語り部の昔語り
僕達は、暫くその大木を見つめていた。
この木は、いつ頃から此処にあったのだろう。幹は直径が5メートルくらい在りそうだ。
こんな深く森に入る村人は、居なかっただろうが、祖父はどうだっただろう。偶に2,3日ぶっ続けで獲物を追っていたようだったが、祖父からはこんな話は聞かなかった。
天眼を開いて木を見る。『世界樹の幼木・・樹齢・千年』
幼木、と言う事は、まだまだ大きくなる、ということか。
世界樹とは、この世界では初めて聞くが、前世ラノベでは、エルフと仲良しだったはずだ。此処はエルフなどいない。あの精霊族達の国にも世界樹が在るのだろうか。
何故か、そばに寄ろうとすると、はじかれて仕舞う。
僕はこの木に「枝を分けてください」と声を掛けてみた。すると、かなり上の方から、シュルウーと音がして、小さな若木が落ちてきた。
その若木は1メートル位で、葉が5,6枚付いていて,赤い実が一つ葉の中に隠れるように生っていた。
「あ、兄貴、木とお話もできるんすか?すごいっす」
「っんなこと在るか!偶然だろう!」トム兄が、スパコーン!とヨウゼフの頭を叩いて,突っ込んだ。
☆
クルスに帰ってきた。
僕の収納には沢山の苗木や、種が入っている。この間の世界樹の苗木も入っていた。コロニーのおばば様にこの木を見て貰いたくて、今コロニーに来ている。
三つ子達もそこに居て、村の世話焼きが面倒を見ていた。僅か数ヶ月で彼等は走り回って、ヤンチャな動きがかわいらしい。僕の周りに纏わり付いて、かじったり、僕の肩に乗ったりしていた。
「此はわしも、見たことがないのう。」
「世界樹の苗木と言う事なんですが。」
「世界樹?聞いたことないのう。精霊樹なら、語り部の話に出てくるぞい。」
「その、話、聞かせてもらえませんか?」
ばば様は、僕に語り部の老人を紹介してくれた。
例の如くその老婆は「むかし、むかし」の語り口調から語り始めた。
☆
昔むかし、在るところに、大層大きな木があってのぅ。
大きな木は、精霊樹と呼ばれていた。精霊樹は精霊のゆりかご。精霊が生れる処じゃ。
精霊はそこから動かず,そこで生れ,そこで死んでいく。精霊樹はこの世界至る所に生えていた。
特に大きい精霊樹。精霊樹の元木は精霊族の国にあった。その木は高い山より高く、深い谷より深く根を張り、その地に恵みをもたらした。マナを吸いマナを出す。マナで呼吸する木じゃった。
獣人族も人族も皆この恩恵に預かっていた。
しかし在るとき、精霊樹は消えて仕舞ったのじゃ。
この世界は縮んでしまい精霊樹はどこにも生えておらん。おしまい。
☆
老婆の話口調はのんびり,ゆったりしていて、これだけの話を、不思議な抑揚を付けて時間を掛けて話し終わった。
僕は眠気に誘われた。何時の間にか三つ子も僕の傍らに居て、眠ってしまった。膝の上に抱き寄せ、もふもふした、柔らかい毛をそっと撫でても、子供特有の深い眠りから目覚めない。
思う存分、なで回して仕舞った。