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103.甲賀と伊賀の頭領たちとの会合

「風間十兵衛様。これからお世話になります甲賀忍者を纏めている三雲みくも勘十郎かんじゅうろうと言います。深層探索者をしておりまして、三十六層まで潜った経験があります」


 三雲勘十郎が十兵衛に挨拶に来た。とは言っても勘十郎は甲賀を仕切る頭領だ。風魔で言えば琢磨に当たる立場である。その男が武装を解除し、十兵衛に傅いている。その光景が、どうも違和感の塊にしか見えない。

 琢磨並の気。強者の気配。だが十兵衛に忠誠を誓うと言う。十兵衛が死ねと言えば死ぬだろう。それだけの覚悟が感じられた。

 勘十郎の他にも幾人かの凄腕が跪いている。誰もが深層探索者だと言う。

 十兵衛が作るクランに入り、十兵衛の指示を聞き、探索者を続けると言う。


「本当にそれで良いのか? 俺は風魔を継いだ訳でもない。北条家との伝手はあるが、主従の関係でしかない。そしてまだ十八歳の若造だ。俺の下に付く事を皆が納得していると言うのか」

「納得がいかない。もしくは危険思想を持つ者は既に退場いたしました。残ったメンバー、甲賀探索者四百余名。サポートとして家族が居ますので千名余、全て十兵衛様の下に付かせて頂きます。ご指示を頂ければと幸いです」


 勘十郎の覚悟は本物だった。危険思想を持つ同胞は既に排除していると言う。嘘ではないだろう。忍者なのだ。離反など許されない。故に処断されたのだろう。


「処断された者たちの家族は?」

「流石に戦国時代のように連座とは参りません。甲賀の者たちで保護しております。彼らに取っては親や兄弟の仇。ただその責は私が受けましょう」

「ふむ、俺には向けさせない。そういうことだな」

「はい、以前十兵衛様を狙った俗物の首も、既に北条氏康様に提出してございます」

「どういう相手だったんだ」

「さる大企業の社長であり、梨沙様の伴侶の座を狙っていた俗物でございます。北条グループとは縁が薄く、規模も遥かに違います。まかり間違っても梨沙様とその者の息子が縁付く事はなかったと思いますが、十兵衛様との婚約が発表されました。それで逆恨みをしたようです」


 十兵衛はふむ、と少し考えて質問を続ける。


「それで俺を襲ったのか」

「以前借りがありまして、金に目が眩んだのではなく、仁義を通す為にあの仕事をお受け致しました」

「手強かったな。風魔忍者も数名危険に晒された。死人が出なかったから良いものの、死人が出ていたらお前たちの首はなかったぞ」


 勘十郎はしっかりと頷いた。


「わかっております。十兵衛様の手裏剣は気配を消している上忍を全て討ち果たしました。あの腕前、某でも真似できませぬ。流石十兵衛様と甲賀の者たちは納得しております。伊賀の者たちも雇われるとお館様はおっしゃられて居ました。伊賀の頭領もそのうち挨拶に来るでしょう」


 十兵衛は勘十郎の言葉を聞いて頷いた。考えるべきことは幾らでもあるが、まずは彼らの忠誠を信じる事から始めようと思った。当然信用も信頼も雨後の筍のようにボコボコ生えてくる筈もない。まずは実績を、そして実際に働いてもらい、その働きを見て決める事にした。


「わかった。とりあえずお前達には待機を命じる。次の命あるまで、今まで潜っていたダンジョンで通常通り探索を続けろ。必要とあれば呼び出す」

「それでは某の息子、方次郎を人質兼連絡役として残して起きます。今の時代、スマホがあれば日本のどこでも連絡が取れる次第。便利な物でございますな」


 そう笑い、方次郎を置いて勘十郎は去っていった。

 勘十郎の威厳は琢磨に通じる処がある。甲賀を纏めていた長としての貫禄がある。そしてその男が十兵衛にこうべを垂れたのだ。必要があれば使い捨てても構わないと。命令があれば死地にさえ向かうとはっきりと言いきった。

 それだけ庇護者が欲しかったのだろう。仕える相手の居ない忍者と言うのは辛いのだ。それは忍者と言う生き物の宿命といえるだろう。仕え甲斐のある主君が欲しい。そう考えてしまうのだ。

 現代的ではない。むしろ甲賀も伊賀も、探索者として十分な功績を果たしている。名古屋ダンジョンや大阪ダンジョンが主だが、下層や深層に潜っているのだ。日本人から見たら英雄の軍団でしかない。

 だが忍者と言うのはそういう物ではないのだ。生き様として、主君の為に働く。それが遺伝子に刷り込まれている。そして十兵衛たちは氏康という良い主君がいる。彼らには居ない。それだけの差なのだ。


「厄介なことだな」


 十兵衛はそれだけ吐き捨てて、彼らをどう扱おうか真剣に考え出した。



 ◇ ◇



 目の前には伊賀の頭領だと言う藤林才蔵と、甲賀の頭領である以前会った三雲勘十郎が並んでいる。方次郎も付き従っている。藤林才蔵の後ろには美しい娘が付き添っている。高校生くらいだろうか。

 可憐、の一言に尽きる。だが内包する気は並ではない。少なくとも中層探索者クラス。ただの綺麗な華ではなく、毒やトゲを持つ華だ。

 彼女は十兵衛と目を合わせるとにこりと笑った。

 十兵衛は一人で会っているのではない。琢磨と静、十兵衛が上座に座り、そして風魔の幹部格たちが彼らとの面会を見張っている。

 下座には伊賀と甲賀の頭領たちが跪き、それでもなお頭領としての威厳がある。頭を下げたからと言って一片も彼らの誇りに傷は入らない。

 長い時代、忍者として連綿と続く歴史を守っていたと言う自信が身体中から吹き出ている。十兵衛にはまだ真似できない貫禄がある。


「風間琢磨様、静様。十兵衛様。お目通り頂き、ありがとうございます。甲賀一同の代表として、この勘十郎、感涙に耐えません」

「某も同様でござる。風魔小太郎の名は全国に鳴り響いてござる。この藤林才蔵。お目通りの機会があるとは思わず、しかしこの機会を逃してはならぬと思っております」


 二人の頭領が、伊賀と甲賀の忍者が平服している。全ての武装は解除され、含み針や歯に仕込んだ毒さえ取り除かれて、風間の家にある服に着替えさせられてそこにいる。


「良い、我らはこれから北条家に仕える同胞となるのだろう。それほど畏まるな」

「先達に頭を下げずしていつ下げましょう。我らは風魔の下。そう北条のお館様からもはっきりと告げられています。その上で我らは了承してこの場にいるのです。是非我らの矜持をお受け取りください」

「それは伊賀も同じ事。徳川家についた服部家は別ですが、伊賀の者たちは既に北条家の者。そして北条家に幾百年仕えていた風魔の方々には畏敬の念を覚えずには居られませぬ。部下としてこきつかってくだされ。使い捨てにされても文句は言いませぬ」


 琢磨は許したが、勘十郎と才蔵は常に風魔の下にあろうとする。北条氏康に忠誠を誓っているが、実際に運用をするのは琢磨だ。


「十兵衛、そう言っているが俺はお前に彼らを預けようと思っている。お館様が十兵衛に人を使う事を覚えさせろと言うのでな」

「なっ、伊賀と甲賀両方を俺にですか!? 探索者だけで千人を超えますよ!?」


 十兵衛は驚いて立ち上がりそうになった。だがこの場で狼狽えては行けない。大声は出してしまったが、ぐっと我慢して上座で、四人を見下ろしながら座っていた。


「そうだ。クランを作るのであろう。ならばそれに紛れ込ませれば良い。次代の風魔は風魔・甲賀・伊賀・連合軍となる。どれほどの戦力かわからぬお前ではあるまい。どんな勢力でも落とすだけの力がある。日本で最大級の武力組織。それが現状の風魔だ。そして十兵衛、お前にはそれだけの器量があるように育ててきた。指揮もできるであろう。先日の甲賀の襲撃を見事退けたのは十兵衛の働きが大きかったと九郎が褒めておったぞ。もう只の十兵衛ではいられないのだ。時は少し早いが、それだけの物が求められている。期待には応えなければならぬだろう? わかるな、十兵衛」

「はっ」


 琢磨にそう言われてしまってはやらないと言う選択肢はない。氏康からの指示も出ているのだろう。

 とりあえず幾つかのパーティは新しいクランに入れ、残りは大阪、名古屋ダンジョンを攻略させる。いや、広島のダンジョンや福岡のダンジョンを攻略させても良い。どこのダンジョンも強力な忍者の探索者は必要としている筈だ。

 十兵衛は新宿からは動けない。だが、伊賀甲賀合わせれば千人とまではいかないが近い数字の探索者が十兵衛の下に付くのだ。大クランどころではない。しかもこれから高校生になる甲賀の者、伊賀の者、風魔の者はどんどんとダンジョンに潜る。大学生になる者もそうだ。大学に入らず、ダンジョン探索を主とする者もいるだろう。

 それら全ての統率を十兵衛がする。それを考えただけで頭がクラクラするような気がしてきた。


「それで、一つ提案があるのですが」

「なんだ、言ってみよ」

「我が末娘、椿を是非十兵衛様への側室へと召し上げて貰いたく。これが伊賀の誠意でござる」

「なっ、ならば我が娘、霞も十兵衛様へ召し上げて頂きたい。甲賀の誠意を受け取って欲しいと思います」


 梨沙との婚約に浮かれていた十兵衛は才蔵と勘十郎の提案にズガンと頭を殴られた気がした。


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