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010.梨沙の実力と十兵衛の忍術

「梨沙、次はゴブリン二体だ。やれるか?」

「やれるよ、十兵衛ちゃん!」


 梨沙は自身満々に姿を現したゴブリンに向かって歩いていく。待ち構えもせず、走りもしない。

 ただ梨沙の付けている防具はゴブリン程度の攻撃では一切ダメージを与えられないと言って良い。飛び上がって頭に棍棒の一撃でも受ければ別だが、梨沙の実力から言ってそんなことはありえない。

 十兵衛は大丈夫だろうと送り出したのだが、茜と最澄は心配なようだった。


「なぁ、梨沙ちゃんって後衛だろ? 戦えるのか」

「えぇ、回復役なんでしょ。前で戦わせるなんて普通しないわよ」

「梨沙はゴブリン程度なら楽勝ですよ。見ててください」


 :マジかよ、梨沙ちゃん戦えんの。

 :あの格好明らかに魔法使い系だよな。魔法使うのかな。

 :二階層で魔法使うとか相当レベル高い。と、言うか二階層じゃ魔法のスキルオーブは落ちない。つまり相当お金持ちかプリマヴェーラのどっちかだ。それでいて魔法で焼き尽くすとかしないってのはどうやって戦うんだ?


 最澄と茜だけではなくコメントもざわざわとしている。十兵衛としていれば黙って見ていろ、といいたくなる。

 ゴブリンが動いた。梨沙はすっとゴブリンの棍棒を躱し、魔法杖でゴブリンの後頭部を強打する。そして二体目のゴブリンの足を魔法杖の柄で引っ掛け、転ばして石突き部分で首に突き立てた。


 梨沙の魔法杖は石突き部分が尖った金属製だ。しかも使っている素材はミスリルである。当然そんなのにゴブリンが抵抗できるわけもなく、二体のゴブリンは呆気なく魔石になった。


「凄い」

「めっちゃ安定感あるな」


 茜は梨沙の立ち姿や歩き方だけで梨沙が「ヤれる」部類であることはわかっていたと思うが、最澄は呆然と言った感じになっている。

 なにせ梨沙は魔法職であると言うのに魔法を使わずに、タンクやアタッカーである最澄や茜と同様に武器だけでゴブリンに危なげなく勝ったのだ。


 :おいおい、魔法とか使ってねぇぞ。

 :普通に物理だし。

 :と、言うか俺より動きいいんだけど。梨沙ちゃんマジなにもの。


 コメントも同様に驚きに包まれている。梨沙は北条家のスパルタ教育で古武術を習っていて段も持っている。皆伝ではないが、皆伝は四十代以上の何十年もやっている門下生に与えられる物なので梨沙が持っていないのは仕方がない。


 ただ梨沙は素養があるようで、このまま続ければ皆伝に届くと師範に太鼓判を押されている。少なくともゴブリン程度、魔法を使うまでもない。

 と、言うかゴブリンの強さは大体小学生高学年レベルだ。ただ躊躇なく殺しに来るのでそれが怖いと言うだけで、戦って勝つだけなら武道を習ってない高校生や大学生でも余裕で勝てるのである。

 だからこそ一層の最短ルートや二層の最短ルートはゴブリンが排除されて戦う事ができなかったのだ。


「まぁ梨沙はあのくらいはできるよ。でも梨沙は大事なヒーラーだからきちんと二人にも守ってほしい」

「うん、わかったわ」

「おう」


 梨沙は魔石を拾うとたたたっと走り寄って来た。


「ブイ!」

「梨沙、お疲れ様」


 にっこりと笑ってVサインを作る。活発な梨沙らしい。その笑顔が可愛いなと十兵衛は思いながら、梨沙に労いの言葉を掛けた。


「二層だと連携訓練って感じじゃないな。これさっさと三層か四層行かないか。あっちならゴブリンライダーとかも出てくるし、四層は数も出る。そこで連携訓練しようぜ」

「うん、わかった。じゃぁ正規ルートに戻ろう。ゴブリンと幾ら戦ってもそんなお金にもならないしね」


 なにせ今まで倒したゴブリンの魔石が一個五百円だ。今日の稼ぎは四人で四千五百円。命の掛かった探索としては安すぎる。

 もちろん低階層であり、どちらかと言うとレジャー層とか駆け出しの為の階層なので稼げないのは当然なのだが。


「それより十兵衛。忍術見せてくれよ。気になってしょうがないんだ」

「私もっ、忍術とか聞いた事ないわ。実際調べてみたけれど忍術ってスキルオーブは発見されてないのよね。つまりほぼユニークスキルなのよ」

「う~ん、じゃぁ第三階層で見せようか。そこで実演するよ」

「十兵衛ちゃんの忍術マジ凄いよ。期待しててね」

「だからなんで梨沙が偉そうなんだ」


 そんな会話をしながら十兵衛たちは最短ルートで二階層を後にした。



 ◇ ◇



「三階層だと少ないけどエンカするな」

「あぁ、このままのルート行こうぜ。連携訓練のメインは四、五階層だろ」

「そうだな。下調べした感じそこらへんでやるべきだと思うから三階層はさっさとクリアしちゃおう」


 十兵衛たちが三階層をそれなりに進むとゴブリンに稀に出会った。そして更に稀にゴブリンライダーが交じるようになってきた。だが最澄がしっかりライダーを止め、そこに茜が斬りかかる。それだけでゴブリンライダーは倒す事ができる。


 つまりライダーが稀に交じる程度のゴブリンの相手はチーム・暁に取っては連携訓練にすらならないのだ。

 なにせ後衛であるはずの梨沙ですら危なげなく戦えているのだから。


「でも忍術は見せて置こうか」

「そうね、見せて貰いたいわ」

「あぁ、四層とか五層でいきなり見せられるより余裕のある今のうちにみたいな」

「じゃぁ次のエンカで見せるよ。危ないからちょっと離れて居てね。誤射するつもりはないけれど、威力がどんなもんか知らないと思うから」

「おう、わかったぜ。と、言うかそんな威力あるのかよ」

「魔法に似た感じなのかしら」


 最澄と茜から十兵衛の忍術が見たいと言われたので十兵衛は隠す気もないので見せる事にする。

 と、言うか階層が進めば必ず忍術に頼らなければ行けない場面は出てくるはずだし、梨沙の安全の為に忍術を秘匿するなんて事はありえない。

 そしてパーティメンバーである最澄や茜にも見せて置いた方が良いに決まっている。故に十兵衛は快諾した。


「あっちに三体のゴブリンがいるからそれに初級忍術の火遁を撃ち込むからそれを見ててくれ」

「わかった」

「忍術とか見るの初めて。楽しみ~」

「十兵衛ちゃんの忍術は凄いんだよ!」

「だからなんで梨沙が偉そうなんだよ!」


 十兵衛は梨沙にツッコミながらゴブリンに近づく。と、言っても距離はまだ二十mくらいはある。五十mまでは射程距離だがそれだと威力の程がわかりづらいだろう。


「火遁・〈蒼火炎〉」


 メラメラと蒼い炎が現れ、それがドンと言う音とともに発射される。

 纏まって通路に居たゴブリンたちは一瞬で焼き尽くされ、灰になった。


「は?」

「え?」

「ね、凄いでしょ?」


 最澄と茜は目が点になっている。披露したのは初級忍術だったのでそんな反応をされるとは思ってなかった。だが十兵衛はコメントに目を移して十兵衛は自身の方が常識外れだったことを知った。


 :すげぇぇぇっ!

 :なんだあれ、忍術って普通の火魔法よりも凄くない?

 :火魔法のスキルオーブとか普通に三億とかするよな? それでもあんな威力出すには相当熟練しないとあの威力でないはずだぞ。

 :アレで初級? マジで? 私の魔法と威力が違うんだけど……。


 ちらりと見たコメントだけでこれだ。

 十兵衛は当然として梨沙も十兵衛の忍術の威力は知っている。だから当たり前だと思っていたのだが、思っていた以上に十兵衛の忍術は常識外れだったらしい。


「まいったな、まぁいいか」


 かと言って忍術を制限する必要などない。これからもバンバン使って行くつもりだ。常識外れだろうがなんだろうが、上には上がいる事を十兵衛は知っている。父、琢磨と戦って十兵衛は勝てた試しがないし、師範をやっている兄はやはり十兵衛並に強い。


 忍術は相性もあるので一概にどちらが強いとは言えないが、少なくとも風魔小太郎の名を継ぐのであれば兄になど負けていてはあり得ない。


「まぁこんな感じだ。他にも色々使えるがそれらはおいおい見せる事にするからこういう事ができるって覚えておいてくれ」

「わ、わかった」

「わかったわ」


 最澄と茜はやはり少しボーっとしていた。


(いや、ダンジョンなんだから警戒しろよ!)


 十兵衛は自身の見せた忍術で二人がそうなったことを脇に置いて、心の中で突っ込んだ。




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