます」
そう言って十兵衛は駆け出した。当然最澄たちも付いてくる。
「俺が忍術を使って蹴散らす。そしたら残りの奴らを掃討してくれ」
十兵衛がそう言うと三人は了解とばかりに頷いた。
「風遁・〈風刃乱舞〉」
十兵衛の持つ技の中でも範囲攻撃に当たる〈風刃乱舞〉がモンスターたちに襲いかかった。